第39話 ごめんなさい
「ハァハァハァ……。すまん、遅くなった」
「神谷さん息切れすぎです」
「仕方ねえだろ。本気で走ってきたんだから」
先程までいたレストランからこの公園までは、普通に走ったら20分はかかるだろう。
だが、アドレナリンが大量分泌されていた俺はほとんど足を止めずに走り切り10分でこの公園へと辿り着いた。
こんなに走ったのは中学生の頃以来だと思う。
足がプルプルと震え、立っている事が億劫になったので近くのベンチで腰掛ける。
「大丈夫ですか?」
「……ああ。座ったらだいぶ楽になった」
「お水です」
「……いいのか?」
「そんな死にかけな状態でいられても迷惑ですから」
「悪い……」
心愛がくれた500mlのミネラルウォーターをグビグビと飲み、ゆっくりと深呼吸をする。
バクバクだった心臓と乱れまくっていた呼吸もだいぶ落ち着きを取り戻したので、いざ謝罪モードへと気持ちを切り替えた。
「……水ありがとな」
「全然いいですよ」
「それと……、今日はほんとに……ごめんなさい」
「神谷さんの口から【ごめんなさい】と言うワードが出るなんて……そんな言葉知ってたんですね!」
「初歩中の初歩ワードだからな!つか、真面目に謝罪してんだから真面目に聞きやがれ!」
「真面目に聞いてますよ!神谷さんがすごくちゃんと謝ってくれてる事が【ごめんなさい】と言う言葉でズドンと伝わってきたので、この件はもう水に流します!」
「それなら……よかったけど」
「ですが、どうしてこんな事になったのかの理由が聞きたいなとは思います」
心愛が少し頬を膨らましながら腕組みをして、俺の目をじーっと見てきていた。
そりゃそこは聞かれるよなぁ……頼むから聞いてくるなと願ってたんだけど。
そうそう思い通りにいかないのが人生なのだと、改めて感じる事が出来た。
もうこれ以上嘘とか吐きたくないし、本当のことを伝えよう。
それで心愛に軽蔑されてしまったら、それはそれで仕方ない……よな。
俺は今日の事を正直に全て心愛へ伝えた。
心愛は俺の話しを少し俯きながら聞いていて、時々頷き「そうだったんですね」と呟いていた。
「今日の理由は、まあこんな感じだ」
「……そうですか。それで、早見さんとの食事は楽しかったですか?」
「それがな……途中から心愛の事が気になってしまって、あんまり早見ちゃんとの話とか料理の味とか覚えてないんだよ」
「へ……へぇ。片思い中の相手とせっかくちゃんとした食事が出来たって言うのに、何やってるんですか」
「……だよな。でもいいんだよ。今回の事で、俺にとって心愛は結構……いや、かなり……違うな、超大切なファン第一号なんだって気づけたし。それだけで俺は十分って言うか……満足って言うか」
「何ですか超大切なファン第一号って。でも……なんかありがとうございます」
心愛が少し照れ臭そうにお礼を言ってきた。
お礼を言われた俺も何だか急に恥ずかしくなってきて、ベンチからスッと立ち上がり心愛と距離をとる。
お互いが少しの気まずさを感じながら、星を眺めたり咳をしたり相手をチラチラ見たりした。
「よーし、そろそろいい時間だし帰るとするか」
「そ……そうですね。帰りましょう」
これ以上はこの空気に耐えられないと思い、少し早かったのだが帰ると言う決断をした。
案の定心愛も同じ事を思っていたらしく、俺の決断に賛同した。
そして二人で公園から出ようとした時、俺のスマホが【ピロン】と音を鳴らす。
誰だよこんな時に。
歩いてた足を一旦止めて、俺はスマホを確認しようとした。
……いや、別に今確認する必要はないか。
心愛を待たすのも悪いと思い、スマホの確認はせずそのまままた歩き始めた。
「神谷さん、スマホ確認しなくていいんですか?さっき誰かから連絡きてたと思うんですけど」
「ああ、心愛を待たすのも悪いし帰ってから確認する」
「私の事は気にしなくていいので、今確認して頂いて大丈夫ですよ?」
「そうか?ならちょっとだけ待っててくれ」
「わかりました」
心愛の気遣いを無碍には出来ないと思い、誰から連絡が送られてきたのかを確認する事にした。
ええと名前は……早見ちゃん?
夜に早見ちゃんからのLimeって珍しいな。
どうせ今日の事についての文句なんだろうけど。
『先輩!今日帰った分の償いはちゃんとしてもらいますからね!例えばそうですね〜、二人で遊園地とか?』
な!?
俺と早見ちゃんが二人で遊園地?それが今日の償いでいいのか。
まあ確かに、遊園地に行きたくても一人じゃなかなか行きずらいもんな。
早見ちゃん友達少なそうだし……。
「ふーん。神谷さんがニヤニヤしてるから何かと思ったら、早見さんと遊園地デートのお約束をしてたんですねー」
「そこの娘!勝手に人様のスマホを覗くでない!」
「何故に時代劇風ですか?それより、早見さんにだけ今日の償いをするんですかねー」
「……は?」
「映画に行きたいなぁ」
「映画?」
「観たいのあるなー」
心愛があからさまに私と映画に行けと圧をかけてくるので、俺は渋々その要求を飲む事にした。
今回ばかりは全て俺の責任だし、仕方ないだろう。
「んじゃ、次の休日一緒に行くか?」
「もちろん行きます!」
「じゃあ観たいの決めといてくれ」
「私が観たいのでいいんですか?神谷さんの好みと違うかもしれませんよ?」
「いいよ。今日のお詫びとしていくんだから、心愛が観たいのに付き合う」
「それじゃ駄目です!私だけが楽しむのじゃなくて、神谷さんも一緒に楽しんで欲しいんです!」
頬を膨らませて私は怒ってますと訴えてくる心愛。
そんな風に言われてしまっては、俺も適当な感じではいられなくなった。
俺と一緒に楽しみたいと本気で言ってくれてるのだ。
それにちゃんと対応するのが出来る大人と言うものだろう。
「わかった。なら俺も観たい映画を決めておく。その日は一緒に全力で楽しもうじゃないか!」
「神谷さん……ちょっとテンションが怖いです。あと夜なんで、通報されちゃいますよ」
「……すまん」
こうして心愛とは何とか和解をする事が出来た。
今日は帰ったらすぐに寝よう。
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