第45話

とりあえずヒロの恋愛対象はたぶん男子ではないと、ヒロ自身は感じている。

かといって女性に関して「綺麗だなぁ」とか「優しそう」という以外に特別な感情はない。

何せ実母のネグレクトと金銭への意地汚さに辟易しているから、性的魅力を感じることを無意識に拒否しているからだ。

だからどうして父が母と結婚することになったのか、どうしても疑問に思う。

「って言われても……」

「単に『選択肢がなかった』とも言えるよね」

アキとルネが顔を見合わせて頷く。


選択肢?


「アキには『細工』の才能があった。鋳造とか技術道具師アーティファクチャ―としてね。だとすると、この世界では同じアーティファクチャーがその技術才能を囲い込むために、若い弟子たちの家同士で結婚させたり、自分の子供と結婚させたり……」

「あ」

そうだ。

そうだった。

ヒロトの今の母は、アーティファクト・オルフェイス工房の次女である。

本人が望もうと望むまいと、工房内の才能ある者に嫁がされるのは時間の問題だった。

しかも本来なら離縁という恥ずべき結果に終わったはずなのに、いまだにヒロの祖父が長である工房内の若い男と再婚しながらも、いまだに容姿の良い工房の者と出歩くことを辞めてはいない。

いいかげん陰で笑われていることに気付いてもよさそうなものだが、実母は自分自身の快楽と着飾ることにしか興味がないようだ。

それならば『産んだ』という以外には興味を失った息子のことなど捨てておけばいいのに、母親らしい愛情ではなく、これまた『アクセサリー』のひとつとしてか元夫から金をせびるためにか何かと付きまとわれてウザい。

「でも『見本』の片方がアレで、もう片方が『コレ』だもん。結婚にも恋愛にもあまり夢を持てないっていうか……」

ヒロトが指を差すのは目の前で頬をリスのように膨らませている父である。

「ンン…ングッ?!な、何?何なにナニ?!僕?僕ダメなの?!」

「ダメっていうか……あまりにも女っ気がないから……親父って、本当に男の方が好きなんじゃないの?」

「ブハァッ!!」

「ウワッ!!きったねぇ!!」

盛大に吹きだしたスープを避け、ヒロトはキッチンへと慌てて走る。

一方同席しているルネはといえば、自分の方に被害がなかったせいもあって顔を隠し、肩を震わせながら声を殺して笑っていた。



そうするうちにヒロトの行動範囲は、家とロメウス先生の教室と隣り合っているシュー女医のいる産院という三ヶ所のみとなり、祖父の工房にすら行かなくなった。

用事があれば父の工房へ使いがあり、そのまま伝言されるか探しに来るだろうと気にもしていなかったが、思ったより祖父は孫であるヒロトに興味がないらしい。


──と思っていたのだが。




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