第12話 シルエット★
二回目の坂は少しばかり大変だ。
足が重くなっていく。歩けば歩くほど透明の足枷に錘が増えていく。
「大変だろうけど、前へ進むぞ」
より一層高い所へと進んでいく。周りは急斜面坂となっていて斜面付近で足を踏み外せば一溜りもない。ただ、道通りに行けばその付近に行くことはないだろう。
ようやく小山の頂きへとたどり着いた。
少しばかしここで休憩でもしたい気分だ。
「疲れたよー。動けない。バタンキュー」
「そうだな。疲れたな。ここまでよく頑張ったよ。マイプリンセス」
隣ではもう疲労感を顕にしていた。そんな彼女にハルは右手にキスを施した。
「マイプリンスの愛を貰って元気五倍になった。よーしっ、まだまだ行けるよっ」
近くではゼンジが楽しそうに笑ってた。
「ちょっと休憩挟まないとやばいんじゃないかと思ったけど、まだまだ大丈夫そうだよな」
「その通りだな。元気があるってことはいい事だ。肝試しだってもう終盤だ。あと少しの辛抱だしな」
三つの灯火が周りを明るく照らす。
残りの活路ももうすぐ終わる。
再び足を運んだ時、ふと罠のようなものが作動した。
足元から出てくる煙がランプの灯りを惑わせていく。空にある月の
「落ち着けよ。これは俺の悪戯道具の一つ白煙トラップだ。煙は無害だ。焦ることはない。煙の時間は長いけど、動かないで煙が消えるのを待てば何とかなるから動かないで!」
ゼンジの作ったアイテムのようだが、彼が仕掛けた訳でもなさそうだった。
彼の言う通りにその場に制止した。
きゃっ──。
誰かに掴まれ、乱雑に引っ張られた。その後、雑に離された。思わずバランスを崩しかけた。しかし、何とかバランスを取った。
「ん? どうしたんだ──」
私を掴み投げた犯人は煙のせいでシルエットになっていて分からない。
いいや──そのシルエットから犯人はすぐに二択に絞れた。ドレスのシルエット。ドレス姿で先に肝試しに出た二人がいた。
「ごめんなさい──」
耳元で小さく響くくすみ笑いの謝り。それは形だけの謝罪であるのが分かる。
シルエットが強く私の体を押し出す。
後ろに体が向かう。足元には何も無くなっていた。急斜面の坂の近くで押されたのだとこの時ようやく気づいた。
重量がかかっていく。
落ちてく私。そこに黒色の影が二つ、私の腕を掴んだ。
「聞いていい……。ホシノさんは私とのダンスを置き去りにしてあなたと踊ることを優先した。それだけじゃない。肝試し前の会話だって。ウインクだってしてたのを見た。あんたはホシノさんにとって何者なの?」
シルエットが喋る。その声はどこか泣き出しそうな弱々しい声でもあった。
「何でもないよ。だって最近知り合ったばっかしだし」
「なんでもない訳がない。私なんて一年もかけてようやく近づけたというのに、あんたなんか……。特別じゃなければ何なの?」
「たぶ……あ、アサ──」
多分、仕えてるアサヒについて話しただけで。なんて言おうと思ったのに、それを遮るようにまたひとつ声が増えた。
「特別以外なんでもないわ。じゃなきゃ、ホシノ様がコイツにやった行動は全ておかしい。わざわざ水道から帰ってくるのを待ったり、さっきのウインクだったり、特別以外になんでもないわ。そうでしょ──? そうといいなさい。嘘は嫌いだから……さ」
声が全て夜に消える。
煙で何もかもが見えなくなっている。
そのせいで誰もこのピンチに気づけない。全て彼女らの掌の上だった。
「モリカ様はホシノ様に慕われるために努力してきたのよ。それをポッと出のあんたに取られたの。正直に言うわ。あんた、目障りなのよ。初日、あんたが現れてすぐに悟ったわ。これからあんたはすっっごく邪魔になるってさ。だから、ここで消えてくんない?」
煙が消えていく。
これでようやく気づかれるだろう。
「ねぇ、どうしたの?」
他のみんなが近づいてきた。
「私達、たまたま白い煙に巻き込まれて……。そして、パニックになってたらこの子を崖に押し出してしまったのです。それですぐに手を伸ばして助けてるのです」
そんなの嘘だ。
けど、言葉を出す力は残っていなかった。地に足が着いてない。それだけで体力は消耗される。今発せるのは息切れの音のみだった。
なんか悔しくて涙が出る。
この狡猾さに何にもできない私が嫌になる。
「今、引き上げますわ」
せーのっ──!
その合図は、手を離す合図だった。
二人が故意に手を離した様子は後ろの彼らには気づかない。彼女らがそういう風に誘導しているからだ。
落ちていくのが分かる。
私──死ぬのかな?
絶望が心を支配して
「私……死んだな」
これから走馬灯を見るんだ。落下していく私はこれから死にに行くんだ。
「死なせねぇよ。俺が守るんだから」
私はいつの間にかアサヒに抱え込まれていた。
高いところから低い所へと落ちる。
私達は深い木々の中へと消えていった。
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