第9話 『あの日降った雨の追懐 その1』
これは、今から5年前のことである。
とある3人がまだ幼かった頃のある日のできごと。
ここは玉川町。そこに姉妹のように仲のいい3人がいた。
時期はもうじき夏休み前日の昼休み。学校にある木に登り木陰に涼み寝ている1人の少女。
少女が息を吐きながら寝ていると下から誰かが近づいてくる。
「あ、いた。またこんなところにいて」
「そうですよ、今日は鉄棒する約束してたじゃないですか」
小柄で冷静な性格をする少女と、その少女よりやや低めの少女が彼女の真下に現れ語りかける。
二人の名前は背の高い方が清巌 海里。そして低い方の下級生は玉川あゆりである。
そして今木で呑気に寝ている少女は運動が得意な新宮 陽香の三人である。
3人はいつも休み時間になると、集まり遊んでいたが、今日はそのことすっかり忘れていた陽香はお気に入りの木の上で寝ていたのだ。
声をかけられているのにも関わらず、少女は息を吐きながら寝ている。
「寝ているわね。……全く」
「どうしましょうか海里ちゃん」
「ここで声かけてもこの子起きないわよきっと」
「ではどうするのですか?」
居眠りしている陽香をどのようにここにおびき寄せるか。……あゆりには検討もつかなかった。
首を傾げて何をしようというのか熟考するあゆり。
考えに思いふけっている少女を尻目に海里はその木の前に立って。
「それはね……こうするの!」
「海里ちゃん!」
海里は陽香の寝ている木を思いっきり蹴り陽香を木の上から突き落とした。
「いった! ててて……なにするの!? って海里にあゆあゆ? どうしたの?」
一切こちらの情報を飲み込めていない陽香は眼前にいる二人に驚く。
するとその場で座り込む陽香に顔を近づけて。
「どうしたの? じゃないわよあんた約束忘れてたでしょ? 遅いから来てみればまたこんなところに寝て何様のつもり?」
「あ……そうだ。すっかり忘れていたごめん」
2人がどうして自分の前にきたのか、ようやく思い出す陽香。……自分の犯した罪に反省の…………色を見せない少女は海里に。
「なんか眠くなっちゃってさ……つい寝ちゃった。ははは」
「陽香ぁ……」
適当な素振りをみせる陽香に対して海里は凄まじい殺気のオーラを放っていた。
デコピンでもやってやろうかと構える海里だったが、間にあゆりが止めに入る。
「や、やめてください。ほ、ほら忘れることって誰にでもあるじゃないですか。……なので許してあげましょうよ」
ここは穏便に済ませようと2人を説得するあゆり。
「……あゆりがそういうなら許してあげるけど、でも陽香約束くらい守りなさいよね」
「分かったよ、気をつけるから……だからそんな目で私を睨め付けないで!」
青ざめた顔で怖がる陽香。
「それじゃ鉄棒しにいきますよ」
1人率先して前に進むあゆり。……それに続くように2人も少女のあとを追う。
鉄棒に腰をかけながら夏休みの話題を持ちかけ、会話をしていた。
「そういえばもうすぐ夏休みじゃん? 2人はなんか予定ある?」
「……私は夏休み中は自由にしていいって言われているから基本的にいつも暇よ」
「私もですね。……お父さんとお母さんは仕事が忙しく旅行にも行けませんね。……そう言う陽香ちゃんは?」
期間中2人はいつでも暇ということを陽香に伝える。
2人の家は基本的に両親が不在な時間が長いため旅行すら連れて行ってくれない家庭だった。
なのでクラスにいるごく普通の生徒の話に出てくる、休み期間中家族全員で旅行へいく事を羨ましく思っていた。
「うーんそっか暇か。……私もすることないんだけどね」
「……なにあなた? なんかいいことでも期待でもしてたの?」
「いやいや違うから。決してそんなことは」
顔を近づけ怪しむ海里に対して陽香は。
「ほんとうだよ! 信じて頼むから」
「……分かっているわよ。それであなたは私達に暇を潰してくれるなんか提案でもあるっていうの?」
陽香は何か考えがある顔つきをして答える。
「勿論。とっておきのね」
その陽香の話に2人は乗り、夏休み中2人は海里の家の前に集まることになった。
「なんで私の家前に集まるのよ」
「だって学校が近いから」
大きな鞄を背負う陽香と何も持たず、愛用としている麦わら帽子を被るあゆり。
