第24話 PAiNT it BLACK★

「ばぁ──」


 振り向きざまに放たれた言動。

 くすみ笑いのアスタロトがそこにいた。

「ようこそ。あたしの隠れ家へ。まさかここがバレるなんてね。夢にも思わなかったよ。さあさあ、せっかく来たのなら立ち寄ってって」

 優しい光に包まれる本棚達。

 そこに用意された椅子を初めとした道具達。ここならゆっくりしていけそうだ。

「お咎めはないのか」

「そんなことしないよ。ここは単なる秘密の休み場。見つけたらラッキーなだけだからね。そんなねー、見つかっちゃ悪いもんなんて置いてないよ。残念だけど、エロ本とかさー、ないからねー」

 ここは書庫だろう。

 そこをアスタロトに改造されて住み心地が抜群となっている。

「アスタロトさん。俺たち、黒い羽について調べているんですけど、全く見つからないんです。何か知りませんか」

「黒い羽ね。それって何で調べてんの?」

「羽学で調べています」

「一生見つからないな。黒い羽は……純粋無垢な子ども達には見せられない代物だから」

 大量の羽が舞う。

 雪化粧のような視界を埋める白い羽。

「けど、ここに辿り着いたからには教えてあげるわ。黒い羽について今ここで教えたげる」

 羽が何冊かの本を持ってきた。

 白い景色が止んだ。

「見つけたいのはこういう本でしょ?」

 白い羽によって浮かぶ本。一冊だけが残った。

『黒い羽──神宮茉絵』

 そうだ。こういう本を見つけたかったのだ。

「ああ。まさかこんな所にあったとは……」

「うん。二人は悪魔って知ってる?」

「悪魔か。もちろん知ってます。天使や人間に仇なす悪しき存在。我々の天敵」

 白い雨が降り注ぐ。

「そう、その通り。悪魔は大罪を起こすことは当然の事、ながら、残念ながら天使でも罪を犯すことがある。その時は天使のトップによって直々に罰が下る」

「それがどうしたんです?」

「大罪を犯した天使への罪の一つに悪魔堕ちの刑があるのよ。それを受けた天使は悪魔に変わり果て、天使界から追放される。その日から悪魔になるのよ。そんな芸当ができるのは唯一の力を持つ天使界上層部のみ」

「あのぅ、それで、黒い羽って悪魔の羽ってことですか?」

「うん。その通りだよ」

 つまり、私達が見たのは悪魔堕ちしたルシファーだったということだ。


「それで聞きたいことあるんだけど。何で、あんた達は黒い羽について知ってるの?」


 言葉に詰まった。

 夢だからとは言い難い。

 私も彼も無言のせいで静寂の時間が広がった。


 悪魔堕ちしたルシファー。それは私達の単なる空想でしかない。

 けども、そんなことも現実になり得そうなあの夢はとても不思議だった。


「全て俺らの嘘百景の賜りだ。それでも聞きますか?」


 彼は覚悟を開いた。

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