第10話 『あの日降った雨の追懐 その2』

 蝉の声。


 梅雨明けの日差し空から漂う夏のにおい。


 蒸し暑いその温度に町歩く人々は、うちわ代わりに自分の着るシャツを扇ぐ。


「それで、早速今日からだけどまず何しようかしら?」


 ここ玉川小の自然活動部にいる3人。今日から本格的に活動を始めるみたいなのだが、各々唸り声を上げながら考え込む様子をみせていた。


「とはいうものの、いきなりやれって言われてもそんなすぐでる物じゃないよ」


「悔しいですが私もです。切り出したのはいいものの何から始めましょうか」


 2人は思い悩む。特に部の名前を提案した、張本人であるあゆりも。


「はぁ。開始早々これなの?」


「なら、海里はなんかいいアイディアあるの?」


 口うるさく罵る海里であったが、陽香の言葉に返す言葉もなく。


「ほら、やっぱないじゃん」


 文句しか言えない海里は、そのまま黙り込み策を考えるべく、机で腕を組みながら目を瞑る。


「……」


「あ、これ本当に何やればいいか分からないやつじゃない?」


「陽香ちゃんが言い出しっぺですのでここは仕切った方がいいんじゃないですか?」


「……私はそのこういうのセンスないから……やらない」


 弱音を吐く陽香。切り出した張本人が動かないのは、少し滑稽な話ではあるがこれが陽香なのである。


 切り出してはいつも海里に頼み込み、その度に少女に貸しを作っていた。……だが陽香はそこまで頭が回らない性格をしているので、1回も海里にお礼の1つもしたことがない。


 ある時は忘れた学校の教科書を貸してもらったり。


 時にはジュースを奢ったりしてもらったりも。


 なのに陽香からは1回もお礼の1つもなし。わざと妥協している海里ではあるものの正直失望しきっている。


 だが少女自身、陽香は憎みたくても憎みきれない、親友的な存在なので絶交までには至らない。


 しかし今そのことを知っているあゆりは、そっと陽香に小声で言う。


「そんなことばかりやっているから、いつも海里ちゃんへの貸しが増えるんですよ。これで何回目ですか?」


「え、3回くらいじゃないっけ」


「また忘れてる。……忘れているかもしれませんがこれで貸し作るの10回目! ですよ」


「……私そんなにやばいことしちゃった?」


 首肯し、そうだと答えるあゆり。


「ま、まさか……私ってそんなに海里に貸しを作っていたなんて」


 膝をつき、自分の罪を振り返ろうとする陽香。


 言われてからようやく気がつく少女。


 あゆりはいつも3人と一緒なので、このようなことはよく覚えている。なので陽香が危険な境遇に立った時、少女が時々こうしてアドバイスもしてくれるのだが。


「そこまで自分を責めなくてもいいんですけど……」


 自分も少々触れてはいけない事柄だと理解したあゆり。


 すると考え込んでいた海里があゆり達をもう1度見る。


 どうやら考えがまとまった様子……みたいだが?


