第12話 7/6『夏の風向きに、思い馳せる』
駅。
陽香の誘いで町の中心にある駅へと足を運ぶ。
朝かそれとも夏休みなのか、行き交う人には私服を着る人々が多く見られた。
俺達と年層が同じくらいの学生もちらほらいる。
駅前のコンビニへ行くと、快活とした手を振る元気な彼女の姿があった。
「おーい翼くーんこっちこっち」
なんだろう。ちょっとしたデート気分。彼女のことは現状好意を抱いてはいないが。
「早いな」
「一緒に行きたかったから、つい隣町で約束しちゃったけど」
聞けば、俺と一緒にそこへ行きたいがために、気遣い隣町の駅にしたんだとか。
直接行き先の駅で待ち合わせるよう言ったんだが、それだとダメだと断られた。
1人でいるよりみんなといた方がいいと陽香なりの楽しみ方なのだろう。
肝心な、その陽香の住む場所を言われていないのだが果たしてどこに行くのか。
うちの学校は色んな場所から来ている人が多いので、思い当たる場所がいくつもあり候補が挙げきれない。
「それで場所はどこだ?」
「えーとね。……取りあえず乗り場へゴー」
誘導されるがままバス停へ。
番号振りのバス停だが、以前にもここにきたことがある。
あれは、玉川町に行った時訪れたよな。……そういえば少女は元気にしているだろうか。
と……歩いた行った先は。……玉川町行きの乗り場だった。
「ここだよ」
「えぇ……まじか」
「意外だなって顔しているけどどうしたの? ……とりあえず私の住む玉川町に行くよ……あと3分ほどかな」
意外過ぎて、正直びっくりしている自分がいる。
数分。低音を立てながら走るバスが一台やってきた。行き先には【玉川町行き】と書いてある。
そのバスが停まり、扉が開くと俺達二人はバスへと乗車した。
中には誰も乗っていないので独占状態。後ろ側の席の方が見晴らしのいいと言う陽香に勧められその席へと座る。
「今更だけどさ、陽香って玉川の出身だったんだね」
「……? そうだけど、なに行ったことあるの?」
「あぁ。中間テスト明けの休日、あの日は雨だったかなその日に行ったよ」
傘をその時忘れていった愚かな過去の自分がいるが。
「ふーん、なるほどね。……じゃあ行ったことあるんだ」
話している間にも、出発時間を向かえたバスは玉川町向けて出発し始めた。
揺れ動く席の中。俺達二人は会話を弾ませる。
「そこで、小柄な少女に会ったんだけど」
「あぁ……もしかして」
時間はあっという間だった。1時間ほどでその場所へと到着し俺達は代金を支払って降りた。
あの時、見慣れた景観が目の前に映る。
日差しが強い高温地帯。辺りから蝉の喧噪が渦巻く。
田んぼには農作業をする老輩達の姿が見えた。
あの雨に見た景色とは別の様子。
「とりあえず、小学校に行こうか。その子が待っているはず」
バスから降りた一本道をひたすら進む。
陽香の言う"その子"とは誰のことを言っているのかは知らないが、一体どんな子だろうか。
あゆりちゃんのような優しい子が、理想的だけどできればそうであって欲しい。
……ついでだ。帰りがけにあゆりちゃんにでも会いに行こうかな。……どこにいるかは知らないけど、町中を暇な時歩いていると言ってたしそのうち会えるかもな。
「あ、あそこあそこ。おーい」
目の前には著大な学校があった。高校並みの広さはない。
学生が少ないせいか校庭は少々狭めだが、それでも立派な建物であった。
……とその校門前にふと人物像が見入る。
麦わら帽子を被った少女の姿。
少し前に交わしたあの約束。それを今。
「おーいあゆあゆ」
「あ、陽香ちゃん。……やっと来ましたね…………そちらが……って」
俺のことを認知したその少女は言いさす。既視感のある俺の姿を見て。
「翼さん? ……翼さんですよね」
嬉しそうにこちらへ近づくと、その小さな手で俺の手を握ってきた。
「あれ?」
反応に困惑する陽香。
本当は驚かそうと考えでもしていたのだろうか。
少女は俺に顔を見せると、話しかけてくる。
「ま、待ってましたよ。……噂に聞いてはいましたけどまさか翼さんだったなんて。驚きです」
俺は少女に向かって一言。
「また会いに来たよ。あゆりちゃん」
こうしてあゆりちゃんとの再会が、やっとのことで果たされたのである。
「まさか二人が知り合いだったなんて、聞いていないよ」
小学校の中に入り俺達はぶつぶつと話しながら古風漂う廊下を歩いていた。
ここ、玉川小学校はあゆりちゃん達が昔通っていた小学校らしい。
夏休み期間中は一般開放されているみたいだが、訪れる人はあまりいない。
