第13話 僕が僕じゃないみたいだ☆
煙が散っていく。
煙が消えて一段落したと思ったが、煙の時のトラブルでナルミは落ちかけていた。ドレス姿の一
その通り──
二人はナルミを落としてしまった。
体が勝手に動いていく。
何をしているのか脳はあまり分かっていない。俺はいつの間にか飛び降りていた。
翼を持つ俺は落ちゆく彼女よりも早く落下し、彼女を包み込むように守った。落ちゆく俺らは地面に生える木々や草木にぶつかっていき、地面にぶつかった。木々や草木がクッションとなってくれたお陰で大事に至るような怪我はしなかった。
深緑の草木の上を転がっていく。
ズサーッ。
汚れた草を生やした土が崩れた。俺らはその先に待っていた隠れた巨木のみねの中に吸い込まれていった。
その先は分からない。
ただ真っ暗だ。
目を覚ますと薄暗い地下にいた。目を慣らせば視界が開ける薄暗さだ。
隣でナルミが立ち上がった。
切り刻まれたかのような痕。擦り傷だって幾つかある。靴はどこかに置いていかれ裸足のまま。どこか痛ましい姿だった。
それでも「ねぇ、大丈夫?」と心配してきた。
ピリリと響く傷。俺も彼女に負けないぐらいの傷を負ってたみたいだ。さらに、骨も少し強く打っている。だが、こんなものに痛がる訳にはいかない。プライドが許さない。
「ありがとう。私のために──」
「気にすんな。付き人を助けるのは当然だ。俺は当然のことをしたまでだ」
俺は完璧を目指さなきゃならない。早く一人前になりたいから。だから、俺にとってはこんなこと当然行動できなきゃいけないんだ。
「お前が何があっても絶対に俺が守ってやる」
それが完璧を目指す俺のポリシーだ。
視界がボヤけていく。
いつの間にか体が勝手に倒れてた。
「ねぇ、ほんとに大丈夫なの?」
「こんなもんで倒れてちゃ、完璧からもっと遠ざかってしまう。何があっても俺は倒れねぇ。俺は……大丈夫だ」
浮かぶホシノの姿。その姿がどんどん遠ざかっていくような気がする。このままじゃまた初頭学校の時の二の舞だ。
壁を伝って立ち上がる。
何とかやりきろうと根気を振り絞る。
「そんなに頑張らなくてもいいよ。張り詰めなくていいんだよ」
ナルミの言葉が優しく包み込んだ。
「いや、俺は完璧にならなきゃ。俺はホシノの親族だ。完璧じゃなきゃいけないんだ」
「どうして? どうして完璧を目指してるの?」
どうして? かなんて問に答えられない自分がいた。俺はどうして完璧を目指しているんだ。
そうだ。早く大人になりたいからだ。
じゃあ、なんで早く大人になりたいんだ。その自問自答は俺を迷宮に迷い込ませる。俺はなんでこんなにも辛いんだ?
「ホシノさんに言われてからずっと考えてた。アサヒを助けて欲しいって……。どういう意味なのか全然分からなかった。けど、今なら分かる気がする」
強く見つめてくる眼。
その強さに視線を奪われた。
「ホシノさんの親族だからって、完璧なんて目指さなくていいんだよ。完璧じゃなくていい。アサヒはアサヒらしく生きていけばいいと思う」
薄暗闇の中でナルミが輝いて見える。
「なんて言うか。もし別の理由で完璧になりたいとか考えてるなら分からないよ。けど、今は完璧にならなきゃって張り詰めてて、それが逆効果になってるんじゃないかって思うんだよね」
頭上から落ちる雫が地面に落ちて、ポタッという音を奏でている。
「何を言いたいかって言うとね──」
そこは他に誰もいない二人だけの空間。静かに広がる特別な時間。
「アサヒはアサヒのままでいいんだよ!」
結局、言いたいことはループしてる。けれども、言いたいことは伝わってくる。
使命感で埋め尽くされていた心がスッと軽くなった。
どうしてだろうか。薄暗闇の中なのに、何故か知らないが、昼さがりの外のような明るさが広がっているように見えていた。
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