「……考えたんだけど」


 興味津々に見つめる2人。


「いや、近いわよ……そんな顔近づかれちゃったら恥ずかしいじゃないの……」


 一瞬。2人から視線を逸らす海里。


「恥ずかしがらなくてもいいのに〜このこの〜」


「突くな……」


「すみませんでした」


 海里の恐ろしい怖い目つきに圧倒され、茶化すのをやめる陽香。


「……それでね考えたんだけど」


 辿り着いた少女自身の決断とは。


「ない……」


「え」

「はい?」


 首を傾げる2人。


 少女のことだから、とんでもないことを考えたに違いないと思っていた2人だったが、それを聞いた瞬間思わず目を丸くした。


「いやいや嘘でしょ嘘でしょ? 海里に限ってそうは…………って本当なの?」


 本当だという顔を表情で読み取れた陽香。


 難しいことに対応が乏しい少女でも、これぐらいなら感じ取れる。


「馬鹿なあんたにしては、よく分かったわね」


「ば、馬鹿とはなんだ! 馬鹿とは! それぐらい私だってわかるもんね! はは」


 焦り気味になる陽香。


 海里を指差しながら答えるが、額からは若干の汗が出ていた。


……それを見過ごさなかった海里は、キリがいいので「にや」っと微笑。


「よく分かったわねと褒めてあげるわ。……あと」


「貸しの話聞いてたから。……さあて、いつちゃらにしてくれるのかしら?」


「海里ちゃん、耳よすぎですよ」


 あゆりと陽香の、貸しの話を全て聞いていた地獄耳を持つ海里。それに恐怖した陽香は口笛吹きながら、よそ見する。


「陽香、どっち向いているの? ……まさかこの私が貸しのことを忘れているとでも?」


「……あの海里。謝るからさ、その腕をポキポキ鳴らすのやめてくれない?」


 友達に頼りっぱなしはいけないと、初めて理解した陽香であった。




















「それで結局今日どうするの」


 気を取り直す。


 静まり返る3人の少女。


 一向に当ても見つからず、時間だけが過ぎていった。


 カタンカタンと古めかしい古時計。倉庫として使われていた時から現在まで現役で、未だに時を刻み続ける時計。


 年層はそれななりに経過しているのにも関わらず、軋む音はあまりしない。


 2人が沈黙する中。あゆりはその時計の秒針を目で追いながら、暇潰しをしていた。


 すると秒針が0の方を超え、長針側が0を差し時報を告げた。


 ゴーン。ゴーンと大きな音を鳴らし。


 一斉。その時計の方を見て時間を目視する。現在の時刻は。


「……もう10時なのね。早いわね」


「こんな時間なの。全然実感持てなかった」


「時間もいいし、休憩ついでにお菓子買いに行かない?」


「それいいですね行きましょ」


「私も2人に賛成だよ。もしかしたらいいアイディア浮かぶかも知れないし」


 そして3人は方針が定まり、近くの駄菓子屋に足を運ぶのだった。


 小学校のすぐ隣にある坂道。


 陽香だけなぜか、自転車で違うところに買い出し行くよう海里は指示を出した。


「なんで私だけ?」


「貸しちゃらにしたいんでしょ? ならこれでその対価を払ったことにしてあげるわ」


「……そう言われたら言い返せる言葉も出てこない。……で何買えばいいの?」


1枚のメモ用紙を片手に名前を確認する陽香。


漢字一部読めないせいか、髪をくしゃくしゃと掻く少女だが。


「難しくて読めないんだけど。ふりがなくらい振ってよ」


「だからあなたにはピッタリなことじゃないの? 大丈夫そこに書いてあるもの……全部今からあなたが行くところにあるから。分からなかったらそこにいる店員さんに聞くといいわ」


