第8話 早見ちゃんとの初ランチ? 完

 お洒落なカフェ、その窓際の席で対面に座る俺と早見ちゃん。

 お互い若干の気まずさを感じつつ、先輩である俺から勇気を振り絞り話しかけた。


 「は……早見ちゃんって、この店よく来るのか?」

 「うーん、そうでもないです」

 「あ……そうなんだ」


 早見ちゃんがスマホを触りながら、適当に返答してくる。


 そしてあっさりと会話が終了した。


 すぐに視線を窓の外へ向け、早見ちゃんは変わらずスマホを触っている。


 今時の若い子との会話って、こんなにも難しいものなのか?

 10歳差と言う歳の差に、とても大きな壁を感じてしまった。


 それから数分後、頼んでいたメニューが届き俺だけが食事を摂り始める。

 早見ちゃんはと言うと、未だにスマホを触り続けていた。


 この子は一体何故俺をランチに誘ったんだ?

 さっきからスマホばかり触って、全く会話をしようとしないじゃないか。


 俺は若干の苛立ちを感じ始めていた。


 そんな時、早見ちゃんがさっきまで触っていたスマホを机の上に置いた。

 そして、「オッケイ!」と言う言葉を発した後に食事を摂り始める。


 分からん。

 早見ちゃんの行動が、全くもって分からん。


 今時の女の子はみんなこうなのか?

 いやしかし、心愛は俺と話す時全然スマホをいじらないよな。


 食事を摂りつつ色々と考え込んでいたら、突然早見ちゃんから話しかけてきた。


 「先輩って、翔さんと仲良いですよね?」

 「ま……まあな」

 「翔さんって、どんな女の子がタイプなんですか?」


 嘘だろ。

 結局翔かよ……。


 ここまで引っ張られてのこれは、流石にキツすぎるだろ。


 いち早くこの場所から逃げ出したかった。

 早見ちゃんの前で、いや部下の前で涙を流したくはなかったからだ。


 「ど……どうだろうな。あいつって、そう言う話しをあんまりしないんだよ」

 「ええーー、そうなんですか?せっかく先輩から翔さんの事色々聞けると思ったのにー」

 「悪いな」


 やばい、もうやばい。

 俺のメンタルがこれ以上は保たないとSOSを送ってきている。


 これは今すぐにでもこの場を離れないと、精神的に立ち直れなくなってしまいそうだ。


 「すまないが、もう会社に戻らないと」

 「ちょっと待って下さいよー。まだ話がありますからー」

 「……分かった」


 く……くそ。

 俺はこの場を離れる事すら許されないのか。


 何と言う酷い仕打ち。

 一体俺が、何をしたと言うんだ。


 すると早見ちゃんが水を少し飲んだ後、俺の目をじーっと見つめながら話し始める。


 「先輩、来週の土曜日って空いてますか?空いてますよね?」

 「どうだったかなぁ」


 何その脅しみたいな言い方。

 超怖いんですけど。


 「いや、絶対空いてますよね?空いてなくても私の為に開けて下さいね」

 「ま……まあ、別にいいが……」


 これって強制?


 そんでもって俺、普通に言いなりになっちゃったよ。

 ほんと、恋は盲目とはよく言ったもんだな。


 「ありがとうございます♪」


 そして早見ちゃんが可愛らしくお礼を言ってくる。

 だがそのお礼も全く気持ちが込められていない薄っぺらいものだと、そう感じた。


 「それで、土曜日に一体何があるんだ?」

 「言ってませんでしたっけ?」

 「何も聞いてないぞ」

 「もう、先輩なんだから言わなくても察して下さいよ」

 「……すまん」


 まじか。

 これは俺が悪いのか?


 普通の人間なんだから、聞かなきゃ分からないだろ。

 俺がエスパーって言うなら話は別だが……。


 「それじゃあ説明しますね」

 「ああ」

 「今回先輩には、翔さんの好きな女性のタイプを探ってきて欲しいんです」

 「はい?」


 この子何言ってんの?

 それに、何で俺がそんな役目を担わないといけないんだ。


 「そして来週の土曜、その情報を参考にしながら私は女磨きをするってわけです」

 「本気か?」

 「本気ですけど」


 早見ちゃんの目はマジだ。

 これが男を狩る女の目というやつか。


 俺はとてもじゃないが拒否なんて言い出せなかった。


 「だが、情報を伝えるだけなら俺まで土曜日に行く必要あるか?」

 「もちろんですよ!だって、荷物持ちって必要じゃないですか?」


 何言ってるんですか?みたいな顔をして、こっちを睨みつけてくる早見ちゃん。


 荷物持ちって……。

 好きな子が、俺じゃない別の人の為に買った物を無償で持てってまじ残酷過ぎねえか?


 「ちょっとそれは……」

 「先輩?今更断るとか無しですからね。ドタキャンとかそう言うの本当萎えるんで私的に受け付けてないって言うか……普通に刺したくなっちゃいますよね」


 意味わからないくらい圧が強いんですけどーーーー。

 それに、今刺すとか何とか聞こえたような……。


 「ま……まあ、俺も先輩として部下の為に協力してあげようかな」


 本当はただの恐怖心と、心の奥底にある早見ちゃんと出掛けたいと言う欲からきたものなんだけど。

 まじ情けない。


 「さすが先輩ですね♪頼りにしてますよ♪」

 「任せとけって」


 こうして俺と早見ちゃんの初ランチは終了した。

 ランチ代は全て俺が出し、早見ちゃんはそそくさと会社へ戻って行った。



 ◇◇◇



 そして、次の日の土曜日。


 俺は会社が休みと言う事もあり、家の中でゴロゴロとしていた。


 「はぁ、暇だなぁ」


 独身で彼女もいない俺は、休日は基本的に暇で死にそうになっている。

 友達と遊ぼうにも、みんな結婚していたり彼女と過ごしていたりと遊べる奴なんて誰もいないのだ。


 さて、何するかなぁ。

 録画しているテレビを見るか、登録しているサブスクでアニメでも見るか。


 ピコン!


 そんな事を悩んでいると、テーブルに置いてあったスマホが突然鳴った。


 何だ?

 あまり連絡がくる事もないので、少しワクワクしながらスマホを確認する。


 すると、昨日Limeを交換しておいた早見ちゃんからメッセージが届いていた。


 『おはようございます!先輩って今日暇ですよね?そんな先輩に一つお願い事があります!今日から限定100本だけしか発売されないチャネルのリップを買ってきて欲しいんです!これは、私が可愛くなる為に必要な物なので、絶対に入手して下さいね♪』


 まじか。

 こう言う連絡はあんまり求めてなかったんだけどなぁ。


 俺は少し考える事に。


 ……


 ……


 まあでも、ちょうど暇していたし買ってきてやるか。

 決して早見ちゃんからのお願いだからとか、そう言う事ではないからな?


 軽く自分自身に言い訳をして、返事を打つ。


 『おはよう。仕方ないから、買って来てやる』


 そう返事を返し、すぐに準備を開始した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る