第6話 6/28『光芒の先に広がる空に』
テスト明けの昼下がり。
天気は晴れ晴れとしていて、生徒達は校庭でサッカーなど各々道楽に没頭していた。
俺にもあんな青春の汗を共に流せるような友達ができればなと思っていた。
清巌さんは生徒会のことで手が空いていないらしいので、共に時間を潰せる仲間は現在いない。
それで現在時間を潰してくれる仲間を探しているわけだが、果たしているのだろうか。
俺が当てもなく、廊下を歩いているとなにやら筆を走らせる音が廊下から聞こえてきた。
気になり近寄って上の札を確認すると。
「補習室か。……まだ自習とテストをしている人いるんだな」
そこはテストで赤点を取った者がその後連行される地獄の地補習室。
俺も何回か赤点をとり、入る羽目になったことがあるがあれは地獄だったな。
なににせよ高得点を取るまで休憩時間という自由時間を潰されるのだから非常にきついのだ。
自由の自も許されないこの場所でひたすら筆を走らせるのは約15名ほど。クラスの半分に当たる人数だろう。
「意外と今回の問題難しかったからな。見る感じ受けている人多そうだな」
清巌さんがいなかったら、今頃俺もこの場所へ送られるていたことだろう。なので彼女には感謝でいっぱいだ今度なんか奢ってあげよう。
「はい、そこまで。テスト用紙は回収しますので各自手を止めてください」
担当の教師は一通り、テスト用紙を回収し始める。
……とその中でまだ必死に用紙に顔を伏しながら、凄い早さで書く少女の姿があった。その顔に俺は見覚えがあった。
独特な短髪ボニーテールに曇り1つすら感じさせない相貌。だが普段の彼女と違ってなにやら真剣な様子で問題を解いている。分かっているのかどうかは知らないけど、頑張り様は十分にこの目で理解した。
彼女――――新宮さんの勇ましいその容姿に。
テスト用紙を回収しにきた、教師は新宮さんに声をかける。
「新宮さん、聞こえませんでした?」
「……先生? どうしたんですか」
どうやら集中しすぎて教師の声が聞こえなかったご様子。
「テスト時間もう過ぎましたよ。……それで手を止めるよう言ったはずなんですが」
冷徹さ極まりないその教師は、必死で彼女に書くのをやめるよう説得するが。
「あ、そうなんですね。すみません……ですが! もう少しもう少し時間をください。カップラーメンができる3分くらいでいいので」
ここで延長するよう提案。到底彼女の言葉を素直に聞き入れてくれる教師だとは思えないが。
今指導している教師は結構学校では頑固な性格の持ち主なのだ。なので彼女の口は到底その教師には。
「駄目です。」
「そんなあ~」
涙ぐむ表情を浮かべる彼女の顔を、気にも留めずテスト用紙を回収する教師。
かくして彼女のチャンスははかなくも散るのであった。
そして補習終了後、俺は新宮さんに声をかける。
「新宮さん、こんにちは」
「あぁ立川君じゃん。どうしたの」
「丁度休み時間に寄ってさ、君を見かけて補習頑張っているなって少し見ていたんだけど」
「へ、本当? 私あなたに情けない姿をその目で見られたというの」
俺は首を縦に振る。
「そんなあめっちゃ恥ずかしいじゃん! 今回も赤点だったから補習行きになったからな。また私の遊ぶ時間が」
新宮さんはいつも赤点ばかりでテストたんびに補習受けているという生徒の間では名高い人である。
生徒の間では本当に勉強しているんだとか色々と言われているけど、彼女にとってそんなことは気にもしない怖い物知らず。どうしたらそんな表向きに振る舞えるのか不思議だな。
「勉強もちゃんとしないといけないよ。じゃないと毎回のようにそうやって補習行きにされるよ」
「……はい精進します」
気を改め自分の過ちに後悔した新宮さんは、かの泣くような声で冷や汗を垂らしながら答えるのだった。
「ところでさ、立川君午後暇かな?」
急に話を提案してくる新宮さん。どんな風の吹き回しかは知らないけれど、この間の続きでもしたいのだろうか。
「もちろん俺帰宅部だし、一応暇だけどさ」
「なら遊ぼ、丁度補習もないし」
俺は断るのはまずいと思い、首を縦に振ってしまい彼女のお遊びにそのまま付き合う羽目になってしまった。でもただで遊ぶのもあれなので俺は。
「ただし」
「ただし?」
1つ条件付きで遊ぶことにする。このままだと新宮さんが将来的に駄目な人になってしまうかも知れないと思ったからだ。
その条件とは。
「俺と勉強したら遊んであげる」
「……ぐ、そうきたか」
痛いところを突かれた新宮さんは心を痛める。
休憩時間はあと15分程度。時間としては十分だ。
「わかったよ。教えて」
清巌さんに教えてもらった俺が今度は、違う人に勉強を教える立場なのだ。
自分ながらいいことしているんじゃないか。
そして短時間ながらも俺は略言ながらも、彼女に勉強を分かりやすくおしえるのだった。
