第17話 7/10『夏のにおいに漂う青春の風』
翌日。
急な展開で、夏休み期間中あゆりちゃんの家に居候することになったのだが。
昨晩はあゆりちゃんの、寝室とは別の部屋で寝た。
流石に男女が一緒の部屋で寝泊まりするのも、どうかと思うので仕方なしに違う部屋で寝ることに。
父親が昔、寝ていた部屋らしいが、今は時々帰る日になっても居間で寝ることが多いらしく完全に現在は空き部屋らしい。
部屋内はなにもなく、ただ虚無の空間が広がるばかりで窓辺に風鈴が1つ飾られていた。
「それでよく寝られましたか?」
「うん大丈夫だよ」
朝ご飯を食べながら会話する俺達。
『この商品凄いんですよ……こんなにゴミがあっさりと』
『でもお値段はお高いのでしょう?』
『これが、今なら……な、な、なんと! 3点付けて15000円! 15000円ですよ!』
テレビを見るとまた、売れもしないようなテレビショッピングが放送している。
紹介しているのは、掃除機とその付属のキットがついたお得セット。
いや誰も買わんだろと思う物なのだが、これを演じている人達恥ずかしく思わないのかな。
「凄い吸引力ですよ。……散らばっていたゴミがまとまるように吸い取られちゃいました……ほしい」
だがかの少女はそれに興味津々で、目をまた光らせていた。
いやだから近いよあゆりちゃん。目悪くするって。
そんな意中を胸に抱きながら食事を終え。
今日は昨晩の雨が嘘だったかのような、陽光の差し込む快晴が辺りに広がっていた。
風鈴の音色が程よく耳に染み……いやそれはいいんだけど外野である、蝉の喧噪がうるさい。
……みーん。みーん。みんみん。
うん、君達もうちょっと静かにしてくれないかな。
夜行性だったらよかったのになと文句を言う。
あ、でもそれだと逆に夜うるさくて寝られないか。
もっとも蝉は夜あまり鳴かない習性があるみたいだが。
「今日はどうしましょうか?」
ことを終えた、俺とあゆりちゃんは居間で1日の計画を立てるべく話し合う。
「陽香からは昼の1時に部室に来るよう言ってたからそれまで時間あるね」
「……1時ですか。何で昼にしたんでしょう」
少女は理由を考えていそうな、険しそうな表情をする。
そんなに陽香がしそうな事に候補がいくつもあるのか。
「宿題少しやるってさ。昨日陽香のお母さんに1日あったのになんで宿題しなかったのかって怒られて、1日最低でも5ページはやりなさいって軽く叱られたらしいよ」
いやあいつは小学生かって。
昨日の夜。おやすみの挨拶にしに行った時、あゆりちゃんは真剣に宿題やっていたぞ。
それに比べて陽香お前と来たら。
まあ自業自得だもんなこれは。
因みに俺は溜めてやるタイプなので、昨日はやらなかった。
でも休みの最終日に全部やるのも、あれなので一週間分の宿題はちゃんとすることにした。
「高校生になると、今より宿題の量増えるんでしょうか?」
「そうじゃないかな。……加えて結構中学校より難しい問題も多いよ?」
言いづらいがその難関な授業内容について行けず、数回補習も受けた事あるが。
海里がもしいなかったら、俺はこうしてあゆりちゃんと自由に遊ぶ時間さえ作れなかったのかも。
「……私も来年受験なんで、頑張って合格して充実した高校生ライフを送りたいです」
「ところで、あゆりちゃん。志望校ってもう決めているの?」
そういえばあゆりちゃん今、中学3年生か。
中学校にいられる時間も、あと半分といったところか。
今のうちにどこの学校に行くか聞いときたい。もしかしたら来年の今頃はこうして会えなくなるかもしれないのだから。
「……まだ決めていませんね」
いやまだなんかい! てっきり少女のことだからもう決めているのかと。
心配して損したが、まだあゆりちゃんは志望する高校が定まっていない様子だった。
「いくつかは、見学しに行ったんですけど……これだって高校が当てはまらずで」
「あゆりちゃんその気持ちよくわかるよ。 俺も中3の頃そうやって迷ってた」
中3の頃。
志望校が決まらず、先生によく早くしろと急かされていた記憶がある。
結局、偏差値が並くらいの数値をした、今通っている高校にしたのだがこれで良かったかどうかは今もわからない。
だが、あの高校に行ったからこうして、陽香と海里と縁ができたわけだしそれはそれでよし。
