第31話 新プロジェクト
今日は月曜日。
サラリーマンにとっては一番憂鬱で、一番ネガティブな気分になる日だ。
……いや待てよ。
ネガティブな気分になるのは俺だけじゃないか?
原因も分かってるし。
昨日散々ニューチューブについて勉強したのに、ほとんど理解が出来なかった事だろ。
それに、心愛から今日までに考えておくよう言われていた登録者爆上げ計画を何一つ考えれていない事も原因だよな。
改めて家から会社へ向かう道中で色々と考えてみたのだが、これと言ってなにも思いつかなかった。
そしていつもの商店街入り口がもう目前に迫っている。
今心愛と会うのは絶対にやばい。
何か……何かいいアイディアが降ってきてくれないだろうか。
天に向かって俺は駄目元の全力お願いをしてみた。
「神よ、どうかどうかこの可哀想な俺に素晴らしいアイディアを与えたまえ!」
しかし、神は呆気なく俺を見放したようだ。
馬鹿みたいな祈りポーズを空に向かってしていると、後ろから突然声をかけられる。
「おはようです!神谷さん」
この挨拶にこの声、顔を見なくても誰かはわかる。
「おはよ。今日はいつもより遅めなんだな」
「そうなんです。ちょっと寝坊しちゃって。それより神谷さん、さっき空に向かって何をお願いしてたんですか?まさか、もっとイケメンになりたいとか?それとももっとお金持ちになりたいとか?神谷さんの努力では今後どう頑張ってもどうにもならない事をお願いしてたんですか?」
「俺はそんなに欲深い人間じゃねえぞ。それに、イケメンは無理かもだがお金持ちになる事だったら今からでも頑張れば何とかなると思うんだが?」
「いや、なれないですよ」
「根拠は?」
「神谷さんが安定志向だからです」
「安定志向?」
心愛から言われた【安定志向】という言葉が、俺の脳内を埋め尽くした。
何だかよく分からないが、その言葉がとてもしっくりきていたのだ。
「神谷さんって、変化をすごく嫌うじゃないですか?チャレンジ精神とかもあまりないですし、行動力だったり探究心だったり成功者が持ち合わせているそう言う必要な能力が安定志向の神谷さんにはないんですよ」
「そうか?俺にだってそれくらいの能力は備わってると思うぞ」
「ないですね。安定志向の人はそもそも今の現状を変えようとはしませんし、かなり保守的になっちゃうんですよ。なので、リスクがある大きな利益よりもリスクのない安定した固定給を選択しちゃうわけです」
「そう言われたら何となくそんな気がしてしまうな……」
「まあワンチャン、宝くじならお金持ちにはなれるかもしれませんが神谷さんって運も無さそうじゃないですか?」
「……だまれ」
朝からどうでもいいような事で言い争いをして、かなり朝の貴重な時間をロスした。
そのおかげもあってか、計画発表は明日へと延期になったのだ。
◇◇◇
ピコン!
心愛と別れた後、会社へと向かっていた俺にLimeが届く。
誰だ?こんな朝に。
『計画はしっかり考えてきてくださいね』
……心愛か。
女とは、勘の鋭い生き物だな。
全てを見抜いていた心愛からの威圧Limeだった。
朝から精神的に疲れ過ぎてしまい、会社に到着した頃には8時間労働をした後くらいの顔になっていた。
「今日はすげえお疲れモードじゃん」
席に着いて早々に声を掛けてきたのは、同僚である一ノ瀬翔だ。
今日も一段と良い匂いをさせながら、爽やかな笑顔を皆に振りまいていた。
「まあな。色々と仕事が山積みなんだ」
「ふーん。それってどんな仕事?」
「えっと……」
この場合、いったい何と言えば良いんだ?
今の現状を全て正直に話すか、それとも適当な事を言って誤魔化すか。
翔はめちゃくちゃ良い奴で信用も出来るが、女子高生と色々行動しているなんて言ったら流石にやばそうだよな。
「まああれだな。色々だ」
「なにその感じ。すっごく怪しいなぁ」
「はぁ?何にも怪しくなんてないだろ」
俺は嘘や誤魔化しがかなり苦手だった。
すぐに表情や仕草に出るし、これまでまともに人を騙せた事がない。
なのでこのままいったら確実にボロが出るだろう。
その前に何か手を打たなければ。
「神谷、一ノ瀬、早見!この三人は今すぐ会議室へ来い!」
おっと。このタイミングでの部長からの呼び出しとは。
神は俺の味方だったか。
「悟、何か心当たりある?」
「いや、全くない」
「お二人とも〜、一体なんですかね?私何にも悪い事なんてしてないと思うんですけど〜」
早見ちゃんが血相をかいて俺と翔の元へとやってきた。
全く状況を掴めていない俺たちは、恐る恐る会議室へと足を運んだ。
◇◇◇
「今回君たち三人を呼んだのは、新プロジェクトの担当になって貰いたいと思っているからだ」
会議室へと入るや否や、部長の口からとんでもない発言が飛び出した。
一体新プロジェクトとは何なのか、なぜ俺たち三人なのか。
他の仕事はどうするのか?今のチームのみんなはどうなるのか?色々と理解できない事が多すぎて、反応に困ってしまった。
「その……新プロジェクトとは何なのですか?」
翔もまだ戸惑っている様子だったが、俺や早見ちゃんがパニックになっているのを察してか一番気になっていた事を代表して聞いてくれた。
「ふむ。それはな、我々の会社のニューチューブチャンネル開設だ」
……ありえない。
そう思ったのは俺だけではなく、表情を見た限りでは他の二人も同意見だろう。
しかしだ。
どれだけ不平不満があろうとも、会社と言うのは上司の命令は絶対で当然逆らう事など出来ず、俺たちは新プロジェクトの参加を承諾するしかなかった。
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