第16話 StaRt☆

 こちらへと向かう足音が聞こえた。ヤトミの仲間だろう。俺らは疲れた体に発破をかけて立ち上がる。

 純白の羽。美しいスーツを着こなす白髪の天使。腰には鞘を引っさげている。

「災難だったね。まっ、無事で何よりだ」

 女どもが一目見れば心を奪われるという。男の俺でも瞳が引き寄せられそうだ。彼の名前はルシファー。天使界で最もイケメンと噂高く、さらに天使界で最も最強の天使だ。

「君たちはきっと彼女にあっただろう。そして、天使界の抱える闇の部分についても聞いただろう。けれども、これは他の誰かに知られると不味い情報だ。このことを秘密にしてくれるかな」

 とてつもなく強いオーラがのしかかる。

「天使界……」の抱える闇とは何か聞こうとしたが、

「秘密にしてくれるよね。してくれなければ、私は秘密になるようにやるしかない。死人に口なし……って言葉知ってるよね?」

 とてつもない圧が口を閉じらせる。

 圧倒的な気迫。威圧に押され、俺はなんでも言うことを聞いてしまいそうだ。一瞬でも逆らえば殺されるというオーラを全身で感じる。

 勝てない。

 すぐに悟った。

 俺らは簡単にルシファーの言うことを聞いていた。これを口外することはないだろう。きっと口を滑らせてしまいそうな時には、この圧を思い出して、一瞬で恐怖の感情に陥るからだ。

「良かったよ。彼女のこと。この場所のこと。天使界のこと。全て秘密だからね。口を滑らせるなんて許さないからね」

 天使界最強の存在。そう言われる所以が肌でビシバシと感じた。

「じゃあ帰ろうか。と言っても、帰り道を見られる訳にはいかないから。君たちには眠って貰うけどね」

 ルシファーは刀を抜いた。

 空間が抉り取られるみたいだ。

 背筋が凍りだす。

「安心して。ただの峰打ちだから」

 目では見えない速度でナルミは気絶し、花畑の上で横になった。

 第六感が言っている。避けろと。

 素早く振られた刀。その軌道は自由に変化し、俺を容易く気絶させる。

 目の前が真っ暗闇となった。


────


 瞼が開く。

 白い天井が見える。

 見渡すとそこは保健室だった。

 そうか、あの時俺は気絶して。

 横のベッドに寝てたナルミも目を覚ます。

「ここは?」

「保健室だ」

 何故寝ていたのかは、詳しくは聞けないし言えない。あの時の鬼気迫る圧に気圧されているからだ。

 窓から射し込む朝日がとても輝いて見える。

 俺はベッドから出てその朝日に当たりにいった。

「なあ、ナルミ」

「なんですか?」

「今日から俺は、新しい俺に生まれ変わる。そして、今日が新しい俺のスタートだ。それでいて、初めて出会った時に挨拶を忘れてたから今言うよ……」

 朝日に打たれながら立ち上がったナルミに向かって優しい笑顔で言葉を振るう。

「俺はアサヒ。これから卒業するまでよろしく頼むよ」

 無意識的に手が出ていった。

 向こう側のナルミが小さく笑顔を浮かべている。影のなる場所で彼女は小さく揺れた。

「これから執事としてお世話になるナルミです。こちらこそよろしくお願いします」

 彼女もまた手を出した。

 俺らの手と手が繋がる。

 一日遅れでも……

 今日からが俺とナルミのスタートだ。

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