第12話 心愛の不安
そして俺はとても慎重になっていた。
どのタイミングで恋愛話にもっていけばいいのか、そればかりを考えている。
翔との会話も、ほぼほぼ翔だけが一方的に話してきており俺は相槌を打つ程度だ。
しかし、そんな事は全く気にも留めず翔はどんどんお酒が進んでいった。
いい感じに翔が出来上がってきた頃合いを見計らい、俺は動き出す。
今しかない!
ストレートに恋愛話を持ちかけた。
「翔、突然だけどさ好きな女性のタイプってどんな感じなんだ?」
「はいー?急に何言っちゃってんのー?ウヒ」
いつも冷静で真面目な翔が、今や酒の力で全くの別人になっている。
これはちょっと呑ませ過ぎたか?
「だから、好きな女性のタイプだよ」
「ウヒ。好きな女性のタイプー?そんなもん悟ちゃんに決まってまーすハハハハ」
翔がお酒を片手に大爆笑している。
これは駄目だ。
全く話が通じていない。
予想以上にお酒が回っていた翔は、人と会話が出来る状態ではなかった。
仕方ないか。
翔もこんなだし、今日のところは帰るとしよう。
このまま下手に粘っていても、なんの情報も掴めないだろうしな。
俺はすぐに会計を済ませて、翔に声を掛け店を出る。
「ウヒ。俺はまだ飲めるぞーい!もう一軒行くべ!」
「駄目だ。今日はもう帰るぞ」
「悟ちゃん冷たーい」
「ごちゃごちゃ言わずにさっさと歩け」
翔が俺の肩に掴まりながら、ヨタヨタと歩いている。
それを必死になって支えながら、タクシーが走っている場所まで歩く。
そして10分後。
翔をタクシーに乗せる事が出来た。
なので、やっと俺も家に帰る事が出来る。
結局作戦は失敗に終わり、得たものと言えば翔が酒にめっぽう弱いと言う情報くらいだ。
こんな情報じゃ、絶対に早見ちゃんは納得しないだろう。
明日からの作戦を色々と考えながら、家まで帰る事にした。
◇◇◇◇
次の日。
俺はいつものように、商店街入り口地点へとやって来た。
そこが通勤途中の道でもあるし、心愛との会話の場でもあるからだ。
すると、先に来ていた心愛が到着した俺に気づいたのかパッとこっちを振り向く。
心愛は触っていたスマホを急いでしまい、俺に向かって挨拶をしてきた。
「おはようです!神谷さん」
「おお心愛。おはよ」
「ちょっと神谷さん!聞いてくださいよ!」
「何だよいきなり」
会って早々に、心愛が話したいオーラ全開で近づいてくる。
何ともわかりやすい女の子だ。
「それがですね、大変困った事になりまして」
「そんなに深刻な事なのか?」
「はい……」
相当大きな問題が発生したようだ。
心愛の暗い表情がその事を物語っている。
「そうか。俺で良ければ力になるから、まずは話を聞かせてくれ」
「神谷さん……、分かりました。私の身に起こった全てをお話しします」
「頼む」
そして心愛はゆっくりと口を開き話し始めた。
「実は今朝、私の夢で神谷さんが死んだんです」
おっと、いきなり物騒な言葉を繰り出してきたな。
それに心愛も、なんつう夢を見てやがる。
仮にも自分がファンになった男を、夢の中で死なせるとは……。
ファン失格だ!
なんて言えるはずもなく、話は進でいく。
「それで?具体的に俺は、どんな感じで死んだんだ?」
「そうですね。なんか、知らない地雷系っぽい女の人に何回もチャネルのリップを鼻に突き刺されて、殺されましたね」
「何だその意味不明な殺され方は。それに、一体誰なんだよその地雷系女って」
「さぁ。私にも誰かまでは分からなかったです」
心愛が地面の石を蹴飛ばしながら、そう言った。
まあ、所詮は夢の中での話だし。
特に深く考える必要も無いだろう。
と言いつつも、内心はビビっていた。
だが俺は大人だ。
女子高生の前で、しかも自分のファンだと言ってくれている子の前でダサい姿は見せられない。
なので、大人の冷静さを見せつつ話をする。
「まあいいさ。夢は夢、現実とは関係ねえよ」
「殺されたって言うのに、神谷さん軽過ぎです」
「夢の中でって付けてくれる?それだけ聞くと現実での話に聞こえてくるから」
「細かいですね。細かい男は嫌われるって、国語の高柳先生が言っていましたよ」
「だったら高柳先生に言っておけ。そんな根拠の無い事を教えるよりも、もっと社会に役立つ言葉を教えろと」
心愛は俺の言葉を聞いた後、とても笑っていた。
まあ話を聞く限り、俺が夢で死んだ事に対しての不安が凄くあったみたいだし。
普通に普段通りのやり取りが出来て、安心したんだろうな。
ほんと、なんて優しい子なんだ。
俺の事をそんなにまで想ってくれる人間が、過去に一人でもいただろうか。
そんな心愛の為に、俺はこれからも元気に生きようと心に誓った。
「それじゃあ心愛、俺は会社に行くわ」
「はい。今日は朝からすみませんでした」
「全然いいよ。心愛も俺の為にたくさん心配してくれてありがとうな」
「心配するのは当たり前です。私は神谷さんのファン第一号なんですから」
「そうだったな」
そう言って心愛が先に動き出した。
俺も心愛の事を見届けた後、すぐに会社に向かった。
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