第15話 7/9 『少女は思い馳せる その1』
陽香の家へ行き、頼まれた品物を取りに行った俺達。
彼女の家は至って普通の家。川沿いの2階建てに建つ一軒家だった。
あゆりちゃんによると昔、何回か陽香の家に遊びに行ったことがあるらしい。
羨ましいな。
俺なんか、今まで人と遊んだこともない、ましてや女の子の家に行くのも初見だ。
3人は昔から仲がよかったみたいで、学校の休日が来る度にそれぞれの家に赴いては遊んでいたらしい。
俺が小学生の頃なんて、ほぼ毎日勉強に明け暮れる日々だった。
まともに遊ぶ人もいなかったので、勉学に励む日々が俺の中における学生生活と錯覚していた。
……陽香からもらった、家の鍵を使い中へと入る。
「お邪魔します」
「お邪魔します」
不在なのは確かだが、人様の家に無言であがるのも、それは失礼に当たるので軽く一声。
あゆりちゃんに案内されながら、入ってすぐ隣にある階段をのぼり、上がってすぐ見える扉の前で足を止める。
その扉には『陽香の部屋』と掲げられた札が。
どうやらここが陽香の部屋らしい。
一度。
女の子の部屋をこの目で見たかったので、自ずと興味が湧いてくる。「女の子の部屋ってどんな感じなんだろう」と。
見てやろうじゃないか。その女の子の部屋を。
「ここですね。……中に必要なものがあるらしいので探してみましょうか」
「そうなんだ。リストは……あ、今送られてきたよ。……なんじゃこりゃ」
必要品をメールでチェックする。
そこには、どっさり長いリストが書かれていた。
ざっと100~200文字くらい。
・自然活動部 物資リスト一覧
・テレビ
・ボードゲーム各種
・ノート3冊
と他色々と。
中に家電製品があるのだが、何をするつもりなんだ陽香は。
あゆりちゃんにもそのリストを見せ、お互いに物を確認。
「把握しました、多分この部屋に眠っているかと」
扉を開ける。
部屋の中に入ると、カーペットの敷かれた空間が広がっていた。
端の方には陽香のものと見られる机が。
ベランダの窓側に、なにやらたくさん詰めてある縦長の箱が置かれているが、あれは一体何か。……棒、釣り竿、玩具の剣とハンマー。なんか多くないか。
箱の置いてある反対側には小型のテレビがある。
現代風の長めテレビではなく、正方形型をしたやや小さめの時代を感じるテレビ。
そういえば昔、父さんと母さんの写真アルバムで、これに似たような物が映っていたが……現物は初めてだ。
「翼さん、テレビずっと見てどうしたんですか。そんな姿勢で見てたら例のお化けの映画みたいに髪を長くした女の人に襲われちゃいますよ」
あの映画、結構トラウマだったりする俺。
「そ、そうだね。……でもこういうテレビ初めてでさ、時代感じるなって思っていたところだよ」
「……なるほど、隣町の人はこういうテレビ見たことないんですね。驚きです」
中古屋で一切見かけない。
恐らく殆ど買う人はおらずで、処分する店が大半だと思われる。
現役でまだ使えそうな物が中にありそうだが、現代人にはなぜそのよさが分からないのか。
俺はどちらかというと、こういうのは昔ながらの感じがして好きなのだが。
「お母さん達の写真でちょっと見たくらいで現物は初めてなんだ」
テレビをじっと見ていた俺を、気にかけるよう聞いてくるあゆりちゃん。
すると見た目とは想像もつかない、力で俺が見ていたテレビを持ち上げた。
「……とりあえず持って行きますよ。これとボーダーゲーム詰め合わせ…………っあぁテレビ以外のものなら全部そこにあると思いますよ。……なんでも翼さんが来る前にまとめて箱に詰めておいたそうです」
気前よすぎだろ陽香。
まるで俺が今日、ここにやってくることを分かっていたような振る舞いだな。
いざその箱の方に行き……持ち上げる。
なんかめっちゃ重い。
ガチャガチャうるさい物音が鳴っているんだけど、何が入っているんだよ。
それを持ち上げると、扉を足で器用に開こうとするあゆりちゃんが後ろにいた。
半開きとなっている扉を、足の指を上手く動かしてこじ開ける。
動きが手慣れているな。
「さて言われたものはこれで全部ですね。……翼さん階段気をつけてくださいね」
「うん、わ、わかった」
力の強い少女に俺は驚いているのだが。
こういうのって本来逆の立ち場なんじゃないか。
俺が一番重い物を持ってあゆりちゃんに気をつけるよう言う。それが当たり前。
でも今は完全に逆の立ち場。
守るはずが逆に守られているなんて、年上ながら恥ずかしい。
思わず、あゆりちゃんの力の前に声が出た。
「あゆりちゃん、力持ちだね」
「そうですか? いたって普通ですけど」
幼女恐るべし。
この小さな体に、とてつもない力が秘められているのだろうと自覚した。
蝉の喧噪がうずまくあぜ道の中、 荷物を乗せ自転車を漕ぐ俺達。
体からは、たくさんの汗が流れる。
異常だろこの暑さ。
今日そういえば30度超えると天気予報に書いてあった気がするが、不覚だったかな。
濡れタオルの1枚を持って行くべきだったと今更後悔。
そんなことより、前へ中々進めないのだが。
