第37話

しかし父の発言は本心だったようで、数日のうちに話が進んでしまった。


ヒロトがいつものようにチャムシィたちと一緒にロメウス先生の家に行くと、父とルネが町長と共に畑から向こうを見て、何か話している。

「……どうした?お前の親父」

「う~ん……なんか、イリーナさんの出産が心配だから、ここの土地買うかって……」

「はぁ?!」

端折ればまったく意味不明だが、ヒロト的にはなんとなくわかる。

たぶん、父たちが作ろうとしているのは産院だ。

町にも医者はいるが、専門医というわけではない。

ものすごく技術が拙い割に、病気でも怪我でもなんでも引き受けてしまうちっちゃい総合病院的な個人医院と呼べばいいものだが、出産は自宅で行うのがほとんどで助産師を呼ぶのが通常だから、出産異常に対する処置や帝王切開などは無経験。

そんな者に双子を無事に取り上げ、母胎も異常なく処置せよなどと言ったとしたら、絶対「母親を諦めるか、子供を諦めろ」と言われるのが関の山だろう。

ならば正常出産以外の手術や助産経験者を呼べる施設を作ってしまえ──が、父たちの思惑である。

そうすれば運任せの双子出産による母子死亡を防げる確率は、ずっとずっと高くなるはずなのだが──ヒロトの浅い知識では友達に説明するのは難しかった。



最初は町長も渋っていたらしいが、前世の母である優香里──この世界の女神バーシュナーが父だけでなく町の教会へも神託をおろしたということで、郊外にあるロメウス先生宅横に小さな産院が建てられることは許可が出た。

ただし、出産を『入院しなければならないほど』の大事だと捉える人はほぼいなかったため、何の建物だかわかってもらえるのはまだまだ先らしい。

「まぁ、何だって最初は怪しまれるのが常だからね!だいたい田舎暮らしは皆健康なのが当たり前で、普通分娩ができない妊婦さんは亡くなってもしょうがない……が常識っていうかさ」

「言いたくはないけど、その水準は早く前世並みに上がってほしいけどね〜」

「やっぱり『魔法』が当たり前にある世界では、それを科学に置き換えて考える前提がないというか、科学の発展がそんなに重要視されないというか」

「そよおかげで、アキの『発明品』が好事家を中心に売れるっていう矛盾が出来上がるんだけどね〜」

アハアハと酒に酔い、笑いながら喋る二人の大人を、ヒロトはぼんやりと眺めている。


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