……すると陽香は使われていないある部屋へと向かい。
「まだ残っててよかった」
「だいぶ使われてなかったみたいですけど……ちゃんと開きますかね?」
陽香は長い間、取っていたその部屋の鍵を使い扉を開けようとするが。
引き戸をひ…………。
「く…………」
ひ…………。
「ぎぎぎぎ……あれ?」
引こうとするが、中々開かず手詰まっている様子をみせた。
仕方なしに彼女は力一杯にその扉をこじ開け。
「よし、開いた」
不協和音を鳴らしながらその扉を開ける。
「だいぶ使われていなかったようだけど、この部屋大丈夫かよ? まさか崩れたりしないだろうな」
するとあゆりちゃんが耳打ちして。
「大丈夫ですよ。……扉はともかく中はほこりまみれかも知れませんが」
果たして大丈夫のかと心配になる部分はあるが。
なにやらこの部屋に思い出が詰めているらしいが、果たしてそれは一体。
でも何かとそれは気になる部分がある。
秘密基地に潜り込むようなそんな気分。
「さあ入って…………ってほこりが結構あるね」
中は委員会室くらいのスペースだった。
壁際には本が敷き詰められた巨大な本棚が設置されており、くっつけるように机が向かい合うように置いてある。
「変わっていないですね」
本棚にはほこりがたくさん覆い被さっているが、窮屈さは古い部屋でありながらもあまり感じられなかった。
陽香がここに連れてきた理由。あゆりちゃんを俺に紹介する……のもあったのだが、軽くこの町のことを紹介しようとここに訪れたらしいのだが、何があるというのだろう。
こういう時は、普通神社だったりお寺を巡るのが一番だと思うが。
「翼さん、あの本見て下さいすぐわかりますよ」
俺の考え事を悟ったあゆりちゃんは微笑を浮かべ、人差し指を陽香のいる前の机に指す。
言われるがまま、そちらを向く。
……と陽香のいる机……とは別の窓辺にある台の上に目が行く。
(あれは……?)
1枚の写真立て。
3人の記念写真。真ん中の小さいあゆりちゃんの肩に手を乗せるように、2人が映っている。左が陽香。……右は。
その顔に自ずと既視感を抱く。どこか見たことがあるような顔。
無表情ながらも特徴的な長髪。知的さを感じさせるその少女。…………うん? この子はもしかして。
いやまさか。
と思ったのもつかの間。
次。陽香がどんと机に置いた本で、その不安が確信へと変わるのだった。
分厚い写真アルバム。
その本のタイトルにはこう書いてあった。
『自然活動部 記録書1』
と。
自然活動部。
そういえば海里が前、そんな名前の活動部を昔作ったと言っていたが。……もう疑わなくてもいいような気がするが一応。
「どうしたんですか? 翼さん」
「ねえ、あゆりちゃん。……写真立てに映っている髪がとても長い子って……」
「あぁ……。そうですよ」
一瞬なんのことかと記憶を探り出すあゆりちゃん。
そしてその写真に映る少女の名前を彼女は口にした。
「海里ちゃんですね。……清巌海里ちゃん。私達の幼なじみです」
全て繋がった。
俺は、既にあゆりちゃん達の間に入っていたことに。
まさかとは思ったがあの海里が。
世間は広いようで狭いということを改めて理解した俺。
「私達2人のまとめ役になってくれていたんですよ。ここの部長として」
昔から海里って凄い人だったんだなと再認識し。
「うーん」
ほこりを払い、アルバムを綺麗にする陽香。
「これだね、私達自然活動部の記録書」
「それで、俺をここに呼んだ理由って?」
「あぁそれね。翼君には町の紹介って言ったんだけど本当は違うんだ。……あゆあゆとちょっと話したことなんだけど…………いいかな?」
あゆあゆ……あゆりちゃんの愛称だと思うが……今ようやくそれを理解。前にあゆあゆと会話の中で言っていたがあゆりちゃんのことだったか。
陽香が話があるみたいだがその内容は。
「俺でよかったら力になるけど」
少し言いづらそうな陽香。
頬をカリカリと視線を一瞬逸らすが。
「久々にやってみようかなと思って……海里はもういないけど」
隣に立つあゆりちゃんはにこっと笑い。
「翼さんが入ってくれたらとても嬉しいです」
陽香は言った。
「もう一度、昔私達が作った自然活動部を再結成させようかなって。……どうかな?」
陽香の頼みそれは。
昔海里達が昔作った、自然活動部を再結成させようとそんな話を持ちかけてきたのである。
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