「これ、大丈夫かな。バランス崩しやすくてガタガタするんだけど!」
案の定、それは押しつぶされそうな重量だった。
操作が中々上手くいかず、思うよう真っ直ぐ進めない。
周りにいる、田んぼで作業している年配の人達に凝視されているんだけど……凄く恥ずかしい。
いや、それよりもドブにはまりそうで怖いんだが。
かと言って、押しながら歩けば多くの時間を消費する。それだと陽香に悪い。
「あぁ気にしなくていいですよ。それしきの程度では壊れたりしないんで」
余裕と話してくる少女は、疲れがまったく見えない。
仕方ない、少女のその言葉を信じてここは頑張って漕ぐか。
「そういえばあゆりちゃん。今まで自然活動部でどんなことしたの?」
まずは情報収集だ。
中身がどんな感じか理解しておけば、ある程度の範囲はこなせるはず。
まあ小学生が昔作った、たかがお遊びの部活だと軽視する俺。
……綺麗な青い髪を風にそよがせるあゆりちゃん。
一体どんな話が出てくるのだろうと耳を傾ける。
「……ザリガニ釣り、カブトムシ採り、ゲーム大会……まあ色々ですね。陽香ちゃんと海里ちゃんが何をその日にするか、よくじゃんけんで決めていましたが」
意外と普通すぎて安堵。そこまでハードルが高そうなものはないとみた。
「あぁでも特に面白かったのは、やっぱりあれですかね」
なに、それ気になる。
「遊びなんですけどね」
ほう。遊びときたか。
友達がいくらいない俺でも、おにごっこやかくれんぼを体育の時間にしたことはあるぞ。
なんでもこい、受けて立ってやろう!
と強く意気がっていたのもつかの間。
その聞いたこともない遊びに思わず「え」と言ってしまう。
「チャンバラ鬼ごっこ」
「……あゆりちゃんごめん……もう一度言って」
「チャンバラ鬼ごっこですよ」
「…………チャンバラ鬼ごっこ?」
聞いたことない遊びだな。……まさかチャンバラと鬼ごっこをかけた遊びか?
「チャンバラと鬼ごっこをかけた遊びですよ。……戦うのが大好きな海里ちゃんが発想したゲームで、学校中に散らばっている武器を使って逃げ側をその武器で仕留めるゲームです。……やられた人は次の鬼となる……結構癖のあるゲームですよ」
……み、海里め。
なんという、この世のおわりみたいなゲームを作ったんだ。
昔から海里は叩くのがそんなに好きだったとは……えぇ怖すぎる。
武器といえども、玩具の武器だろうけど、それをいかに上手く使うか、プレイヤーテクニックが問われそうな上級者向けの鬼ごっこに見える。
「……因みに全部海里ちゃんの勝ちでしたが……。でも確か1回陽香ちゃんが1本取ったような」
海里は昔からこんな恐ろしい性格だったのか。
脳内にいる海里が、俺を蔑んだ目でこちらを見ているそんなイメージが浮かぶが…………やめろ海里。その目で俺を見るんじゃない。
「どうしたんですか? なんか顔が青いですよ」
「ううん。なんでもない。 ……なんか楽しそうだなって」
この3人がとても恐ろしいほどに見えるのは気のせいか?
いや単に俺のレベルが低すぎるだけかも知れないけど。
するとあゆりちゃんは、こちらを振り向き
「多分翼さんも楽しめる遊びだと思いますよ」
いや、あゆりちゃん。それだけは勘弁願いたいんだけど。
聞くからに恐ろしい……なんかパンドラの箱並に恐ろしいゲームと感じる俺だった。
「おつかれ、どうだった?」
部室に帰ってきた俺達。
「久々に陽香ちゃんの家にいきましたけど、変わっていませんね相変わらずって感じで」
いつもあんな風なのか。陽香の部屋って。
「あぁ~だってさ、ごちゃごちゃかまうと面倒くさくない? ……探すのも手間になるし」
「……確かにそうですね。それで陽香ちゃん今日はさっそく何をしますか?」
いきなりあゆりちゃんは話を切り出す。
どうやら待ちきれない様子。
「箱の中にボーダーゲーム系あったでしょ? ええと」
俺が苦労して運んでいた箱。
そこには自分くらいの大きさをした、黒い筒のような物がある。
陽香はそれをを取り出す。
中からガサゴソと音を立てて。
まさかこの中に遊ぶためのゲームの数々が入っているのか?
それを下に置き、ついているチャックを引いて中を開ける。
再びまた何かを漁り始め、とあるものを取り出す陽香。
「よし、これに決めた。……どうよ」
取り出したのは、トランプ。
おっとこれは。
「久々にやりたいと思っていたんだけど」
「やりたいです」
「右に同じ。……いつ以来だろうトランプって」
昔、ひたすら1人で神経衰弱しかしていなかった気がするが。
「おぉ!2人共やる気だぁ~よおし何やろうか!」
何か企てていそうな顔をしているが、なんだあの顔。
いかにも余裕な素振り丸出しだろあれ。
「さあ覚悟してよね、翼君!」
「油断しませんよ私も」
入部早々。闘士を燃やす2人にトランプ勝負を挑まれる俺。
真剣な表情に断れなかった俺は、その流れに乗せられるがまま、2人の勝負を引き受けるのであった。
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