第27話 7/16『夏空の降雨に揺れる海波 その2』

 「うーんどうしたものか」


 海里から昨日付き合ってくれと誘われた。

 最初は揺動したが、別に悪い気はしなかったので素直に誘いを受けた。

 あゆりちゃんには、午後海里の家に行くと告げると彼女の住所が書かれた紙を俺に綻んだ顔をしながら手渡してきた。

 うん人類が滅んでも俺は彼女だけは守る胸底がある。守りたいなこの笑顔。


 そして現在時刻は13時。あぜ道を経由しながら彼女の住んでいる家へと向かう最中。

 だが、隔てているしかも似たような道が何通りも四方にあるため何度も往復する羽目になった。

 田んぼの横にある井戸水を覗き込むと、ザリガニが数匹群集を作りながらエサを捕まえている。……確かザリガニって共食いするんだっけ。過酷な環境をよくそうやって生き抜けるなと考えに浸る。


「久々にちょっと捕まえてみようかな。……あゆりちゃんに見せたらめっちゃ喜びそうだし」


 そのまま調子に乗り袖を肩口まで捲り、腕をザリガニ1匹向けて捕まえようとした。

 彼女のためならどんな危険もいとわないと。そんな俺の身を挺した行動は果敢で。


シュー。


「あ」


 そしてとても愚かな行動に終わることとなった。

 水中の泥水を巻き上げながら一塊となったザリガニは散り散りとなり、姿を暗ます。


「やはり、素手で捕まえるのは至難の業……テクニックがいるな」


 するとスマホから着信が鳴ってきた。

 着信主は……海里だった。


「は、はい」

『どこで道草食っているか弁明を求める』


 半音低い憤慨ふんがいしてそうなそれは怖い声で、耳元でそっと遅刻の言い訳をする。


「えぇと似たような道ばっかりでさ、遅くなったんだよ。ほら田んぼの形どれも似てね? 日本のマチュピチュていうのそんな感じ…………なんですが」


 かしこまって敬語を使ってしまう。

 一拍おいて彼女は、怒鳴るような口調で俺に剣幕を吹きかけてきた。


『『ふむ、あなたの言う日本のマチュピチュっていうのは……現地のマチュピチュに似てるっていう大分の方かしら。……じゃなくって!! そうならそうと早く連絡しなさいよ。分かった鈍器で殴ってあげるわ!』』


 鼓膜が破れそうな大声。

 そんな発狂するような声出さなくてもいいのにと、気が滅入りそうになる俺やはり今日は俺の命日……なのか。嘘だよな嘘と言ってくれ海里。


『はぁもうあんたが役立たずの方向音痴っていうのは分かったから、今から言う場所に耳をかっぽじってよく聞きなさい』


 お前が言うその言葉は本当にやりそうで怖いんだが。

 マンガやアニメみたいに拷問器具使ったり……あ、これ子供に見せられないやつじゃね。


 脅迫口調な言葉を使いつつも海里は、丁寧に道のりを詳しく通話しながら教えてくれた。『今どこにいる?』、「あぁここの辺」と言った話を交わしながらお互いの現在位置を確認しながら。