 海里はある程度の資金を陽香に渡していた。


 近くにある、ホームセンターで物資を買ってくるように言って。


 必要なものリストを紙の切れ端にびっしりと書き込んだ。まず困ることはないのだが。


 漢字が苦手な陽香は一部読めない。馬鹿だから仕方ないことだがふりがなを振っていないのにはちゃんと理由があった。


 それはリストの数が多過ぎて、ひらがなを書くスペースが残されていなかったからだ。


 リストを書き込んでから、後々少女が難しい漢字を読めないと思い出した海里。


 しかし、億劫なのでこれは陽香にいい機会だと思い、敢えて消しゴムなどで消さなかった。


 口では言わないが、表面上は少女にそれなりの難易度の任務を任せていることらしいが。


「それにこの中で体力が1番多いのってあなたじゃない。だから陽香以外に誰がするっていうのよ。ねえあゆり」


 顔を見合わせ確信する2人。


「ちょっとずるいよ海里! 私だけ除け者にするなんて!」


「安心しなさい。ちゃんとあなたの分も取っておくから……さあ分かったらさっさと行った」


 坂道なのに少女の乗る自転車を助走つけて上へと飛ばす海里。


「ちょま! げえええええええええええええええッッ!!」


 ……陽香は絶叫しながら坂道を自転車で、ペダルを高速で漕ぎながら駆け登り、そのまま調達へと向かった。


「邪魔者は行ったわね。……行こうかあゆり」


「よかったんですか? 陽香ちゃんに行かせて」


「大丈夫よ、あれぐらいでくたばる陽香じゃないから」


 配達に行く陽香の後。


 2人は駄菓子屋へとゆっくり足並み揃えながら向かうのだった。

















 風鈴の音。


 涼しい音色が昔ながらの屋台から木霊する。


 障子が全開。店内が露出するように見えたその駄菓子屋には、欠伸しながら新聞を読む老婆がいた。


「いらっしゃい。……あら海里ちゃんにあゆちゃんどうしたの? 陽香ちゃんは今日いないのかい?」


 実は3人の行きつけの駄菓子屋である。小さい頃から来ているいわば常連。


 幼少期から知っているその老婆も3人のことをよく存じている。


 しかし今日は1人かけていると、気がついたその老婆は海里に問う。


 海里は一瞥しながら、理由となる言葉を考え数分足らずで答える。


「あの子、夏休みの宿題を1日で終わらせると言って、今日一緒じゃなんですよ……そんなの毎日コツコツやった方がいいって言ったんですけど」


「ちょちょっと海里ちゃん……」


「あゆり、ごめんちょっと黙って」


 海里の作り話に疑念を抱いたあゆりは、蚊の鳴くような声で少女に聞こうとしたが。


 疑いを持たれたくない海里はあゆりを口止めした。


「そうかい、陽香ちゃん珍しく張り切っているねえ。これはおばさん

からのプレゼントだよ持っておゆき」


 2人に小さなアメを2つあげる老婆。


「……ありがとうございます」

「ありがとうございます」


 一同礼を一言。


 老婆は2人の好物が分かっている様で、あゆりにはラムネ味、海里にはオレンジ味が握られていた。


「いいってことよこれぐらいさ。いつも来てくれているこれはお礼だよ」


 2人は嬉しそうに微笑んだ。
















 駄菓子屋に置かれている、大きな口の開いた箱。


 その中にある沢山のお菓子から、2人は熟視しながら決める。


 あまりにも種類が豊富なため、選ぶのに一苦労な2人。


 ……一通り。選び切った2人は老婆の方へと向かう。


 じゃがりか、ロッポ、ゴリラのマーチ(各味)その他諸々。どれも3人が大好きなお菓子である。


「たくさん買ってくれてありがとうね……えぇと値段は……」


 老婆が会計している間。


 海里はレジの後ろに貼られた『特製! 夏限定極上ソフトアイスクリーム ¥200』と書かれたポスターが。


(あゆり頑張ってくれてたし、買ってあげようかしら)