夏休みに入り、晴れて自由の身になったわけだが、2人にとっては暇な時間ができただけである。
どうしようかと策を講じる2人だが、そんな中陽香が提案してきたこととは。
「じゃあ学校行こっか」
夏休み中、学校の教師に頼み使っていない空き部屋を使えるよう海里は陽香に言われ言われたとおりにした。
すると教師は鍵を海里に手渡して、期間中好きな時に使っていいと言われていたので少女の任務はそれで果たされたわけだが。
その教室はかつて物置部屋だった部屋。物置部屋
と言っても何台かの机を向かい合わせでくっつけた席があるのだが、その端の方にダンボール箱が何台か置かれていた。
教師によるとその中身は体育に使う用具だったり、一般授業に使う用品をそこに仕舞っていたようだが。
後に作られた幅広い物置部屋が作られたのでそこへ段ボール箱等は全てその新しい部屋へと移された。
机、椅子はその部屋に残され、以降用途が見つからず閉鎖し教師は鍵をかけたのだがその部屋を使い陽香達はあることをしようとしていた。
「本当に何に机しかないのね」
「うん、昔はどうやらここが物置部屋だったみたいだよ。なんでも……他におけるまともな場所がなかったんだとか」
「なんでそういうことに?」
気になり聞こうとしたあゆりだったが、海里にその先は聞かないように少女の唇に自分の人差し指を近づけ言う。
「あゆり、そういうのは大人の事情って言うから口を挟んじゃだめよ」
「そうなんですね」
なんのことかまだ理解できなかったあゆりはそのまま、流れに任せるがままに話を聞くのだった。
……陽香が提案したのはこのような内容だった。
自分達の思い出が詰まった3人だけの特別な日記を作ろうと。
ちょっとしたみんなの楽しい思い出作りのため、2人をその話に誘ったのだが。
2人は快く受け入れそれを積極的に取り組む事を決め、3人は夏休み期間中限定ではあるが特別な部活動をこの場所に作った。
「それで何をしよっか」
「あんた、考え無しに作ったの? 思い出に残したいこと1つや2つあるでしょ?」
眉をひそめ、呆れる素振りをする海里。
陽香は愚鈍な為、後先のことは考えずに動く。
「なら、そういう海里はどうなの? なんかあるわけ?」
「そうくるのね……」
自分から言い出した事柄ではあるものの、海里自身もなんのことを書くか分からない少女であった。
「私もどんなことすればいいか……」
3人は思い悩みながら、テーマを決めようとするが。……話は進まなかった。
するとあゆりが。
「ならこういうのはどうですか?」
「なになに?」
「なに?」
「自分達が経験、体験、見たこと……それを全て書き込むんです。なんか面白そうじゃありません?」
2人は自分も考えもしなかったことだったため、それを発想するあゆりに感激していた。
すると前に立つ陽香が彼女の方を指さして。
「「じゃそれで決まり! 海里はどう?」」
「好きにしなさい……って近いわよ」
こうして、3人は夏の思い出を作るため特別な部活動を作り本格的にうごき始めるのだった。
彼女たちが素晴らしいと思える日を日記に書き込むそれを目標にして。
だがここで1つ。陽香は重要なこと言っていないことに気づいた。
それは決めないといけない大切なことに。
「……部長は……と海里でいいや」
「ちょっとなんで私なのよ!」
「あなたが一番この中で頼りがいがあるでしょ? だから部長は海里」
「唐突すぎてなにがなんだか……分かったわよすればいいんでしょ」
「私も海里ちゃんが部長なら安心感が持てます」
そしてもう一つ陽香は。
「あと部活動名何にしよっか。『ざ・チーム海里』、『たまたま』、『青春のパラダイス』」
「陽香分かったからあなたにネーミングセンスが全くないってことは」
名前にネーミングセンスのない陽香の案は海里の辛口によって全て打破されるのであった。
するとまたあゆりが口を開く。
「こんなのはどうですか? ……2人が納得いくような名前じゃないかもしれませんが」
2人は興味津々に少女の声に耳を傾けた。
「自然活動部と言う名前は」
この創部した日が、あゆり達3人
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