第13話 7/6『再び、動き出す夏の空』
提案。
陽香が切り出してきた話。それは海里達が昔作った『自然活動部』の復興の話だった。
海里から話で聞いたことではあるけど、一体どんなことをするのやら。
最初何を言うのかと思ったが、まさか来て早々加入させられるとは俺も運がないな。
でも気になりはする。実際やってみたい気持ちも。
だから俺は聞いてきた陽香に。
「全然大丈夫だけど、だって夏休み暇だし」
面倒くさい宿題という強敵が、俺の部屋に存在しているが、何も問題はない。
もしも分からない難点があったとすれば、そこは海里にでもメールして教えてもらえればいいことだ。
別にずるいことをしたいんじゃない。これはみんなの事を思っての正当な手段を考えたまで。
じゃあその方針で1度、この自然活動部に入ってみることにするか。
「それじゃ決まり!」
「ありがとうございます翼さん」
一件落着すると、陽香は手を合わせて合掌。
すると置いてある自然活動部のアルバムを開いて、見始める。
「……うっわなつかしい」
「……これ、陽香ちゃんが海里ちゃんに無理矢理スイカ割りさせられた時の写真ですよね?」
写真のアルバムをめくる度に、3人の想い出……いや中には黒歴史たる写真もちらほら。
寝ている海里を陽香が油性のマジックペンで拙劣な落書きで美形が崩れている写真や、海里と陽香が変な膨らみ顔でにらめっこしている写真がある。
肝心のあゆりちゃんは、というと2人に比べてとてもまともな写真ばかりだった。
今よりやや背が低め。なのだがどれも愛くるしい1枚写真の数々。ブランコでシャボン玉をするあゆりちゃん。ジャングルジムで必死に上へ登るよう頑張るあゆりちゃん……これ誰が写しているんだろう海里だろうか。
と全然俺より青春送っていて目から涙が。
「……? どうしたんですか翼さん。 目から涙出ていますよ」
俺を慰めようと、背中を優しく啜ってくれるあゆりちゃん。眉をひそめ気遣うその対応は天使そのものだった。
「あれ、翼君。嫌な思い出でもあるの?」
気にかけるよう言ってくる陽香。
「陽香ちゃん誰でも思い出したくない過去だってありますよね? そうでしょう」
擁護する形であゆりちゃんは俺をカバーする。なんて優しい子なんだ。
俺は小学校から中学、友達はいたが実際休日会って遊んだりしたことは1度もない。
放課後帰宅部の友達を誘おうとしたけど、団欒とした間に溶け込めず断念。
それで気がついたら中学卒業しているしで、まともな学生生活を送れていなかった自分がいる。
それに比べて、この3人。俺より学生生活、充実させていて無性に自分が情けなく感じるようになった。
もしもっと早く会っていれば、いい学生生活が送れていたかもしれないそんな思いを胸の中で抱きながら。
「……何があったか知らないけどさ、気に障ったなら謝るよ。……翼君にも思い出したくないこともあるだろうし」
共感し、同情する陽香。
そして仕切り直し。
「というわけで俺、昔まともに人と遊べていないんだよ」
このまま隠し通すのもあれなので言う事にした。
「ま、まさかそんな」
「……翼さんそれは辛かったですね」
無理に言う必要はないと2人は気遣ってくれたが、このままだと迷惑を掛けてしまう。
それは絶対ダメだと諦めた俺は正直に白状したのだが。
……あゆりちゃんは途中もういいですよと言ってはくれたのだが断った。
だって申し訳ないし。
「……でもこれから作ればいいじゃん。私と……あゆあゆがいるわけだし」
「そうですよ。そんなに落ち込む必要はありませんよ」
なんだろう。2人ってどうしてここまで頼もしいのだろう。
人に、こんなに優しくされるのは初めて。
「それじゃ……まずは……部長を決めよう………………と言いたいところだけど」
「だけど?」
「だけど?」
一同。口を揃え言う。
「まずは掃除から始めないと……こんなほこりまみれな場所だと息苦しいよ」
「そうですね」
……所々蜘蛛の巣やら、ホコリの塊が風に吹かれて飛んでいったりしている。だいぶ放置され仕方のないことだとは思うがここは陽香の言う通り掃除をしよう。
そして、一同隣の部屋から使わなくなったエプロンと雑巾、バケツ、箒を持ってくる。
「じゃあ、分担するよ。あゆあゆは箒。翼君は窓の掃除をお願い」
「どうしたらそんな分担になるんだよ」
「どうしてってそれは体力がこの中で一番多いのは私だからね。だから仕上げの拭き掃除は私がやるわけ。……大丈夫出番が来るまでは2人をサポートするから」
そこまで言われたら頭が上がらない。何にせよ俺は海里と陽香に水泳で負ける弱者だからだ。
悔しいがここは素直に彼女の指示に従うとしよう。
1時間。時刻はあと1時間過ぎで12時になる。
俺とあゆりちゃんはてきぱきと体を動かしながら掃除をする。
陽香はというと。
「……? 何よそ見しているの? ちゃんと掃除しようよ」
腰に手を置いて、偉そうな格好を取る陽香。……なんか図に乗りすぎな気がする。
すると隣ではたきで本棚のほこりをぽんぽんと落とすあゆりちゃんは、こちらを見て小さな声で言う。
「翼さん翼さん。頑張りましょう」
エプロン姿の、マスクをつけた可愛らしい格好をしたあゆりちゃん。この子は将来的に素晴らしい奥さんになりそうな気がする。