飲み込みはいい方で、終わった頃にはありがとうと言ってくれた。
「そういえばさ、もうすぐ夏休みだね」
その最中休みが待ち遠しい新宮さんは夏休みの話を切り出す。
「だね。とはいうもののやること何もないからね。俺は毎日引きこもろうかな」
「……そうなんだ。結構インドア派のタイプ?」
「だと思う。……というか本当は友達欲しいけど全然いないんだよね」
いっそ新宮さんみたいな友達ができたらいいなと思う。そうすれば毎日が楽しくなるだろうし、俺に楽しい高校生ライフが待っているに違いない。
「なら、私と友達にならない? 私隣町から来ているんだけどさもしいやじゃなかったら友達になってあげるよ。……勉強教えてくれた借りもあるし」
なんとこれは天からの贈り物だろうか。チャンスが芽生え彼女から友達にならないかと
「なら、友達になってください」
かくして俺の高校生初となる友達ができ、俺の心に僅かながらも一筋の光が差し込むのだった。友達ってなんて最高なんだろう。
◉ ◉ ◉
放課後、街の近くのゲーセンに行って遊んだ。
ゾンビゲームやらなんやら色んなジャンルに付き合わされ俺の体力は限界まで彼女の率先力によって削られた。
「大丈夫?」
ただいま、疲れすぎて近くにおいてあったベンチにて絶賛休憩中です。
「あぁ大丈夫だよ。……久々に動きすぎて疲れただけ」
「……ごめんねこんなに付き合わせちゃって」
でも楽しかったのは事実。だが久々に体を動かしたせいでこんなにも体がなまってしまったらしい。
というか新宮さんの体力が異常なだけなのだろうか。数十キロ走っても全然疲れが見えてなかったのだがそれは。一体家でどんなトレーニングしているのか。
「それじゃ場所移そうか。疲れたでしょ」
俺に気を遣った新宮さんは俺とファミレスに場所を移動させてくれた。
そしてドリンクを店で飲みながら、共に一時の会話に浸かるのだった。
「……そうか新宮さん幼なじみいるんだ」
「うん、1つ下だけど可愛くてね、“あゆあゆ”って呼んでいるの」
聞けば隣町の学校には、高校がないためこの街の学校へとやむを得ず進学したんだとか。
それでも帰り際に会う度に時々帰っているらしいのだがそれはそれで仲がいいことで何より。
「俺も会えるかな? その子と。新宮さんの友達ならきっと仲良くなれるかなと思って」
そういえば清巌さんも幼なじみがいると言ってたっけ。最近そういえば幼なじみ絡みの生徒ばかりと会っている気がする。
「もちろん。優しい子だからきっと立川君もすぐ仲良くなれると思うよ」
ならよかった。これでうるさい子だったら、どのように対応すればいいかと困るところだった。
「もうすぐ夏休みだし、時間が合った日にでも遊びに来ない?」
「是非とも頼みます」
いつになるのか分からないが、夏休み新宮さんの知り合いに会うことになった。
どんな子なのかは分からないけど、……“あゆあゆ”。いやまさかな。
この前会ったあゆりちゃんとなにか関係があるんじゃないかと、一瞬そんなわけないだろうと心の中で思った。
……すると話をしている間にいつの間にか、外が曇りだし、雨が降ってきた。
どうしよう。雨具持ってきてないし、これは水浸し確定だ。
「……俺今日傘持ってきてないんだけど」
気前がいい新宮さんは包み棒を2本見せてくる。
「じゃじゃーん! 実は折りたたみ傘2本あるのです。……立川君に1本今日貸してあげるよ」
非常にありがたい気持ちでいっぱいになった俺は。
「ありがとう、すまんけど今日1日貸してもらうことにするよ」
彼女はにやっと笑いそれを手渡し。
「じゃあ100万円ね」
とんでもない額を俺に請求してきたのだが。……言い直す全然ありがたくないな。
「やっぱいい」
「いやいやジョークだよジョーク真に受けないでえ!」
冗談好きな新宮さんだった。
その後今日は時間もいいところだったので俺は新宮さんと分かれ道で解散した。
彼女は元気に「また明日学校でね」と手を振ってくれた、とても元気な声で。
降り注ぐ雨の帰路を俺は歩く。騒音のように鳴り響くその音は帰るまで耳元から離れなかった。
今気づいたが、彼女から借りた折りたたみ傘小さすぎて肩の方は妙にぬれているんだが…………まあいいか。
ないよりかはマシだし、むしろ感謝するべきだろう。
もうすぐ夏か。去年の夏は孤独だったから何1つすることがなかったけれど、今年はどうだろうか。
この雨を見ているとあのあゆりちゃんの姿が目に浮かぶ。
あの日を境に、いいことが何か起きそうなそんな予感がする。
もしかしたら今年の夏は自分の中で失われた物を取り戻せるかも知れない。
「今年の夏、忙しくなるかもな」
そっと俺はベランダの方で降り注ぐ雨を見て小声で呟いた。
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