第5話 6/24『潤う顔は、あたかも君の心のよう』
「もうすぐテストなので各自ちゃんと勉強しておくように」
朝のHRがおわり、クラスにいる生徒達は隣の席にいる友人同士で会話をしていた。
夏が近づいてきたせいか漸を追って雨の日がだいぶ少なくなってきたような気がする。もうすぐテストの日なんだが、果たして上手く勉強できるのか正直自分でも不安な部分がある。
それでもサボってこのまま、補習行きにされるのはよくないのでちゃんと勉強することにした。
「大変だけど頑張るか」
赤点取りでもしたらあゆりちゃんとの約束が果たせなくなるので必死で、この期間中は勉強を頑張ろう。
その日の放課後、俺はどこの部活にも所属していないので基本的に帰宅部だったことから時間を自由に使うことができた。
参考ついでに近くにある、書店へと赴き資料を漁る。
「いらっしゃいませ~」
お店の入店音がしたと同時に足を踏み入れると、耳から店員さんの声が聞こえてきた。
店内は、午後の時間帯のせいか学生が各所に本を探す様子が多々見られる。
恐らく俺と同様にテスト対策にこの書店に来ている人もいるのだろう。
広い店内にある大型の本棚は、店内置ける範囲のあちこち置かれており、壁際の方にも入り込んである本棚もある。
書店というよりこれは図書館に勘違いされる範囲のできなのだがそれは。
おっと忘れるところだった。目的を忘れていれば無駄に時間を消費することになる。……さて目的の本は。
店内を静かに歩き、テストの参考になる本を探す。
教科書で先生から教えられた範囲のところだけ見て、テストするのもありだがそれだと効率が悪い気がする。
なら参考資料も有効活用しながらテストに望むべきだと自分なりに思ったからだ。
これが効率のいい方法とは思えないのだが。
参考になる本を何冊か購入し、帰って勉強しようと店を出ようとしたとき。
「もう19時前か。探しながら立ち読みしてたらこんな時間になってしまったな。……寄り道せずこのまま帰ろうか」
日没に吹くそよ風が物音を立てながら、街に落ちている木の葉を遠くへと飛ばしていた。
外の寒さと風には十分注意しながら帰ろうと、自動ドアに向かおうとしたその時。
「あれは?」
どこか見覚えのある顔ぶれが遠くの本棚から確認できた。
少し気になるのでそっと近づいて様子を見ることにする。
「これでも、ないわね。……どこにあるのかしら」
歴史の資料が並んだ本棚に真剣な顔で本を探す清巌さんの姿があった。
必死に片手に持つ紙切れを見ながら本棚を見ているが、何を探しているのだろうか。
「こそこそしないでいいから。そこにいるのは分かっているわよ立川君」
「ばれたか。……こんなところでなにしているの」
彼女は俺がいることを分かっていたかのようにこちらを尻目で見つめてきた。
どうしているのが分かったのかそれはさておき。
「そっちはこっちのセリフよ。あなたこそなにやっているの?」
「これ、俺が先に言わないと言わないといけないパターンですか」
いつもの冷徹な顔でこちらを見つめてきた清巌さんは、手に持っていたスマホの側面を俺に見せてきて。
ま、まさか。卑怯すぎるだろこれは。
「言わないと、セクハラとストーカーで通報するから……110と」
「「や、やめてくれ! は、は、話すからそれだけは勘弁を」」
慌てた俺は即座にやめるよう彼女を止める。……頼むからそれだけはやらないでくれ。
容赦ない彼女の通報を回避した俺は先に言う。
「ふーん、テスト勉強ね。ならいいけど」
「こ、これでいいだろ今度は君の番だよ」
「どうしようかしら?」
ず、ずるい自分だけ逃げようとするなんて。俺にあんな恥をかかせておいてそれはないだろ。
「こっちが言ったんだから言えよ」
諦めがついたせいか、少し硬い表情を崩した清巌さんは吐息を1つしてようやく答えてくれた。
「地元にいる幼なじみ……その子中学生なんだけど歴史のある本が欲しいって言っててね、買ってあげようと立ち寄ったのよ。昔は一緒に帰っていたんだけど高校に上がって生徒会長になってからは会う機会があまりなくてねせめてのお詫びにその子にあげる本を買いにきたってわけ」
案外優しい一面あるんだな。学校では中々見せてくれない顔だな。