 やや傾斜した田んぼの方を登り、次第に道が急になっていった。……とても高価な寝殿造りの和式建物がたくさん見えてくる。目算で大体100坪以上はありそうな大きさで。


「お前何者なにもんだよ。天皇の親戚かなんかか?」

『いや違うから。確かにここ一帯の建物は貴族の人がたくさんいるけど天皇とは全く関係ないわよ』


 揶揄ってふざけたことを言うと。


「もしそうだったらお前に『天皇陛下ばんざーい!』とでも言ってもらおうと考えていたところだが!」

『馬鹿ぶん殴るわよ』

「すみませんでした」


 即座に悍ましい返答が返ってきたのでやむを得ず謝る。

 自分でも度が過ぎたと反省。

 でもさ、ここに住む人絶対それなりに財産持っているんだろうな。もしかすると高値のつく小判があったりして。


『はい、ここ着いたわよいらっしゃい』

「え、まじ? ここ?」


 ようやく海里の家に着いた。先ほどの高価な家とは比べものにならない300畳、いやそれ以上か旅館か何かと間違える位の広さをした家が俺の目の前に現れた。

 家前には立派な長屋門が設けてある。

 あぁもう驚く気力さえ残ってない。


『一旦切るから待ってなさい』

「お、おう」


しばしその大きな門前で彼女の登場を待つのであった。


◉ ◉ ◉


「お待たせ……ってボロボロじゃない。 泥まみれだけどどうしたの?」

「ザリガニ捕まえようとしたら逃げられた」

「アホか。……よく素で捕まえる気になるわねあんた」


 ザリガニの一件を彼女に話すと馬鹿にされるように侮辱された。……くすくすと。

 笑うな、これでも頑張った方なんだぞ、少しは褒めてくれ。


「はい、これ使って拭きなさいよ汚いから」

「お、おう。おわっち。気前いいな」


 タイミングが良すぎるのか、はたまた彼女がたまたま持っていたんだろうか。

 丁度大きめのタオルを俺に手渡してくる。……あぁそうか汗拭きように持ってきてくれたのか。なんだかんだこいつ優しいところあるじゃないか。


「あ、汗拭きように持ってきたんだけど……ザリガニ捕りとか聞いてないわよ! はい拭き終わったでしょ? ほらさっさと行くわよ」

「ちょ!? 海里待ってもうちょっと待ってくれ!」


 俺の意見なんてお構いなしに腕を引っ張る彼女は非常に強引だった。

 おぉ痛い痛い骨折でもしたら慰謝料払ってもらおう、うんそうしよう。


 ……家の中はとても豪華な造りだった。

 金で彩られた照明に、絵画、掛け軸、絵巻などたくさん道中に置いてあった。

 長い通りを進み、彼女の部屋らしき中くらいの扉で立ち止まり。


「ここよ、普段は男子なんて入れないけど……感謝しなさい」

「お、おう」


 ドアノブを捻り彼女の部屋へと入る。

 見晴らしの良い出窓に高品質な机がすぐそこにあった。反対側には気難しそうな本がたくさん。生徒会関連の本もそこに仕舞われてある。


「座布団の上でも座りなさい。なあに決してあんたがあゆりと毎日いるから嫉妬しているから甚振ってやろうとかそんなことのために呼んだわけじゃないから安心しなさい」

「え、マジ?」


 本気で死ぬかと思った。

 段ボールの箱には棒状の……金属バットや棘がついた鈍器などたくさんあるがこれは関係なしか。


「あぁその段ボールに詰められているのは、私の大切な物よ。さて本題を」

「で、何をするために俺をここまで呼んだ?」

「ふふ、それはね」


 すると段ボールの箱から長広い敷物のような物を取り出す……あれこれって。


「人生ゲーム。一言で表せば賞金稼ぎのゲームかしら」

「いやそれは見れば分かるけどさ、なんだよ急に」


 誰もが知っているであろう人生ゲーム。螺旋構造の道がいくつも構成されてあり、各箇所各マスに指示が書いてある。


『オレオレ詐欺に騙された! 100万円隣の人に支払う!』や、『大手企業に就職した! 親から5000万円もらった!』など。

 というかどれも桁がおかしいくらいにインフレしているのだが、え、もしかして、もしかする? ……なに「ふふっ」と勝ち誇ったような顔しているんだよ。


「因みにこれ売られていた人生ゲームを私がした物よ。だからそこら辺の市販に売られている物とは違うわよ? 甘く見ない方が身の為よ」


 こ、こいつぅ。

 素の物じゃ満足しなかったから改造した的なアレだ。……これって例の孔明の罠というのでは? ……はめられた完全にはめられた。地獄のゲームが今から始まる。


「ていうか、これ普通4人でやるものだろ? 2人でなんとかできるものじゃ……」


 すると海里は一刺し指を突き出しちっちと。

 なに? 対策はとってあるのか?


「甘いわよ、私の作った人生ゲームは……」


 ごくり。


「私ルールで2人でも遊べる仕様にしてるから!」

「いや大雑把すぎじゃねそれ」


 これが学校では冷徹な成績優秀な清巌海里……同一人物なのだろうか。キャラの変わりようが激しい気が……。


「問答無用。私がこのゲームを作った管理者マスターなんだから、許容の範疇よ覚悟しなさい」


 なーにが許容だ。味噌汁に味噌を入れすぎて辛くなった味噌汁並に過剰だ。……その加減って言葉知っている?

 そんなヒーローが変身するようなポーズをしなくても……。やる気全開ですね海里さん。

 まんまと孔明いや、海里の罠にはめられた俺は、彼女流魔改造人生ゲームをやらされる羽目になるのだった。

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雨が降りやむ頃に もえがみ @Moegami101

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