第22話 フィクション★

 私達は不思議な夢を見た。

 その夢はどこか現実的な感じが孕んでいた。まるで予知夢のような……。お互いに夢の中で見た黒い羽について調べるため図書館へと向かうことにした。

 大きな館の中は選ばれた天使と付き人、そして聖徒会、黒子しかいない。そのせいか中は広く感じる。

 階段を登っていく。

 天使の彼は軽やかに登る。一方、私は彼よりも遅い。そんな私を置いて先へと行ってしまった。

 ようやく図書館へとたどり着く。「遅いぞ」と軽やかに言われ、言葉を失った。

 でも私は執事という立場だからこそ、今のこの状況は情けないものだ。情けない感情が勝っていく。


 図書館の中は広々としている。

 本がずらっと並んだ本棚が無数にある。

 すぐ近くには地図のようなものがある。そこのジャンル分けを見た。この配置、どこかで見たことがあるような……。

「黒い羽か。ジャンルは羽学っぽいな」

 私達は本棚の迷路を進んでいく。

 そして、羽学の本棚を片っ端から見ていった。

『なぜ天使は羽を動かせるのか──四代目ガブリエル』『羽を使ったおもしろ使用法──イケシ』『羽に隠された謎──神宮茉絵』『羽の三タイプ。それぞれの使用法──シンサカ』

 所々で面白そうな本が目に入る。思わず手が飛び出し本を手に取り表紙や裏表紙を見ていた。すぐに良心が飛び出して本棚に戻す。

 裏表紙で一つ賢くなれた。

 天使は羽を動かすことができる。その動かすのにも個人的な差がある。羽を動かすのが得意な天使苦手な天使。そんな差は当然ある。そういう次元ではなく、天使には羽を使うのに得意不得手があり、素早く羽を動かせる天使動かせない天使、重いものを持ち上げられる天使上げられない天使、沢山の羽を動かせる天使動かせない天使。それら得意不得手があるのだ。

 羽学では羽を早く動かすスピードタイプと、威力ある羽を操るパワータイプと、沢山の羽を操れる大量タイプに分かれているようだ。

 面白そうな本は見つかるのに目当ての黒い羽に関する本は全く見つからない。

「これだけ探してもまだまだ本が並んでいるとはな。結構な時間になりそうだな」

 彼には諦める気配はなかった。一方、私は少し休憩したかった。

「少しだけ休憩を挟みませんか? そちらの方が疲れて探すよりも見落としも探すスピードダウンも減らせて効率がいいと思います」

「まあ、そうか。そうだな。休憩を挟むか」

 彼を説得することに成功した。本探しから離れて気持ちをリフレッシュさせられる。

「しかし、帰り道はどこだ。広くてあまり自信がないな」

「帰り道はこっちですよ」

「覚えているのか。すごいな」

「いえ、この図書館。配置がサクリの施設と似ているんです。もしかしたらサクリの施設は縮小図になってるのかもしれないですけど」

「縮小図か……。可能性あるな。じゃあ道案内を頼むわ」

 私がアサヒを連れて進んでいく。

 穏やかなオレンジっぽい暖色ライトの中を悠々と進んでいく。

「なんか懐かしい感じがします。あの頃の私は図書館の隠し部屋を見つけたこともありました。なんか懐かしくて嬉しいです」

 物思いにふけてしまいそう。

 あれ?

 アサヒは何故か立ち止まっていた。

「本当にアサヒの施設とリンクした造りとなっていたとしたら、その隠し部屋もあるかもしれないな。少し気になる。案内してくれないか」

 図書館の隅へと行く。

 そして、片っ端から怪しい所を手探りで探していった。私達が天使様に仕えるために学んだ場所であるサクリの施設。そこでの隠し扉への行き方を思い出していく。

 適当に手探りでやっていた。

 ふと本棚が動き、その後ろへといけるようになった。

 本棚と壁の隙間に扉があった。同じ色なので分かりづらいがよく見ると線が入っていて扉なのが分かる。

 ドアノブはない。とりあえず押してみるがビクともしない。

「開かないみたい」

 私は諦めの気持ちだった。

「諦めるにはまだ早い。押してダメなら引いてみればいいだろ」

 扉が開いた。

「何が起きたの?」

「床スレスレには隙間があったからそこを通して羽を向こう側に飛ばして、羽でこちら側を押しただけだ」

 羽一つの精密さは口をあんぐりさせた。

 それよりも開いた扉だ。

 私達は好奇心から秘密の場所へと進んでいった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る