第26話

けっきょくルネが新しい植物に関する魔術を教えることで何とかチャムシィの興味を逸らすことができたが、ヒロトもルネも、何となく前世のことは放さない方がいいと考えていることを再確認できて、それはそれでよかった。

それよりもデラの見合い予定と魔術師として試験を受けることをどう折り合いを付けさせるのかが急務だ。

いや、急務ではない。

猶予は一応まだ少しある──が、もしデラが宿屋を継ぐよりも魔術師になると言ってしまったら、お見合い話がなくなるどころか早まって2年か3年後になってしまうことだって有り得る。

「マジでさぁ……長男継承って何だよな?」

「いや、うん……ニッポンでも……ゲフン、ゴフン……ほら、ね?あったでしょ?特にお年寄りは……」

「あー……うん……俺はあまり関わらせてもらえなかったからあれだけど……前のじいちゃん……今の、じゃなくって……なんか大きい病院の先生で、その跡継ぎがー…とかって話していた」

それはぼんやりとしか覚えていない、母親の葬式の時。

いや、ひょっとしたら法事の時だったかもしれないが──「こんな時に話すなよな」と思った記憶だけはある。

「でもやっぱりやる気ある人が、その仕事の後を継ぐっていう方がケンセツテキだと思うんだよね」

「オゥ!ケンセツテキ!日本人ジャポネのその難しい言い方、ボク好きなんだよね!」

その言い方の何がいいのかわからないが、ルネはニコニコと笑っている。

「それはまあ……たぶん、親父の方がもっと難しいこと知ってるし、ルネだって知ってるんだからふたりで話せば?」

「う~ん……でも、ふたりでヒミツの話をする時は英語アングレーゼの方が多いから……日本語ジャポネではあんまり込み入った話は……」

「いやいや、今話している言葉は?!」

ヒロトもルネも、そしてもちろんアキも普通はこの世界の言葉を話しているのだから、わざわざ前世の言葉で話さなくても…と思うのだが、思考的に自然と前世の言葉で考えていることがあるらしい。

「さすがバイリンガル……」

しかもルネは二ヶ国語どころか5つも6つも違う国の言葉を使えたらしい。

「頭のいい奴はズルいよな~」

そんなことを言いながら、潜在的バイリンガルであるヒロトは、やっぱり解決できていないデラとグラの後継ぎ問題に他人ながら頭を悩ませるのだった。



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