7月 中旬

第20話 7/11『なり止まない雨でもきっとあがる』

 翌日。


 部屋からは扇風機が回っている。


 テレビをつけながら俺達はチャンネルをコロコロとかえながら、色んな番組を眺める。


『いやあそれにしても暑いですね~』

『続きまして……プールの様子を……』

『夏の豪華スイーツ特集……』


 グルメ物の食べ物が映った瞬間に、ピッとリモコンでチャンネルを変える少女。


 うつ伏せの状態で、下の足をパタパタと動かす様子はなんともかわいらしい様子。


「あまり興味ないの?」


 チャンネルを回すあゆりちゃんは横で座る俺に。


「だってお腹空くじゃないですか。グルメ系の番組なんか見ていたら」


 ……確かにそれは一理あるな。


 痛いほど納得。


 よだれを垂らさないか心配になりそう。


 暇で今日は何もすることがない。


 陽香は今日は忙しいとかで連絡がこないが。


 はて、今日はどうするべきか。……このまま時間を無駄に浪費してしまってもいいのか。


「……翼さんどうしたんですか? 気難しそうな顔して」


「ううん、なんか面白いことないかなって考えていたところだよ」


「……今日は陽香ちゃん忙しいみたいですからね。非常に困りましたよ。さてどうしたものか」


 どうやら、俺と考えていることは大体一緒らしい。


 このまま引きこもっていてもいいのだが、それだと楽しい夏休みの1日が台無しに。


 いやよくないだろこのままだと。


 むしろ、学生なら外に出て遊びを楽しむべきだ。


 俺はあゆりちゃんの方に身を乗り出し。


「ねえあゆりちゃん……ちょっと外出てみない?」


 提案する俺の話に少女は目を丸くさせ。


「いいですけど……分かりました行きましょうか」


 その刹那。考えを巡らす表情を見せたが、すぐさまにこりと笑ってくれた。


 ……大丈夫か俺。


 あゆりちゃんに過度な期待されているんじゃ。
















 支度を済ませ外へ。


 いつも通り川沿いの道を歩きながら話す。


「それでどこか当てはあるんですか?」


 申し訳なさそうな顔で俺は答える。


「ご、ごめん実はあまり考えてなかったり」


「……そうですか」


 苦笑いをし、眉をひそめるあゆりちゃん。


「別に悪気があって外に連れ出したんじゃないよ。暇つぶしにどうかなって」


 こんな理由が果たして、言い逃れをする半句になるとは思えないが。


「別にいいですよ。私もちょうど暇でしたし。……それにこう見えて私お散歩とても好きなんですよ」


 これはいいこと聞いたな。


 あまり散歩の好きな中学生は聞いたことがないから正直驚いた。


「実はさっきこっちから翼さんをお散歩に誘うつもりでした。……言う手間が省けたのでこちらとしては好都合ですよ」


 まさかの。


 あゆりちゃんから誘うつもりだったのか。


 ならわざわざ俺が、言うまでもなかったんじゃないかと今更ながら後悔。


「なら言う必要なかったね」


「でも、嬉しかったので」


 にこにこ微笑みながら答えるあゆりちゃんはなんだか嬉しそう。


「あ、翼さんあそこの水路にいきましょ」


 率先して、少女に導かれるように手を引っ張られる。


 水田の横に流れる少々深めな水路。


 あゆりちゃんはその場で中腰になりながら、その水面に映る自分の顔をのぞき込んだ。


「……」


 よく見るとそこには数匹のメダカが。


 捕りたいのかな。


 でも今日は手ぶらで来たし、上手く捕まえられるかどうか。


「捕まえたいの?」


「……いえいえこうやって生き物を眺めるのとても好きなんですよ。……小さい頃両親に捕ってもらったことはありましたけど、かわいそうだと思って飼ったことは一度もありません」


