第5話 ギャンブル★

 誰もいない部屋の中で虚しく座っていた。

 執事らしからぬ行動。そんなこと分かってる。けど、気がすまなかった。

 もともと私が執事に向いていないのは分かっている。付き人を養成する学校で執事を目指した二人。私はその中で実力差を見せつけられた。絶対に執事となるべき仲間を知っている。それでも彼は執事になれなかった。今はどこで何をしているのか分からない。

 彼の分まで頑張らなきゃ。なんて思うのに、初めての執事、その矢先に失態を起こしてしまった。彼に合わす顔もないな。

 少しでも執事らしいことをしなければ。

 ひとまず部屋を片付けることにした。

 が、よく見ると散らかっているのは私が乱暴に投げたクッションやその時に乱雑に扱ったものだけで、他は綺麗に整えられていた。きっと私は自分の部屋で荷降ろしに時間をかけるのではなく、先に共同リビングに手をつけるのが正解だったのだろう。

 執事に向いてないな。つくづくそう思う。

 それでももう引き下がれない。

 両頬を手のひらで強く叩いた。頬が赤く腫れる。


 さてとアサヒには何と言おうか。

 今夜行われる歓迎会で出会う所を想像する。思えば思うほど、やはり許せない。私が謝ることじゃないな。結局、何も言葉を考えず廊下へと出た。

 一人で広大な館の中を進む。地図を目ながら進むが道に迷ってしまった。

 前へと進み、違う道だと思い戻る。全然目的地の講堂に辿りつける気がしない。我を信じて進むしかない。それでも一向に辿りつかない。

「あれ? あなた……迷子?」

 可愛らしい人間だった。幼く可愛いと思わせるけど、どこか上品さを感じさせる。

「はい。講堂に行きたいんですけど、道に迷ってしまって……」

「うんうん。講堂は多分こっちだよ。多分」

 私はこの幼げな人についていくことにした。初めて見る館内はやはり目新しく退屈を感じさせない。

「そうだ。自己紹介忘れてた。うちね、ノナミって言うんだ。よろしくね」

「私はナルミです。今日入学しました」

「あっ、新入生の付き人やね。まあ、ナルミちゃんの一個上だけど、気軽にタメでいいからね」

 先輩は気さくなオーラでどこかフレンドリーな雰囲気を醸し出す。

 広い館内の中。未だに講堂にたどり着かない。

 彼女が立ち止まった。私も立ち止まる。

「あれ? うちらってどこに向かってるんだっけ?」

 いや、忘れてたんかい!

 さりげなく「講堂ですよ」と加えた。

「そう言えば、講堂ってどこにあるんだっけ。実言うとさ、うちも迷子なんだよねー。適当にこの道に賭けてみたんだけど違ってたみたい。あはは」

 いや、笑い事じゃない!

 何故、適当にギャンブルしてるのか。そして、普通に外してくる。ただ、怒れる気分にならないのはノナミの独特なオーラのせいだろう。

 もはやどこに行けば分からない。逆に時間を食ってしまった気がする。歓迎会に間に合うのか、焦りと諦めがバランスを取る天秤が揺れ始めていった。

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