第27話 君の知らない物語★

 今日は付き人達の授業の日だ。

 そこに集まった十人一の付き人。私達は聖徒会によって付き人としてのスキルを学ぶ。今日はラファエルによる家事の授業だった。

「あら、ナルミちゃん。掃除全くダメじゃない。ちょっと教えてあげてもいいわよ」

「ほんとだ。これじゃ直してるのか汚してるのか分からないね」

 サクリの施設で同級生だったサヤとコガネ。

 二人とてんやわんやしながらノルマをこなしていく。

 ツンデレお嬢様気質のサヤと人を見下すことが板についたコガネ。普通だったら距離を置きたい人間性だけど、知り合いなので苦ではなかった。それどころか、ずっと一緒にいたいとまで思ってしまう。

 もう一人の大切な仲間と別れて余計にそう思うようになった。


 続いて雑巾で部屋を綺麗にするだけの授業。

 教えて貰うことはないけれど、体に叩き込むためにひたすらとやる。広いフロアを吹いていく。

「ふぅ、疲れた~。ここはふけたかな」

「まだ埃が残ってるじゃないか。それで執事だって? 笑わせてくれるね」

 もう彼の嫌味になれてしまって返す気にもなれないし言葉も浮かばない。

 今度こそは綺麗にふけた。

 パシャン。

 いきなり水がかかってきた。

 転げ落ちるバケツ。下の方が濡れた服。

 さすがにこれは許せない。コガネに向けて睨みつけようと振り返ると、そこにはコガネではなく違う男が立っていた。

 髪で目が隠されている。表情が読みにくい。

 何もしないでその場に立ち尽くした後、手を前にし、そのまま去ってしまった。

「何だアイツ。全くマナーってもんがなってないね」

「マナーがなってないのはどちら様よ」

「僕のことを言ってるのかい? 僕は最高級品の常識人さ。だから、マナーのなってない人間を見ると蔑んでしまうのが悪い癖だね。特に横にいる自称お嬢様の非常識さんとかね」

「は? 何? サヤのことを言ってる訳?」

「他に誰がいるのかい? 非常識なサヤさん?」

「はあ?」

 すぐ近くで喧嘩が起こった。

 いつものこと。

 慣れてしまった私は「ははは」と苦笑いを浮かべることしかできない。

「おいそこぉ! 何やってんだぁ!」

 見つかった。

 二人は連れていかれた。きっと怒られているのだろう。

 私は二人の分まで壁や床の埃を取り除いていった。


「ったく、こいつとせいで酷い目にあったぜ」

「何よ。悪いのはそっちでしょ?」

「全くだよ。反省の色が見えないね」

「人のことが言えるのかしらね?」


 全く。戻ってきてもこうだ。

「よぉし! 今日の俺の授業は終わりだぁ! 明日もしっかりと天使に奉仕するようにぃ!」

 その大きな声が私達を解放させた。

 二人の喧嘩も落ち着いていた。


「早く服も替えたいし、先に帰るね」


 私は急いで部屋へと戻る。

 濡れたそれを引きづって軽く急ぐ。

 まあまあ走ったぐらい。目の前に一人の男が立ち塞がる。私に水をかけた張本人だった。

 彼が何かを言おうと重い口を開けた。

 けれども聞こえたのは「……ぃっす」と何言ってるのか分からない言葉。彼は伝わってないのを知り、少し音量を上げた。

「お、お…………貸したいっす」

 犯したい。彼の言葉から出たことだ。

 長い髪で隠された奥側が野獣のように思えた。少し恐怖を感じる。

「何なの……」

「ただ、お、俺……の、S急に、Eラくやっ……た……省のために罪滅ぼししたい、っX。つ、つまり……S・E・Xしたいっす」

 単刀直入に何も薄めずに放たれた言葉。不快さと恐さが混ざったストレートカクテル。吐きそうだ。

 足が竦む。

 逃げ出そうにも逃げ出せない。

 濡れた足が床をぬかるませ泥沼にしたみたい。抜け出せない私は、目の前の男に襲われるのだ。

 恐怖が順繰り返しでやってくる。

 やっぱり足が竦む。


「大丈夫かい。ナルミ」


 温かい翼で包まれる。

 そこにホシノがやってきた。

 頼もしくて温かい。私は意識することなくいつの間にか彼に縋っていた。

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