第32話 気まずい会議

 俺と翔、そして早見ちゃんの三人が新プロジェクトを任される事となった。

 新プロジェクトとは、会社でニューチューブチャンネルを作りそれを活用して商品をこれまで以上に売り上げると言うもの。


 「これからどうしますか?」


 部長が会議室から出て行き、静まり返った空間の中で早見ちゃんが最初に口を開いた。

 早見ちゃんの問いに対し、俺はすぐに答えが出なかったので首を横にふる。


 「まあとりあえずは、ニューチューブチャンネルを作ってみるしかないんじゃない?」

 「……ですよね」


 俺が何も答えれないと思ったのか、翔が早見ちゃんへ返答する。

 早見ちゃんはその返答を受けて、スマホでニューチューブについて調べ始めた。


 ニューチューブと言えば、すでにやっている奴を俺は知っている。

 どうせそっちの件も解決しないといけないので、美久にこの件の相談をしてみる事にした。


 「あのさ、知り合いがニューチューブをやってるからちょっと話聞いてみようと思うのだが」

 「ほんとですか!?それはすっごく心強いですよ!!」

 「それって例のJK?」

 「え?例のJKって何ですか?誰ですか?まさか先輩って変態なんですか?」


 翔の余計な発言により、早見ちゃんの中で俺へのイメージが変態となってしまった。

 最悪な状況だ。

 一番知られたくない人に、女子高生との繋がりがバレてしまった。


 「えっと……女子高生は女子高生なんだけど、また別の女子高生と言うか……」

 「は?何ですか?別の女子高生って事は何人もの女子高生を食い物にしてるって事ですか?私、先輩の事軽蔑します」

 「違う違う!!全然誤解なんだ!ん〜何から説明すればいいのか」

 「要するに、悟はロリコンなんだよね」

 「シャラップ!!」


 事態は深刻だ。

 今は何をどう説明したって、俺の変態イメージは消せそうにないだろう。

 だったら選択肢はただ一つ。


 この二人にも美久と心愛を紹介して、本当に何でもないと言う事を分かってもらうしかない。


 「二人とも、今日時間あるか?」

 「別にありますけど、警察署までついて行くのは嫌ですからね!」

 「行かねえよ!!俺は別に犯罪行為はしてねえし!」

 「俺も時間ならあるよ」

 「それじゃ今日の仕事終わりに、その女子高生達を紹介するから空けといてくれ」


 二人と約束を取り付けた俺は、すぐに美久へ連絡を入れた。

 今日の18時過ぎ、駅前のファミレスでニューチューブについての会議を開こうと言う内容だ。

 同僚の二人も連れて行くと言ったら、かなり嫌がってはいたのだが凄腕の協力者だと嘘をつくと簡単に承諾を得られた。


 

 ◇◇◇



 時刻は18時15分。

 俺と翔、そして早見ちゃんの三人は美久と待ち合わせをしてある駅前のファミレスにやって来ていた。


 「本当に俺たちも一緒に来てよかったの?」

 「ああ。これで新規プロジェクトの方もちょっとは進むんじゃねえか」

 「私は新規プロジェクトよりも、先輩と女子高生のカ・ン・ケ・イの方が気になってますけど〜」

 「だから何もねえよ」


 ファミレスに入った俺たちは、先に来ていた美久の席へと店員さんに案内してもらった。

 

 「こんばんは、神谷さん」

 「おお、お疲れ」

 

 Limeではやりとりをしているが、実際に会話をするのは今日で2度目。

 少し気まずさやぎこちなさがあるのは仕方ない。


 4人席での配置は窓側の席に美久、その隣に俺、そしてその向かいに早見ちゃんでその隣に翔。

 自然とこんな感じになってしまった。

 少し早見ちゃんの表情が怖い。


 「美久、早速だがこの二人を紹介する。あのイケメンが俺と同期の翔だ。そしてこっちの子が後輩の早見ちゃん」

 「一ノ瀬翔です。よろしくね美久ちゃん」

 「早見月姫で〜す。女子高生って可愛い〜」

 「笹川美久です。よろしくお願いします」


 各々自己紹介が終わると、少し沈黙の時間が生まれた。

 翔は窓の外を眺め、早見ちゃんはスマホをいじりながら俺の様子を伺い、美久は緊張のせいかずっと下を向いている。


 こんな時、心愛でもいてくれたら上手く場を回してくれそうだな。

 ってあれ?今日はどうして心愛がいないんだ?


 「おい美久、今日心愛は来ないのか?」

 「え?神谷さんから何も言われなかったのでミクからは心愛さんに連絡してないですよ?」

 「マジかよ!!」


 この状況での心愛不在はかなりキツイな。

 まあでも仕方ない。

 どうにか上手くまとめて、美久のニューチューブ登録者数アップと新規プロジェクトの成功へ導いてやる。


 「ねえ先輩、さっきから何二人でコソコソ話してるんですかぁ?そう言うの見せ付けられちゃうと結構萎えるんですよねぇ」

 「ちょっと早見さん、悟にも色々事情があるんだよ」

 「ごめんなさい……、ミクから話しかけたわけじゃなくて神谷さんから話しかけてきたのでそれに答えただけと言うか……」

 「ちょっと君達一旦落ち着きなさいよ!早見ちゃんはイライラしない!美久はそんなに怯えない!翔はもっと俺を助けてくれ!以上だ」


 俺からの訴えを聞いた翔がクスクスと笑っているのが見えた。

 あいつは多分、俺がこの二人に振り回されなかなか話を進められていない状況を見て楽しんでいるのだろう。

 

 ピロン。

 ポケットの中に入れてあるスマホが突然鳴った。


 誰だこんなクソ忙しい時に。

 

 『私を誘わずに美久ちゃんと二人だけで会ってるんですか?神谷さんって美久ちゃんみたいな子がタイプだったんですね』


 何じゃこれ!!

 一体誰が心愛に……。

 

 隣でスマホをいじっている美久を見て確信した。

 律儀にも心愛を誘おうとしてくれてたのだろうが、伝え方をかなりミスってますぜお嬢さん。


 こうして俺たち4人による、よくわからない会議が始まった。

 全くもって話の進む気配がないのだが……まあ何とかなると信じよう。


 






 

 



 



 

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