第42話 混ぜるな危険
「せんぱ〜い!お待たせしました〜」
「急な連絡なのに、来てくれてサンキューな」
「いえいえ〜。ちゃんとお礼はして貰いますけど〜」
「……ああ、後日必ずさせてくれ」
連絡してから10分程度で早見ちゃんは来てくれた。
早見ちゃんには、ニューチューブの企画会議で煮詰まってしまったから力を貸して欲しいとだけ伝えてある。
ここからどうなるかは全く予想出来ないが、上手くニューチューブの企画が決まってくれる事を祈るばかりだ。
「……待たせたな」
「もう遅いですよ神谷さん!ミクがどれだけ待ったと思ってるんですか……ひょ?」
振り返りながら待ち時間に対する怒りをぶつけてきていた美久が、俺の隣に立っている一人の女性に気づく。
その瞬間の美久の顔や反応がなかなかに傑作だった。
驚きと興奮が一度に襲ってくると、人間と言うのはこんなにもヘンテコな表情になってしまうんだなぁとなんだか怖くなってしまう。
「か……神谷さん……こ……これは、どう言う事ですますか?」
「美久、一旦落ち着け。言葉が噛み噛みだぞ」
「だ……だって、そこにらめ様がいらっしゃるから……」
「久しぶりだね〜みくちそ〜」
「お……お久しぶりです!」
いつもの美久からは想像も出来ないほど、緊張でガチガチだ。
顔も上手く笑えておらず、変に引き攣っている。
ここは俺が上手くサポートして、企画会議を円滑に進めていこう。
「美久、今から早見ちゃんにも企画会議に参加してもらおうと思う。俺たち二人だけではなかなか話が進まなさそうだったからな」
「ミ……ミクもらめ様に力を貸して頂きたいです!」
「まかせて〜!私の企画力はニューチューブ界でダントツだからね!」
「らめ様はやっぱりすごい人だった!一生ついていきます!」
「いやいや、早見ちゃんはニューチューブやった事ないでしょ」
「せんぱい……ひどいです」
「神谷さん最低です!らめ様が可哀想だとは思わないんですか!」
「何で俺が責められてんだよ」
早見ちゃんの登場により、俺と心愛の関係に対しての興味が美久の中で無事に逸れてくれたようだ。
作戦は成功、後はこの二人をどうまとめていくかなのだが……。
一人が何かを発言すると、もう一人がそれに乗っかる。
そうしてわちゃわちゃのパワーが上がっていき、制御不能となっていく。
うん……無理だな。
この二人は混ぜるな危険だった。
今日は諦めて、適当なところで切り上げるのが良さそうだ。
「私ってお嬢様だから何個も別荘持ってるんだよ〜」
「すごいです!らめ様の別荘……ミクは行ってみたいです!」
「全然いいよ〜!いつにする?」
「ほんとですか!ミクは感激により、鼻血が出るかもです!」
「ちょっとそこのお二人さん。盛り上がってるとこ悪いんだけど、企画会議始めていいか?」
「そうでした、そうでした。始めちゃいましょう〜!」
「すいません!大丈夫です!」
俺の一言により、二人は本来の目的を思い出したようだ。
真剣な表情を作り、こちらを見つめてくる。
見つめられて今更思ったのだが、二人ともかなり顔面偏差値高いよな。
何で俺みたいな中の中くらいの男が、こんな美女二人と一緒に【ムーンマルクカフェ】に来れてるのだろうか。
いかんいかん、企画会議を始めようとしているのに余計な事を考えるな。
周りの客もほとんどが帰り、店内はかなり静かになっていた。
そんな中で、俺は自分自身と馬鹿みたいな葛藤をしている。
二人はまだかまだかと俺の方を無言で見つめてきており、その視線が何だか冷たい。
「……ごほん。改めて、最初の企画は何がいいだろうか?」
「どうせならド派手なのでいきましょうよ!」
「らめ様がそう言うならミクもド派手なのがいいです!」
「ド派手なのか。具体的には何かあるか?」
「みくちそがせんぱいをいくつかの今時スポットに連れて行って、その場所その場所で10人の人にチャンネル登録をしてもらうみたいなのどうですか?」
「その企画、かなりハードル高くないか?」
「10人くらいだったら、頭下げるなり面白い事やるなり靴舐めるなりで余裕ですよ〜」
「最後の靴舐めるは確実にアウトだよな」
その後、各々に意見を出し合った。
結局、最初に早見ちゃんが出してくれた俺が美久に今時スポットへ連れて行かれると言う企画が良いと言う事となり企画会議は終了した。
当日のカメラマンは翔が担当して、色々と細かな指示は早見ちゃんがしてくれる。
一体どうなるのか……かなり不安だ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます