7月 初夏

第11話 7/4 『雨上がりの空を仰ぐ』

 6月がおわり、7月を迎え季節はすっかり夏になろうとしていた。


 外を出れば、猛暑日の暑さが俺を襲い出歩くことすら何かしら困難に思える。


 1学期も残すところあと少し。


 うちの学校は他の学校と違い若干早目である。従って早期に夏休みへと入るのだが当然宿題の量もそれなりの量が出る。


「はい、じゃあ残すところ1学期も1週間になりましたが、みなさん気を緩めずに学校生活に励むように。……あと遅刻は絶対しないようにしましょうそれでは」


 放課後の終礼がおわり、座っていた生徒達上がりざわめきだす。


 窓辺から外のグラウンドを見ると、部活動前の軽いウォーミングアップを行う運動部の姿。


 猛暑日の暑さの中、彼らはよく体を動かせるなと感心を持った。


「あそこまで、体を動かせるなんて正直羨ましいな」


 これといい、俺には得意な分野もなければ目立った特技もない。ごく普通などこにでもいる一般の高校生である。


 時刻は16時。


 部活動に入っていない俺は、鞄を背負い引き戸を開けようとした。


 だがそこへ。









「……」

「うわっ!」


 何故か開けた瞬間に、こちらを睨みつけるような顔をした海里さんが目の前に現れる。


「もう……何よその反応は。びっくりするじゃない」


「いや、それはこっちのセリフなんだけど」


「生徒会まで時間が余ったから今日はあんたの顔でも見にこようかと思っていたんだけど」


 よかった。俺が悪いことでもして、この海里さんに説教でもされると思っていた。


「俺、てっきりなんか悪いことでもして叱られるのかと思っていた」


 海里さんはくすっと笑い。


「馬鹿ね翼。そんなに私のことを恐れていたの?」


「いやだってなんかいつも怖そうな目つきばっかしているし」


 しかめた顔で俺を見つめる。……なんか気に触るようなことでも言ってしまったかな。


「悪かったわね目つき悪くて。……でもいいわあんただから特別に許してあげるわ」


「ありがとう海里さん」


「翼。気安く呼んでもらって構わないわ そんな躊躇わなくてもいいから」


……呼び捨てでも大丈夫ということだろうか。


 ほんと海里は怒っているのか、喜んでいるのか感情が読みにくいやつだな。


「それでその続きは?」


「あぁそうだった。……本当はなんか用事でもあったからここに来たんだろ? 違うか」


 さっきから海里はモジモジとした、素振りをやっているがどう見てもそれは俺に用があるそんな様子にしか見えなかった。


 顔はあまり変えていないので表情を掴み取ることはできないのだが、手の動かし方からして恥ずかしがっている動作を俺に見せている。


 結構海里って恥ずかしがり屋なのかも。……ここは男の俺がリードして頼みを聞いてあげないとな。


「バレてたのね。……あんたにしては上出来だわ。……じゃ……言うわね」


 だからなんでそんなに恥ずかしがっているんだ。


 と海里は自分のスマホを差し出してきた。……もしかして。


「番号……交換して。友達陽香以外全然いないから」


「え、まじ?」


 唐突に何事かと思ったら、連絡先を交換してくれとのことだった。


「べ、別にいいけど」


 海里ともあろうものがこういう申しをしてくるとは予想外。


……考えてみれば、俺には友達1人もいないし、貰って損はないか。


 それに陽香とは、今度遊ぶ約束しているし連絡先くらいもらっても損はないと思う。


 ならここは素直にもらうべきだろう。


 そしてお互いに連絡先を連絡したのち。


「海里。陽香の連絡先も教えてくれないか?」


「あぁ陽香ねいいわよ。じゃ、あの子には伝えておくから……って感謝しなさいよね」


「あ、ありがとう海里」


 またこっちを睨め付ける海里。


 すると彼女は腕を組みながらほっとため息を吐く。


 どうしたんだろう。


「……ほんとあんたを見ていると昔の陽香にどこか似ているところがあるわ。バカなところなんて特によ」


「俺ってそんなにバカだったのかよ」


「えぇとても面白いくらいね」


 バカにする話はともかく。


 昔の陽香はどんな感じだったのだろう。……あんなに明るい彼女だから昔はとてもやんちゃだったようにしか思えないのだが。


「そういえば……昔3人でこの時期くらいに、夏休み何するか色々話し合ったっけ。……結局みんなで思い出作りすることになって色々する羽目になったのだけれど」


 なんか興味深い話の内容だな。


 陽香と……あと1人は誰だろう。……そういえば本屋で会った時下の幼馴染がいるって言ってたなその子なのだろうか。


「とても興味をそそられそうな話だな。……今もやってたりするのか?」


 首を振り肯定する海里。


「流石にね。……私は家がとても厳しいところなの。中学に上がる頃にはそんなこと一切許されなかったわ。……本当はもっとやりたかったんだけどね」


 海里も思い悩むことの1つを持っているらしい。


「もし、まだあったらやりたかったなそれ」


「いいんじゃない。……結構あれ楽しかったわよその部。……だからあんたがそこにいたらもっと楽しかったでしょうね」


 部。と言うことは部活ということなのか。


 話からして、夏休み限定の部活だと考えられるが。


「おっと……そろそろこんな時間それじゃあね。……生徒会に行かないといけないから。また今度話しましょ。……メールでもいいけど」


 手を振り、俺は彼女を見送る。


 気を取り直して教室を出て、家へと帰る。


 途中、寄り道にどこか寄ろうとしたもののそれはやめにした。……時間は夕食の時間を迎えていたからだ。


 とりあえず、家の近くにあるコンビニへと向かい、そこで今晩の飯を。


 家のすぐ近く。歩いてすぐ近くに行けるコンビニへと立ち寄り、夕食を買う。


 数分もかけず、店に並んでいる弁当を1つ選び手にとる。


「よし、今晩はこのカレーライスの弁当にしよう」


 カレーのレトルトの付いたご飯の弁当。値段もそこそこお手頃な価格なので、安価ですぐ手に入る。


 そしてレジで会計を済ませ、コンビニを出て家へと帰り、1人ではあるものの夕食を摂る。


「いただきます」


 合掌して温めで作ったカレーライスをいただく。


 付属品のスプーンを開封し、それを手に取り頂こうとしたその時だった。


 スマホがなりメッセージが表示された。……差し出しは。海里。


『陽香にあなたの番号教えておいたから。あとよろしくね』


 ……できればもうちょっと時間を考えて欲しかったのだが。


 まあ気にすることはない。とりあえず返信。


『こちらこそ。とても助かったよ。これから色々時間があったら話そう』と打って返信する。


『もうすぐ勉強時間だわ。じゃあねもう今日は話せそうにないから先に言っとくわねおやすみ』


 勉強熱心だな海里は。


 俺はもうテストないからやらないけど、俺もやった方がいいのかな。……いややり過ぎはよくないか。……それに海里みたいにそんな頭よくないし長時間長続きする気がしない。


「真似ばっかりもよくないしな。今日は風呂入ってもう寝るか」


 そのまま、入浴をすませその日を終えた。














 終業式。


 長かったような短くも感じた1週間。


 俺の机にはどっさりと分厚めな、夏休みの宿題の山が置かれていた。


 こんな分厚い量をやるのか。


 厚さからして中学の時より倍以上の量がありそうなのだが。


「はいそれでは皆さんよい夏休みを。体を崩さず規則正しい生活を送るように。……ではまた2学期で」


 教師が教室を出ると、また生徒がはりきり出した。部活へと直行する一味。


 スマホで動画を視聴する女子3人組。


 俺はというといつものようにグラウンドを見つめながら、下校する支度を整える。


 今日はというと扉を開けても……海里の姿はそこになく。そのままスムーズに帰ることができた。


 夏休み前ということもあり、昼前に終わることができたので家近くのファミレスで少しくつろぐことにした。大体1時間ちょっと。


 その日はというと、特にやることもなく、暇つぶしに夏休みの宿題を夜行ったのだが、思いのほかの量で1日では中々終わらなかった。


 仕方がなかったので今日は1学期の疲れを取るため、早めに寝付くのだった。


 翌日。なんの当てもなく、昨日していた宿題の続きを扇風機をかけながら黙々と行っていた。


 外の蝉の喧騒がやたらとやかましいが。もうちょっと静かにしてもらえないのか。ウチはただの一軒家なのでまずマンションやアパートのような厄介事に巻き込まれることはないのだが、それでも外の暑さと蝉の煩さが相まって非常に中々集中できなかった。


 そんな時に1通の電話がかかる。


 陽香からだ。


 遊ぶ日が決まったのでこの日にここへ来るように招集をかけてきた。


 俺はその日に備えて、宿題を着々と熟すのであった。







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