 あゆりちゃんは優しいな。


 俺だったら真っ先に捕るタイプの人間だけど、少女は違う。あゆりちゃんなりに生き物に対するそれは優しさであってあまり縛り付けなどはしたくないのだろう。


 暫く時間を置いて。


「そうだ、翼さん……これ」


 あゆりちゃんが手渡してきたのは、1枚の紙。


 あ。


 そうか。


 もうすぐそんな時期か。


 先ほど町通りに置かれていた1枚のチラシ。


 隣町で今度の24、25日に開催される、夏祭りの案内用紙だった。


 気が早いようで短くも感じるけど。


 口元も歪ませ微笑させるあゆりちゃんは少し恥ずかしがりながら。


「……よ、よかったらですけど一緒に行きませんか。無論自然活動部の活動としての一環ですよ?」


 絶対照れ隠しだなこれは。


「うん、いいよ。……陽香には伝えておくよ」


「ありがとうございます……あと」


 付け足すように1つ。


「できれば、海里ちゃんも誘いたいんですけど、頼めますかね」


 そうきたか。


 最近はあまり会っていないとかで、なんか寂しいとも言っていたし夏祭りの日だけでもいいから一緒に遊びたいそんな気持ちがあるのか。


 実際俺も、勉強会で同行したくらいで実際にはまだ遊んだことないし、1回彼女を含めたみんなで行ってみるのもいいかも。


「生徒会その日空いているといいけど……聞いてみるね」


 とりあえず、帰った後に海里に送るとして。


「楽しみだね夏祭り。……俺家族以外とは行ったことないからとても楽しみなんだよ」


「それはよかったです。もし海里ちゃんの含む私達4人がいれば、絶対楽しいです」


 ふむ海里を含むパーティか。


 俺には、海里が俺を揶揄う様子しか目に浮かばないのだが…………いやありえんな。


 というかみんなの着物姿をみたい欲求不満な俺もここにいるわけで。


 するとあゆりちゃんは立ち上がり。


「そろそろお昼ですね。……近くに風通しのいいカフェがあるのでそこへ行きましょうか」


 賛成。


 少々空腹も感じてきた。


 あゆりちゃんの喜びに満ちた顔に俺は逆らえず、そのカフェへと足を運んだ。
















 

 風鈴の鳴るカフェ。


 丸いテーブルにある椅子に腰駆け昼食を摂る。


 美味しそうなハンバーグ定食があったのでそれを注文。


 値段も学生に優しいくらいの金額だったので、躊躇せず頼めた。


 昼食中。


 窓越しに映る、玉川の街並みをよそ見しながらじっとあゆりちゃんは見つめる。


「……あゆりちゃんどうしたの? ぼっとして」


「いえ、暑くて少々気が参りそうな感じでして……すみません」


 まあ確かに夏のピークを迎えたせいか、高温の日が立て続けの毎日だ。


 水風呂にでも入りたくもあるが、今はあゆりちゃんが優先。


「どうする? きついならこのまま家に帰ってもいいけど」


 言いづらそうに黙り込んで、一拍おいた後。


「……嫌です…………と言いたいところですがもうきついですね。今日はこれくらいにして大人しく家に帰りましょうか」


 そう言い、しばらくお店で涼んだ後に、会計を済ませ店を出る。


 ……店を出てすぐ横にある自販機。そこに自然と目が行くあゆりちゃん。


 おっとあゆりちゃんが興味津々モードに。


 アイスの自販機。


「……」


「アイス買ってあげようか? ……この前のお礼も兼ねてさ」


「いいんですか?」


 と俺は財布から数百円を取り出し、投入口に硬貨をいれた。


「どれが欲しい? 俺は後でいいからあゆりちゃん先に選んでいいよ」


「……ではお言葉に甘えて……一番上にあるチョコバニラを1本お願いします」


「はい」


 ガタン。


 取り出し口からアイスが。


 それを取り出して、彼女に手渡す。


 ……なんかあれだ。お店の店員さんになったような気分。


 バイトは未経験だが、いつもこんな感じなのかな。


 俺も好きなアイスを……。


 シャーベットのラムネ味。


 美味しいのかはしらないけど、多分美味しいだろ。


 数年前駄作として世に出回った、ナポリタン味もありはしたがあれは例外だ。


 こちらの正当な味をしたアイスならば、自ずと安心感が得られる。


「えらく、普通の物選びましたね」


 不思議そうな感想をのべるあゆりちゃん。


「普通じゃないとなんか落ち着かなくてね」


「あはは。わかりますよそれ。カリカリ君のナポリタン味昔食べたことありますけど、あれは」


 ここにあの驚異のアイスを食べた、幼くもただならぬ異彩を放つ少女いた。


 とその帰り。


 食事中、海里にメールしたが、答えづらそうな雰囲気の返答が返ってきた。


 して話を切り替えるように海里は招集を掛けてくる。


『ところでさ、明日暇? よかったらだけど遊ばないかしら?』


 その一文。遊びに誘われたのだ。


 横でアイスをなめるあゆりちゃんは、俺を気にするように問いかけてくる。


「どうしたんですか? 翼さん」


「ねえあゆりちゃん……」


 俺は思いっきり海里の誘いにあゆりちゃんも呼ぼうとした。


「ちょっと明日行きたいところができたんだけど……いかない?」


 と。

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