と少女にみとれる俺。
「翼さん? どうしたんですかぼーとして」
「……っは! いやいやちょっと意識が飛びそうになっただけで」
「それ、暑さのせいじゃない?」
本当は違うが。
「あぁそうかも知れないな」
ピッ。
陽香はなにやらリモコンのスイッチを押して。
「これで大丈夫でしょ」
「陽香ちゃん大丈夫なんですか? エアコンなんか使って」
「……事前に先生に言っておいたから大丈夫だよ。私達の時にいた先生がいたからすんなりおKしてくれた」
この学校すごくフリーすぎじゃないか。
クーラーをつけ、涼しい風が吹いてくるが……うん涼しいな。
「さあもう一踏ん張りだよ。頑張って」
現場監督する陽香はひたすら俺達に指示を出し、着々と部屋は見間違えるように綺麗になっていった。
本棚をはたくあゆりちゃん。
「…………」
「…………」
「…………」
自分の背ではとても届きそうにないので、頑張って背伸びしながら対抗する少女。
小さい体。にも関わらずよくできると関心する俺。
「……」
「あぁ……だめ」
しかし一番上をなんとかはたこうとするが、あゆりちゃんの背では全く届きもしなかった。
見過ごせなかった俺は。
「あゆりちゃん」
「? 翼さん?」
「よかったらこれ使って」
俺があゆりちゃんのために用意したのは近くに置かれていた1台の椅子。その高さはちょうど、少女が立った時棚の一番上に届くくらいの高さだったのでこれを貸すことにした。
「ありがとうございます」
一礼すると、少女はその椅子の上に乗り、届かなかった範囲をはたき、ホコリを下へと落とす。
……お、結構俺って2人の役に立っているのでは。
友達いない歴数年の俺が初めて人の為に役に立っているなんて。
「翼君、いいことするじゃん」
現場監督さんにもなんか褒められているし。
一通り、掃除しおわると陽香が。
「お疲れ。それじゃ仕上げるから2人は外の廊下で待っていて」
「おっけい。任せた」
「ではお願いします」
ここは陽香に任せ、俺達2人は横並びするように立った。
「……なんかすごいゴシゴシする音が聞こえるけど、大丈夫かな?」
「……あぁ大丈夫ですよ。だって陽香ちゃんですから」
てっきり彼女はあまりの力を制御できず、床に穴を空けてしまうんじゃないかと心配したが大丈夫か。
「あれでも加減している方です。本来の9割ほどは」
え。それって本来はあれ以上もっと強い力があるって事なのか。1割程度でこの力強さ侮れん。
陽香は怪力娘認定してもいいかもしれない。
すると、あゆりちゃんは話題を変え。
「ところで翼さんどうです?」
「どうって?」
「ここ、自然活動部の雰囲気は。……と言っても私も久々にきたので言えた筋ではありませんが」
自然豊かな場所に囲まれた場所。そこの近くにあるこの玉川小学校。
封印されていた古の部室、『自然活動部』の部屋。……どれを取っても完璧だなこれは。
「素晴らしいところだと思うよ。自然は豊かだしとても心安らぐいい場所だ」
「それはよかったです」
後ろで腕を組みながら少女は笑みを浮かべる。
とタイミングがよすぎるか知らないが。
「2人共~おわったよ~」
お前は夕飯ができた時、子供達に声を掛ける母親か!
まあそんな愚痴を吐くのは、あゆりちゃんに変な印象を抱かれそうだからやめておき。
部屋を覗くと。
「うわっ……すげ」
先ほどより更に綺麗に。床は光沢を取り戻し、新品と見間違える位綺麗だ。
いやプロが成す荒技だろこれは。
「えっへん」
にやけ嬉しそうに笑う陽香。
非常に可愛らしい女の子な一面だが、褒めると伸びるタイプかこの子は。
それなのに、勉強は全然できないのはどうかと思うが、少々なんで高校に上がれたのかが不思議。……恐らく海里の協力あっての合格かもしれないがありえるな。
「……とりあえず12時なったしファミレスでも行かないか? ……バスで少し行った所にあっただろ?」
「あーあったね。あそこ ここに帰ってくるのちょっと遅くあゆあゆいいかな」
「私は構いませんよ。……それに3人とならなんか楽しそうですし」
「そっか……なら決まり! そのファミレスへれっつゴー!」
相変わらず無鉄砲すぎる陽香。
ここに最短で行くにはこの便使った方がいいとか、違う方法で行くとか色々あると思うが、この陽香はそんな後先の事考えずに直進する。
……あれか直進しかできない電車かお前は。考えるのは後回しとかそんな浅知恵しているか!?
「なに、翼君。なんかまずそうな顔しているけど」
「い、いやあなんでもないよ」
まずい。顔で悟られそう。
横。
隣でにこにこ微笑んでいるあゆりちゃんはご機嫌よさそうに笑っている。
とても、俺達と食べに行くことを楽しみにしているそんな様子。この笑顔が俺の不安を全て打ち消してくれるいい薬になってくれる。
逆にそれが、俺の神経を狂わせる要因なのだが。
あゆりちゃんは天使。可愛いは正義以上。
「じゃあ行ってみるか」
「あ、ちょ。翼さん待って下さいよ。……って何にニヤけているんですか」
俺達は3人で、ファミレスに昼食を摂りに向かうのだった。
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