第17話 心愛からのアドバイス

 朝の商店街入り口地点。

 人通りはあまり多くなく、周りを見渡しても俺と心愛以外には誰もいない。


 そんな中、何も考えずにボーッと空を眺めていた。

 その隣で心愛が、黙々と真剣にノートを読み込んでいる。


 女子高生だけ大変だろう。何で年上のサラリーマンがボーッとしてんだって周りから見たら思われるかもしれない。

 だが、俺がボーッとしているのにはしっかりとした理由があるのだ。


 その理由とは、心愛からの命令。

 「私がノートを読み込んでいる間は集中したいから、静かに空を眺めておいて下さい」と、強く言われてしまったのだ。


 俺いちおう年上だよな?

 子供から頼られる筈の立派な大人だよな?


 そんな俺が、女子高生に命令されて何も言い返せないとは……。


 実に悲しい瞬間だった。


 そうしてゆったりと時間が過ぎていく中、俺たちの作戦会議が本格的に始まろうとしていた。


 「では神谷さん、昨日の話を聞いて思った事をまずは話させてもらいます」

 「分かった。遠慮せずに全部言ってくれ」

 「言われなくてもそのつもりです」

 「だろうな」


 心愛の準備も万端なようだ。

 これはすごいアドバイスが期待できる。


 ここまできたら他力本願全然おっけいだぜ。


 そして心愛がノートを片手に話し始めようとしていた。


 「率直に言います。神谷さんは、無駄に細かい事を考え過ぎです」

 「どう言う意味だ?」

 「相手は気の知れた同僚さんですよね?」

 「ああ、そうだが」

 「だったらそんなに色々考えなくても、普通に聞いて大丈夫だと思いますよ」

 「いや、それが出来ないから悩んでいるんだ」


 あれ、思っていたアドバイスと全然違うぞ。

 やはり女子高生に相談と言うのは間違っていたのか。


 そんな事を思っていると、心愛がすかさず返答してくる。


 「確かに。でも聞き方の手順さえしっかりとすれば大丈夫です」

 「手順?」

 「はい。どんな物事にも手順は存在します。それをしっかりと守る事が大事なのです」

 「まあ、そうだな」

 「それで神谷さんには、その同僚さんに自分の恋愛相談をして欲しいのです」

 「俺の恋愛相談?」


 よく分からないが、何か意味があるんだろうな。

 心愛を信じよう。


 「そうです。まずは自分の恋愛相談をする事で、その同僚さんが恋愛の話をしやすい環境を作ってあげます」

 「それは理に適っているかも」

 「それで次に、色々相談している中で同僚さんに意見を求めます」

 「ほうほう」

 「そうする事で、同僚さんの中に「恋愛とは何か」が生まれます」

 「なんか凄いな」

 「それが生まれる事で、自分の過去にあった恋愛談やどう言った女性を好むかなど色々考える様になると思うんです」

 「おお!」


 心愛の話を聞いているだけで、何かもう大丈夫な気がしてきたぞ。

 神様、仏様、心愛様ーー!!


 「そして最後です」

 「待ってました」

 「あの、神谷さんがさっきから入れている無駄な合いの手、とても迷惑と言うか不愉快なんですけど」

 「すいません……」

 「分かって頂けたらそれでいいです」


 やっぱり女子高生って……怖い。

 これ以上不愉快な思いはさせない様に、あまり喋らないでおこう。


 「話を戻します。最後なんですけど、もう普通に聞いても大丈夫です」

 「……マジで?」

 「はい。神谷さんの恋愛相談が終わったところで、同僚さんに話を振ってみて下さい」

 「分かった……やってみる」


 そうして俺は、心愛からのとても練りに練られたアドバイスを受け取る事が出来た。

 まさかここまで凄いとは全く想像していなかったので、若干呆然としている自分がいた。


 「神谷さん、こんなアドバイスで役に立ちましたか?」


 心愛が不安そうな表情で俺に聞いてくる。

 こう言うところは可愛げがあるんだよな。


 「勿論だ!想像していた以上に凄くてマジで驚いているぞ」

 「本当ですか!そう言って貰えると、頑張ってよかったです!」


 嬉しそうな笑顔を見せる心愛。

 その笑顔からは想像も出来ないほどのキツい言葉を、時々吐いてくるんだよなぁ。


 ほんと今の女子高生はよう分からん。


 「じゃあ俺は、そろそろ会社に向かうわ」

 「それじゃあ私も」

 「今日はマジでありがとな。凄く助かった」

 「全然いいですよ!お礼楽しみにしてますね」

 「それが目当てだったのか!」

 「あれ、バレました?」


 心愛はそう言って、俺に手を振りながら学校へと向かっていった。

 俺も心愛に手を振り返し、見えなくなるまで見送った。


 さてと、完璧なアドバイスも貰った事だし今日でこの問題は解決するぞ!


 俺はそう意気込んで、いつもの会社へと続く道を歩き始めた。



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