第40話 美久との企画会議
夕方の【ムーンマルクカフェ】には女子高生が屯している。
キャピキャピとはしゃぐ女子高生たちに挟まれながら俺、神谷悟は一人である人物を待っていた。
それにしても遅いな、もう30分は待ってるぞ。
周りの女子高生たちにも何となくコソコソ言われてるような気がするし。
「いやだ〜あのおそっさん、一人で女子高生に囲まれて興奮してんじゃないの〜」とか、「ねえあのおっさんキモくな〜い」とか。
そう考えたら余計に居づらくなってきたぞ。
一旦ここを出て、別のカフェにでも移っちまおうかな。
「お待たせしました!遅くなってすいません!」
俺が席を立とうとした時、待ち人であった美久が現れた。
とても急いで来てくれたと言うのが一目で分かるほど、髪がボサボサになっている。
こんな姿、ニューチューブには絶対出せないな。
「いやそれはいいんだが、トイレで髪直してきた方がいいんじゃないか?」
「……へ?」
美久は化粧用の小さな手持ち鏡をリュックから取り出し、自分の髪を確認する。
その瞬間、美久の顔が引き攣りダッシュでトイレへと向かって行った。
ちょっと時間かかりそうだし、ジュースとチョコクロワッサンでも頼んでおいてやるか。
「お待たせしました!あ、すいませんチョコクロとドリンクまで準備して頂いて」
「俺が勝手に選んだけど、これで良かったか?」
「はい、チョコクロは大好物なので」
さっきまでのボサボサだった髪が嘘だったかのような完璧なヘアセット。
そんな美久が満面の笑みを浮かべながら、美味しそうにチョコクロワッサンを方張っている。
大好物と言うのは本当だったようだ。
俺の事を気遣って大好物と言ってくれたんだと勝手に思っていたのだが、あんまり人を疑うのは良くないのかもしれん。
女子高生がおっさん相手に発する言葉って9割型本心じゃないのかも?って思ってるそこのおっさん達よ。
大丈夫だ。
案外本心で話してくれてたりするって事が、今この場で立証されました。
「神谷さんはコーヒーだけで大丈夫なんですか?」
「俺はこれが大好物なんだ」
「大人って感じですね」
「こう見えて大人だからな」
「どう見ても大人ですよ」
「その返し、さすが心愛の後輩だな」
「それって褒め言葉ですか?」
「……皮肉だ」
食事を少し摂った後、俺と美久で最初に撮るニューチューブの企画会議を始めた。
これまで一度も動画に出てきてないおっさんサラリーマンがいきなり出てくるんだ。
それなりな説明と俺を活かす面白い企画が必要になってくる。
前に早見ちゃんが言っていた、現役女子高生の美久が30歳サラリーマンの俺に今どきを教えていくと言うコンセプトをベースに企画をどんどん出していかなければならない。
「なんか良い企画を考えてきたか?」
「こんなのはどうですかね、現役女子高生が今どきメイクを30歳サラリーマンに教えてみた的な?」
「それ面白いのか?」
「うーん……わかりません」
美久の考えてきた企画に対してあまりピンとはこなかったので、他にもお互いにいくつか企画を出し合った。
そして美久がちょっとは参考になるかもと、カップルニューチューバーの動画を何本か見せてくる。
「へぇ、こう言うので100万再生もいくのか」
「そうなんですよ。ファンさえ付いたら、あんまり面白くなくても再生数は稼げちゃいます」
「ちょっと気になったんだが、このカップルニューチューバってほんとのカップルなのか?」
「半々だと思います。ほんとのカップルもいますし、お金を稼ぐために偽のカップルもいます。偽のカップルに関しては、何だかんだ色々流出しちゃってバレて謝罪動画と言う流れになっちゃいますが……」
「……ネットって怖いな。俺らも色々と気をつけとかないと」
「ミクたちに関しては大丈夫です!絶対色恋沙汰とか絶対ないので」
「それはそうだな。最初からそう言うのじゃないって言っとけば、問題にはならないか」
企画会議と言う趣旨から大幅にズレた話し合いをしてしまい、かなり時間を無駄にしてしまった。
早くちゃんとした企画を決めないと、撮影予定日に撮影が出来なくなってしまう。
美久のチャンネルが伸びてくれないと、会社で俺や翔達が任されている新規のプロジェクトが進められないのでここは何としても頑張らなくてはいけないのだ。
「神谷さん、ちょっと雑談いいですか?」
「さっきまでの話も企画会議とは全然関係なかったと思うのだが」
「まあまあ、少しだけ付き合ってくださいよ」
「まだ時間はあるし、別にいいけど」
俺は少しでも早く企画を決めたかったが、美久にどうしてもと言われたら断ろうにも断れなかった。
女子高生からのお願いって、なんかとてつもないパワーがあるよな。
「あのですね、ずっと聞きたかった事があるんですけど……」
「なんだ?」
「神谷さんって、心愛先輩と付き合ってたりするんですか?」
「……は?」
突然のびっくり仰天な質問に俺はうまく言葉が出てこなかった。
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