「何よその顔。私が珍しいって顔しているわね」
「いやいや、そんなわけないでしょ」
「安心しなさいそういうの顔に出ちゃっているから。私に隠すことなんて無駄よ」
「ぐっ」
痛いところを突かれた俺は彼女に完敗した。とても鋭すぎて太刀打ちができない。
……してその幼なじみが気になるところがあるが。俺には関係ないか。
「わ、悪かったよ。でも暴力だけは」
「私もそこまで不良じゃないから大丈夫よふふふ」
笑い声がとても怖いんですがそれは。
「ところで立川君、テスト勉強しているのよね? 少し私が教えてあげてもいいわよ」
どんな風の吹き回しかは知らないが、とてもありがたい。
「ぜひともお願いします」
俺はそのまま彼女の話に乗り、近くのファミレスに行き勉強を教えてもらった。
分かりやすく丁寧に教えてもらい、様々な知識を頭に埋めることができた。
そしてファミレスの勉強会後。
「今日はありがとう、とても助かったよ」
「そ、そう? ……私は上手に教えたわけじゃないけど……立川君の飲み込みがはやかっただけだし」
先ほどあった時の素振りとはことなり、照れくさそうな顔でそっぽを向きながら答えた。
清巌さんってこんな顔するんだ。
「……また何か教えてもらい事があったら言いなさいよ。委員会で毎日は無理だけど空いた時ならね」
意外と優しい我が校の生徒会長様。
「ありがとう、それじゃ俺はこっちだからまた明日学校で」
「気をつけて帰りなさいよ。……まったく」
最初はとても怖い人なのかと思ったけど、いざ話してみたらそうでもなく好感の持てる相手だったな。
また教えてくれるって言ってくれたし彼女には感謝でいっぱいだ。
……本当は密かに友達になって欲しいのかもしれない。
勉強を教えていた今日の彼女とても楽しそうに見えたし。
また声かけてみようかな。
◉ ◉ ◉
それからテスト勉強に明け暮れる日々の毎日。
分からないところがあれば、その度に予定を合わせた上で清巌さんに何回か勉強を教えてもらった。
日を遡って待ちに待った期末テスト。
問題は難しいものが多かったけれど、勉強の成果がでたおかげか補習を避ける点数を回避でき、高い点数を取ることができた。
期末テストが終わってから数日後クラスの廊下にはテストの順位表の用紙が貼られ、全クラス生徒はそれを人混みを作りながらひたすら自分の順位を確認していた。
「俺の順位は……30位か。前回は50位くらいだったからな。全部清巌さんのお陰だ。なんかお礼言わないとな」
ところで清巌の順位はどれくらいだろうか。ついでに見てみよう。
順位表を目で人混みの中奮闘しながら、下から上へと視線を移動させてみると。
あった。
「…………って」
『第1位 清巌 海里』
案の定、学年トップの座を維持しつつ実力の差を他の生徒にみせつけていた。
さすが優等生と、正直悔しいが彼女を羨ましいく思う。
どうしたら毎回のようにそのような高得点を狙えるのか、カンニングでもしているんじゃないかと疑いたくなる点数なのだが。
俺は到底彼女に追いつくのはまだ不可能。というか到底追いつけない天と地との差があるため一生かけても追い抜けなさそうだが。
他人と比較するのはよくないことだが、こんな差をつけらたんじゃやる気も消えゆく灯火のようになくなる。
喜んだのもつかの間。彼女は俺の遙か先を行き、実力の差を生徒一同に見せつけてくる
もし願いが叶うのであれば、彼女の頭脳を少し俺にも分けて欲しい気持ちもあるが、こうなると俺もまだまだなのだろうか。
嘆息を1つこぼし一拍をおく。そして教室に帰ろうとした時、雑踏とは違う端の方に。
彼女――――――。
清巌さんの姿がそこにあった。腕を組みながら高みの見物をしている彼女だが、歩く俺の姿を察知すると、口を歪ませにやっと笑いこちらにサムズアップをしてきた。
その彼女がしてきた事の意味を俺は理解する。
やったわねと。
自然とその対応に俺も。拳を作り親指を立て黙礼した。
その場をあとにしながら小声で彼女にささやく。
「ありがとう。 清巌さん」
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