第14話 Prayer X★

 あの時、誰も助けてくれないと思ってた。

 アサヒは冷たい慕情な男だと思ってた。

 けど本当は完璧に囚われて余裕が無いだけだと分かった。ずっと辛いんだと思った。だから、言いたいことを言った。それが彼のためになると思って。

 彼は「ありがとう」と呟いた。

 小さく伸びる言葉は本心を伝えていた。


「ひとまずここから出よう。ここにずっといても何にも始まらないだろうからな」


 切り替え。ここはどこかも分からない穴の中。早く脱出しなければ。

 そして、戻ろうと歩くが……。

 地下に広がる迷宮。そこは迷路のような場所だった。現在絶賛迷子中だ。

 幾ら進めど迷ってしまう。どこかは分からない。ゴールはどこにあるのだろうか、心も迷っていく。

 裸足のせいで足もボロボロだ。

 いつまで彷徨っていればいいのだろうか。

「こっちよ」どこからか声がする。

 その女性の声を頼りに道を進んでいく。

 どこからか聞こえる声をナビにして進んだ先には花畑へと出た。洞窟のような地下の中に咲く花畑。そこは赤や黄色、藍色の花が敷き渡る美しい場所だった。

「ようこそ。ここは地下にある花畑。天使の学園に存在する秘密の隠れ家よ」

 灰色の瞳がとても美しい。美人。その二文字が似合っている。灰色の美しさが花畑と相まっていて、綺麗とか美しいとかの感想しか出てこない。

「私はヤトミ。とっくに死んだことになっている存在です。この世に存在してはいけない人間です。私のことは誰にも言わないで下さい。他言無用です。天使界の上層部に知られたら私は殺されますから」

 死んだことになっている人間……。一体彼女は何者だろうか。

「勿論、親しい仲だとしても言ってはいけませんよ。聖徒会は勿論もちろん、生徒の中には上層部と繋がる内通者もいますしね。私のことが知られたら暗殺者が送り込まれるでしょう。ですから、私のことはなかったことにして欲しいのです」

 言ってることが物騒だ。

 地下にある迷路に、地下に咲く花畑、そして死んだことになっている彼女。不思議なことだらけだ。

「一体、アンタは何者なんだ……?」

「言ったでしょう。私は……死んだはずの存在。言うなれば、亡霊です」

 会話は途切れた。

 彼女はこれ以上のことは聞かれたくはないようだった。

「仲間を呼んできますね。ここから帰るための道は全て彼が教えてくれます。ここで少しの間、待っていてくらませんか?」

 私達は花畑に取り残された。

 ヤトミという存在はまるで幽霊のようにふと現れて消えた。知りたい情報は沢山あるがこれ以上知ることは難しいだろう。


 美しい花畑の上で二人のみ。

 アサヒは私にあることを提案した。


「なあ、ナルミ。俺と踊ってくれないか?」

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