第36話
とにかくどうやったのか、アキとルネは妊婦さんのお腹の中を写す『感熱写真』的な物を完成させた。
もうどうしてそうなるのかわからないが──そしてわかったことは、やはり赤ん坊は双子だった。
「あれって父性因子だっけ?父親が双子だと、子供も双子になりやすい……とかって」
「え?そうなの?でも、ひとりっ子でも双子ができたりするよね?」
「う~ん……そこまで遺伝子学については詳しくはないんだけどね……不妊治療で複数卵子がどうとか、本来は双子だったけど片方が何らかの原因で母胎の中に吸収されてしまった……とかね」
「ほへぇ……」
「こっちではまだ不妊についての原因究明もそれを補うための学問もないし、自然妊娠が常識だから、僕たちの前世にあったような医科学の発展はまったく無いか、まだまだ見込めないだろうね」
「じゃあ、どうやって産むの……?」
「それなんだよねぇ……」
産まれる前に『彼女のお腹の中には赤ん坊がふたりいるから、ちゃんと取り上げてね!』と助産婦に言えるわけがない。
ましてやそれを知っているのが男のルネで、夫であるロメウス先生は全然知らなかったとなると、今度は不貞疑惑が産まれてしまう。
だがその問題について、父の様子がおかしいことにヒロトは気が付いた。
「……どうしたの?」
「……怒らない?」
「何が?」
「……君のお母さん……えぇと、こっちで産んでくれた人じゃなくて、カミサマになっちゃった人の方……なんだけど」
「うん?」
ゴクリと唾を飲み込み、アキは上目遣いで降参するように片手を上げた。
「ごめん。相談もせずに……ゆか……女神バーシュナーが……『神託してあげる!』って……」
「しん……たく……?」
「うん……その、尊いふたりの子供が産まれるよ……って。その、ひとりの女性から同時に……って」
それはない!!
ポカンとヒロトが口を開ける。
少なくとも『同時』ではないはずだ。
「だ、だって……その、双子って……いっぺんに産めるものなの?」
「いやいやいやいや!それはさすがに!無いよ?無いけど……だから、その……助産婦さんに『双子の取り上げ方』っていうのを念波で教えて、いざという時はその記憶で双子を……で、もし逆子になっていたら王都とか大きい病院に連れて行って……」
「いやいや!もうそれって無理でしょ?!その『神託』ってやっちゃった後なの?どうなの?」
「……あと」
思わず立ち上がったヒロトは、アキの言葉を聞いてドサッと椅子に座り直した。
「……だとしたら、きっと偉い人たちは絶対この町で産んでくれってなるよね……」
「なる‥‥‥っていうか、なってる……ねぇ~…ヒロトくぅ~ん……どうしよう~~~……」
「知らん!!」
確かにイリーナさんとお腹のふたりの赤ちゃんが無事に産まれてくるために、ちゃんとした知識のある人がいたらいいだろうが、女神様まで動くってどんな世界なのだろうか。
「さすが…異世界……」
「なるようにしかならないけど……とりあえず、ロメウス君たちから赤ちゃん取り上げられないようにしておかないとね……『神の子』とか言って教会が連れ去っていかないようにしないと」
「わ、わかった!!ルネとの友情のためにも頑張るよ!」
「頑張るって……親父、何するつもりだよ?」
罪悪感からかアキがグッと力を籠めるのを見て、ヒロトが呆れたような溜め息を吐く。
「と……とりあえず、ロメウス先生たちの家の周りの土地、買い占める?」
「はぁ?!何でだよっ!!!」
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