第31話 かつて天才だった俺たちへ☆

 そこはあの夜と同じ場所だった。

 そこは秘密の通路の一つの部屋。そこに俺とホシノの付き人がいた。

「何で俺はここにいるんだ?」

「そりゃあ連れてきたからに決まってんだろ」

 高圧的な彼は冷たくあしらっていた。

「ホシノやナルミはどこにいるんだ?」

「教えて欲しいか? 喧嘩で俺を倒せたら教えてやるよ。手加減不要、そもそも貴様じゃ俺は倒せねぇ」

 静まり返ったこの洞穴。

 何もしなければ何も起きない。

「やるしかないのか?」

「やらなくてもいい。もちろん、ここからは出させねぇ。付き人にゃ会えねぇ。まあ、それでいいんならいい」

「やる。アンタをぶっ飛ばして、居場所を聞いてやるよ」

「いい度胸してんな。好きだぜ。そういうの」

 白い羽を飛ばす。

 天使は人間よりも基礎能力が高い。さらに、飛行能力や羽の操作があり、遥かに優位な存在である。

「昔ァ、よく喧嘩したもんだ。全てが気に入らなくてなぁ。あの頃に比べりゃ、そんな攻撃、虫の抵抗でしかねぇなぁ」

 羽が全てパワーでねじ伏せられた。

 俺の腹に振り下ろされる拳。思わず唾が飛び出した。

「普通は人間が天使様様に手を出すなんて御法度だろうがなぁ。俺はそんなルールにゃ興味はねぇ。俺ァ、ホシノさん以外の天使に従順になる気はねぇからなぁ」

 蹴りが横腹を穿つ。

 一つ一つの攻撃が重く早い。

「負けてたまる……かぁ」

 羽に全神経を注いでいく。

 鋭い一撃を狙い、攻撃を一点に集中させる。

「操作系の羽か。その攻撃は愚策だな」

 パワーで押しのけられる。

 その勢いのまま彼は拳を振るった。

 声もでない。

 腹が痛いのに体は動かない。もちろん手も動かない。俺はただ地面に這いつくばった。

「すまねぇな。ホシノからここは通すなと言われてんだ。俺にとっちゃ、通さない方法は喧嘩しかなかったんだ。手荒い真似してすまんかったな。そこで少し休んでくれや」

 彼は上の服を脱ぎ捨てた。

 背中に描かれた鋼の鎧を着た剣闘士の刺繍。

「そいや、お前、ホシノを越すっちゅうてたなぁ。今のアンタじゃ無理だぜ。今のままじゃテメェはホシノを越せねぇよ」

 瞼が重い。

 落ちてく瞼を押し戻すための気力はもうない。受けたダメージを少しでも和らぐために力を使っていたみたいだ。

「まっ、おやすみっちゅうことだ」

 瞼が落ちた。

 目の前が暗くなっていった。

 俺は人間に負けたのか。俺は弱いのか。俺はホシノには一生追いつけないのか。

 いつの間にか俺の意識は夢の中へとお邪魔していた。

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