「おばあさん、そのソフトアイスクリームもお願いします」


 海里のスカートを引っ張るあゆり。


「海里ちゃんアイスクリーム食べるんですか?」


 しかし、海里は横にいるあゆりに首を横に振る。


「じゃあ誰にです? 陽香ちゃんですか」


「……あゆりそんなことすれば溶けちゃうでしょ間に合わないわ」


「じゃあ誰に?」と首を傾げるあゆりは、頭の上に疑問符を浮かべる。


 すると海里は微笑しながらあゆりに小声で答えた。


「あなたよ」


「……どうしてです? 私そんなの頼んでいないんですが」


 海里がなぜ自分にアイスクリームを買ってくれるのか。


 その理由に気づけないあゆりは困惑する一方。


「……ほんのお礼よこれは。 ……だって頑張って案を出そうと頑張っていたしね。結局今日は出なかったけど、これは部長である私からのお詫びよ」


 するとあゆりは笑みを浮かべ笑う。


「ありがとうございます。海里ちゃん」


「ふふ」


 海里は嬉しそうに微笑んだ。


















「…………」


「あゆり」


「どうしたんですか?」


 海里はバッグからティッシュを取り出す。


「アイスついてる……拭いてあげるわね」


 真剣に片手に持つアイスクリームを舐めるあゆり。


 少女のその口元に、たくさんのアイスがついていたことに海里は気づいた。


 それを気遣うように海里は携帯しているティッシュを1枚、片手にとり拭き取る。


「すみません」


「いいわよ。……その食べっぷりあゆりらしいわ」


「あ……はい」


 苦笑いするあゆり。


「でもこのこと、陽香には内緒よ? あの子絶対私になんか言ってきそうだから……私との約束よ?」


「もちろんですよ。他でもない海里ちゃんの頼みです。守りますよ絶対」


 食べながらまた笑顔を見せるあゆり。


 因みにこのアイスは、あの駄菓子屋で売れている物の中で値段が1番高い。


 なので海里にとっては高い買い物である。


 ……小学生といえども割と値の張る高級なお菓子。


「あぁ……ごめんあゆりちょっとトイレ行ってくるわね。すぐ戻るから待ってて」


 と一言告げ、近くの公衆トイレへと向かう海里。


 1人。先ほどいた駄菓子屋より少し進んだところのベンチに座るあゆり。


 海里の帰りを待ちながら、ひたすら買ってもらったアイスを黙々と食べる少女。


 ──すると。


 そこに足音を立てながらあゆりの方へと向かう3人組が。


 あゆりの前に立つと大きな人影があゆりの体を覆った。


 少女の体は玉川に住む小学生全員から見ても、1番背が低い。


 なのでこの大きな影が、急に出てきて驚いたあゆりは、その場で怯えながら立った。


「な……何かようですか?」


 相手は。


 あゆりの同じクラスメイトの男3人組だった。


 クラスではいつもやんちゃな性格をしており、学校ではいつも騒を立てている。


 あゆりにはなんの未練もないのだが。


「おい、チビ! なんでお前みたいなチビがアイス食ってんだよ」

「そうだよ。そのアイス……確か近くの駄菓子屋で売っているものの中で1番高いやつだっけ? ……それをなんでこいつが食ってんだよおかしくね?」

「あーああれじゃね。母ちゃんか誰かに頼んで小遣いもらって買ったんだろ?」


「ち、違います!」


 必死で愚痴を言われながらも抵抗するあゆり。


「そんなのお前にはもったいねえよ! ほらよこせよ!」

「ほらほらよこせって!」

「弱いくせに生意気なんだよ! この」


 海里からもらったアイスクリームを、悪ガキに強引に引っ張られる。


 絶対に離さないよう握る。


 何にせよこれは、海里があゆりに感謝の意を込めてもらった大切なアイスクリーム。


 他人なんかに絶対にあげるかと必死にもがくあゆり。


 だが──非力な少女では力不足でとうとう。













 ぺしゃ。


 あゆりの食べていたアイスクリームは下へと落ちた。


 力に耐えきれず、そのまま落ちたのだ。


「おい、どうしてくれるんだよ! 楽しみにしていたのに」

「もうこんなのいらねえよ。……代わりにチビお前食えよ」


「うぅ……」


 涙目になり今にでも泣き崩れそうになるあゆり。


 美しい少女のその清い瞳から、潤いだ涙が次第に溢れてくる。


「こいつ! 泣いてやがる! きんも!」

「だから誰も友達できねえんだよ!」


「泣けよ泣けよ! この弱虫がッ!」


 3人の「弱虫!」のコールに恐怖するあゆり。


 涙だけでは止まらず、ついには大声で泣き出してしまう。


「「えええええええええええええええんッ! ええええええええええええええええん! うぅ……。うぅ……」」


 海里や陽香のいないあゆりでは何もできない。


 そうこのように何もできず、すぐ少女は泣き出してしまうのだから。














 そこへ────。













「あゆり……?」

