まあ授業がキツいのが一番のネックだが。
「辛いことあったんですね。……また考えておきます」
少し、照れくさそうにするあゆりちゃん。
なにやら言いづらいそうにしているが、何を躊躇っているのか。
でも、今は特に聞かなくてもいいか。あゆりちゃんに悪いし。
「……気分転換に外でも行く?」
「それ賛成です。お菓子でも買いに行きませんか? 部室にお菓子とか合った方がいいと思うんですけど」
おっとそれは名案だな。
部屋には一切、食料の1つもなかったし、小腹が膨れる物を買っておいて損はないだろう。
「よし、それじゃいこうか」
その場を立ち上がり支度する準備をしだす俺。
するとあゆりちゃんは玄関に行き、自前の肩掛けカバンを肩に、そして愛用の麦わら帽子を被った。
「……やっぱりこれがあると安心するんですよ」
やはり女の子っていうのは、日焼けを気にするタイプなのかな。
男の俺がいうのもあれだが、やはり見た目は大事だよな。
「よく似合っているよあゆりちゃん」
覆い被さるように顔を隠すあゆりちゃんは、また恥ずかしそうにして。
「そ、そ、そんな可愛いなんて……たいしたことないですよ。……さ、行きましょう翼さん」
あゆりちゃんに引っ張られ、俺達2人は外へ出て町を歩き回ることにした。
町を歩いている途中。
メールが来ていた。
主は海里。
いや。
一体どうしたんだよ唐突に。
覗いてみる。
『翼、今どうしてる?』
そういえば、夏休み入ってから会っていないな。
元気かな?
『俺は元気だけど海里は?』
『生徒会があるせいで休む時間もないわよ。……今ちょうど学校で休んでいるんだけどね……死ぬ。まじで死ぬ』
相当参っている、我が校の成績1位の優等生さん。
『そんなに無理するなよ』
『ありがとう、あんたの言葉でちょっとは励まされたわ。それじゃノシ』
を最後に会話を終える。
というか、海里もスラング使うんだな。見た目とは想像ができない対応だが。
「翼さん」
「どうした? ……あのなんでそんなに怒っているの?」
俺、決して悪いことなんかしていないのに、なんで怒られているのだろう。
「……歩きスマホ……だめですよ」
あ。
不覚。
つい浮かれてやってしまった。
「ご、ごめん。目の前が見えてなくて」
「……まあいいです。つきましたよ駄菓子屋」
着いたのは、以前にも訪れた昔ながらの駄菓子屋。
「お、いらっしゃーい。……あらあゆちゃんまたきたのね。…………ってそこのお兄さんはあの時の」
恨まれてそうな、視線を送るのやめてくれませんかねおばあさん。
めっちゃ怖い。
「……付き合っているの? ならもうしたの?」
俺の勘違いだった。
それを通り越して何を言っているんだこのおばあちゃんは。
途端。
俺とあゆりちゃんは声を揃えて大声で言った。
「「してない!」」
「「してません!!」」
やはり男女が一緒に居立つと、カップルに見える認識大なのだろうか。
うん、キャリアを重ねた年配には適わんな。
一通り、お菓子を選びレジに向かう。
「たくさん選んだね」
かごにどっさり詰まれたお菓子。
大食い大会でもするのかと間違えそうなその量は尋常ではなかった。
資金的に余裕はあるけど、量がえぐい。
「おばあさん、これ下さい」
カートをレジカウンターに置き、会計を進める。
だが付け加えとして、もう1つあるものを注文した。
「それと……アイスクリームを…………2個ください」
「あいよ、待っててね」
店の奥にある部屋へと消えていくおばあさん。
「アイスクリームなんてあったんだ。……ってあゆりちゃん2個も食べるの?」
困った笑顔を浮かべてあゆりちゃんは。
「何言っているんですか翼さん。そんなわけないじゃないですか」
だったら何の分だろうと問いかけようとしたが。
「もう1本は翼さんの分ですよ」
なんか申し訳ない。
「あ、ありがとうね」
ここは素直に礼を言っておく。
深く追求するのもあれだし。
でも1つだけ聞いておこうかな。
「どうして、俺にアイスクリームなんかを?」
あゆりちゃんは「それは食べている時に話します」と微笑を浮かべて言った。
何の意味があるのだろうか彼女の言葉の裏に。
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