茜色(あかね)のアサヒ

ふるなる

第1話 プロローグ☆

 細く小さな髪の毛一本が抜け落ちて床に落ちる。本人も近くにいる者も誰も気にせず素通りする。同じように白い羽が床に落ちるが、髪の毛と同じように誰も気にせずに素通りする。

 背中に生えた白い羽。ここでは誰もが白い羽を持つ。もう見慣れたものである。

 ここには天使が住んでいる。

 髪の色は各々違う。上から見ると鮮やかなグラデーションが美しい。ただし俺は、まだ髪の色は白く輝いている。

 乱反射する太陽の光のせいで目を細めてしまう程の明るさの中、そこには一面美しい景色が広がっている。


 一人前になればに目覚める。


 白い羽を持つ大きな彼らは各々の能力を用いて生活をよりよくして暮らしていた。半人前には特殊能力はまだ先の先。

 早く一人前になりたい。

 その気持ちが先行していく。

 誰よりも突出した成績なら早く一人前になれるという。だからこそ、俺は完璧を目指さなければならない。それが天才の親族の俺に課せられた使命。


 ピシッとした服で学校の中へと入った。

 明日でこの学校は卒業だ。また一段と大人への階段を登る。つまり、一人前へと近づく。

 今日の授業は普通の授業ではなかった。

 教室を何人かの教師が埋め尽くす。教壇に立った担任の彼女は一人の人間を連れてきた。

 初めて見る人間。色の着いた髪はまるで天使のようだ。瞳の色や爪の色もそれと同じ色。一方で、肌の色は薄い橙色だ。少しこじんまりとした姿。死んだような目。これが──人間か。

「今日はこの学校を卒業するために必要な儀式を行います」

 儀式。それは人間を食べることだった。

 彼女は手を天に向けた。拳が金色の金属に変わっていく。

 人間に向かって振り下ろされた金属の拳。触れた瞬間、強烈な稲妻とともに火花が散った。強力な電撃が人間の灯火を消した。

 俺らの前で行われる血抜き。調理。骨の多い肉が出来上がっていく。


 自然の恵に感謝──いただきます──

 無慈悲にもそれを食べなければならなかった。目の前に出された肉は人間の面影もなく、ただの肉塊と変わり果てていた。


 他の仲間は人間を想像したのか吐き気を催し食べることがままならなかった。俺も昔だったら食べることができなかっただろう。だけど、食べなければ──どこからかくる使命感がその肉を口に持っていかせる。

 その肉は……いつも食べている動物の肉と何ら変わることはなかった。

 誰よりも早く食べ終える。

 拍手が聞こえた。


「流石アサヒだ。やはり、アイツの子だ」


 どこからか聞こえた言葉。

 それに思わず反応して小さく呟いた。

 俺は俺だ──比べるな。

 俺は完璧な存在になってみんなに認められてやる。絶対に。

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