「「あゆりッ!!」」













 その刹那。手洗いからあゆりの元へ帰ろうとしていた海里が。




















 悪ガキに虐められているあゆりを。


















海里は、バッグの中にあった雑誌を丸めそれを棒にし、虐めている3人組を一網打尽するがごとく、丸ごと叩いてあゆりから引き離した。

















「こ、こいつは」

「し、知ってる。目つきの悪い怖い女だよ! なんでも下級生を無差別に虐めているとか」

「に、逃げろーーーー! そんなやつと関わりたくねええええ退散!」


 海里に怯えながら去っていく男3人組。


 ……海里は下級生を虐めていることは決していない。


 弱者に暴力を振るう人に対して、自ら反逆する立場となり、非力な人に代わってその人を守るように戦っていただけなのだ。


 だが、それをたまたまその現場を見た、勘違いした生徒。


 彼は海里を、『下級生を無差別に虐める女』と悪い噂を流す。


 情報は格段に広がっていった。


 気がつく頃に海里は、学校中で悪い女という酷いレッテルを貼られることとなった。



「大丈夫あゆり?」


 おかげで少女の前からは、友達は1人もいなくなり孤立してしまった。


 ……あゆり達と出会うまではずっと1人で、孤独な空間をひたすら過ごしていた。


 だがそんな中、最初に手を差し伸ばしてきたのが陽香とあゆりだった。


 たった1つの2人の問いに、少女は目を丸くした。


『友達にならない?』と。


 以降、少女の中で2人はかけがえのない存在となった。


 居場所を与えてくれた、一番の宝物。


 そんな“大切な友”を傷つけられ、海里は激怒した。


「酷い連中に絡まれたわね。……ほんと度がすぎるわ」


 泣くあゆりを抱き寄せ、背中をポンポンと叩く海里。


「大丈夫、もう……大丈夫だから。……もう大丈夫。……だからあゆりもう泣かないで」


「うぅ………………? 美里ちゃん?」


 あゆりの目の前には、いつもの顔をした海里の姿が。


 少女の前では怒った顔は見せてはならないと、無理していつもの顔に戻したのだ。


「こ…………怖かったです……とてもとても」


「うん……ごめんねあゆり。早く行ってあげられなくて」


「海里ちゃんは悪くありません。非力な私が弱いだけで」


 自分の未熟さを呪ったあゆりは自分を咎める。


 だがそんな少女を慰めるように海里は。


「あゆりは、弱くなんかない。……あなたは何があっても暴力を振るわなかった。それだけでも立派なことよ」


「でも……」


 海里は立ち上がり、あゆりに言う。


「あゆり……力で解決することが全てじゃないわ……。あなたはその“優しさ”をここに持っているじゃない。……だから泣かないであゆり」


するとあゆりは涙を拭いて海里の姿をちゃんと見る。……涙声になりながらも少女のその姿を見て。


「すみません、アイスクリーム落としちゃいました」


「あぁ……大丈夫よ。暑さに耐えられず溶けちゃっただけよ……それにまた買えばいいことだし」


 財布からそう言いながら200円をあゆりに手渡す海里。


「安い物よ、私にとっては……それに」


「それに?」


 1人前に歩く海里。あゆりの方を向いてその先を言う。





































私は──。
































あゆりが1番大切だと思っているから。

























 と海里は答えた。
























 海里の言う意味をこの時理解できなかったあゆりは、少女が何を言っているかわからなかった。


 ただこれだけは確信できた。自分が大切に思われていることに。


「ありがとうございます海里ちゃん」


「さあもう一度駄菓子屋さんに行きましょ。早く行かないと売り切れちゃうかも?」


「そんなの嫌です! 絶対に手に入れますよ」


「ふふ……今度は私も買うから一緒ね」


 2人は玉川の道を歩きながら楽しく会話をする。


 先ほどのことなんか最初からなかったかのように。


 海里は、あゆりに一言話途中で。


「ねえあゆり」


「なんですか?」


「あなたのその優しさ。……きっと誰かの役に立つと思うわよ? いつになるのかはわからないけど」


「……面白いこと言いますね。……それって大体いつ頃になりますかね?」











 海里はそっと答えた。





















──それは。





























 雨の降りやむ頃。





















 とかかな……。




















 あゆりの方を振り返り、海里は言った。


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