第30話 世界は恋に落ちている★
それは雨粒の塊も見えない穏やかな朝のこと。
私とアサヒは彼らに連れられて秘密の場所へと向かった。何しろホシノのお気に入りの場所のようだ。
川を渡り踏みなれた地面を踏み歩き、フリスピーを投げ合っているコートを横目に通り過ぎていく。
ひたすら歩いて深い森の中。
ひっそりとした雰囲気が漂う。
木々が陽射しを遮って暗闇に近い。
「もうそろそろ着くよ。とっておきの楽園に、ね」
暗がりの中に現れる白い霧。
いや、それは霧ではなくて白い羽だった。
目の前が見えない。沢山の流動する羽に流されていくのが分かる。今どうなってる。
「乱雑な方法で連れてきてごめん。だけど、ここは秘密の場所だから。こうするしかなかったんだ。許してくれないか」
ふんわりとした感触。私は花園の上に寝転んでいた。
「ここはどこ?」
そこだけ学園の独特な雰囲気がない不思議な空間だった。普通なら感じえない場所に心打たれるだろう。
私には見覚えがある。
見たことはないものの雰囲気が同じだ。ルシファーや謎の女性ヤトミのいたあの場所と。
「真実を知る者が辿り着く秘密の花園。ここには無数の悲哀と美愛なる百日草が花咲いている」
美なる白と黄色に映え、その場に立っているホシノ。彼はその花を一つ摘んで悲しそうな笑みを浮かべていた。
「ここには僕と君しかいないけど、少し離れたところにリンクウと共にアサヒがいる。もちろん無事だから安心していい」
どこか虚しいような瞳を向けている。
それが私を不安にさせる。
アサヒは無事にいるのだろうか。付き人としてアサヒを守らなきゃ。
「アサヒはどこにいるんですか?」
「向こうにいるよ。真っ直ぐ歩いて突き当たりを左に行けば会えるよ」
私は黄色の花を足で掻き分けて進む。
ホシノの横を通り過ぎた。
「ナルミはどうしてそこまで躍起になれるののかい。彼は無事だと保障するよ。それでも行くのかい」
「私はアサヒの付き人だから。何があってからじゃ遅いんです。私が着いてないといけないんです」
「素晴らしい使命感だね。どうしてそこまで君を突き動かすんだい。先輩だから言うけど、そこまで頑張らなくていいと思うよ。君の突き動かす要因が知りたいな」
「私は頑張らなきゃいけないんです。サクリの家で執事になるために一緒に学んだ仲間は執事には、付き人にすらなれなかった。ここで働けなくなった彼の分まで私は頑張らなきゃ、って思うんです」
「そうなんだ。それは
彼に説得されたから足が止まった訳じゃない。
''死んだ''と言葉が私の足を動けなくしたんだ。あまりにも意味が分からなくて、どう反応すればよく分からなくて足が止まったんだ。
「フキが死んだ……」
「ごめん。そうだったね。君はまだ知らなかった。
優しい白い羽が暖かく包み込んでいく。
今度は体を包み込む温かい優しさが私を包み込んでいった。
天使の肌が私に密着する。
抱きしめられた私の頭は徐々に白くなっていく。
「本当はこんなシナリオじゃなかったんだ。それでも、どうしてもこれだけは言わせて欲しいんだ」
私とホシノだけの空間。
純白と黄色に染まった神秘的な空間。
「僕は君を見て大切な人と重ね合わせていた。雰囲気がすごく似てたんだ。そして、見てる度に心が揺れていった。天使と人間の恋は天使界じゃ御法度だ。それでも僕はこの気持ちを抑えきれなくなっていたんだ」
顔がすぐ横にある。
温もりを感じる。そして、芯から感じる本音。
「ナルミのことが好きだ。付き合って下さい。それが禁断の恋だとしても──」
頭が白の私にはうんともすんとも拒否なんてできなかった。
白がさらに白くなって、私の脳内の時間が止まった。
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