第2話 女子高生ってよくわからん

 目の前には今、夏用制服姿の女子高生が立っている。

 身長はそんなに高いわけでもなく、髪は茶髪のミディアムボブ。顔には幼さがあり、全体的な雰囲気は綺麗系と言うよりかは可愛い系と言ったところだろうか。


 「あ……あの、ファンってどう言う意味だ?」

 「えっと……そのままの意味ですけど」

 「そのままとは?」

 「普通の人がアイドルを好きみたいなそんな感じですかね」


 女子高生が人差し指で頬をかきながら、照れ臭そうにそう言った。


 こんな可愛い女子高生が?俺みたいなおっさんの事を?

 ないない、絶対ない。


 これはあれか、パパ活とかそう言うやつか。

 昨日の件を利用して俺に近づき、いい気分にさせて金を取ると言う筋書きだろう。


 ふん、浅いな女子高生よ。


 「名も無き女子高生、その手には引っかからないぜ。俺はこう見えて独身の30歳だ。君より一回り以上も多く生きている。人生経験の差ってやつさ」

 「言っている意味がよくわからないのですが、独身の30歳ってところだけは理解しました」

 「ちょっとちょっと!そこはあまり触れないで!」


 なかなかこの女子高生、やりおるな。

 それとも最近の女子高生はみんなこんな感じでズバズバ言ってくるものなのか?


 「あ、そうですよね。可哀想な事をしてしまいました。色々とお察しします」

 「その感じもやめて!なんか女子高生に気を使われるとかとても惨めだから」


 何だこの女子高生。

 俺の事をファンとかいいながら、ちょっと馬鹿にされてるような感じもするんだが。


 「話を戻しますけど、私は昨日お兄さんに助けられ命を救われました。その瞬間思ったんです。この人……すごくかっこいいって」


 女子高生が両手を握りしめ、尊敬の眼差しで見つめてくる。

 何だか……悪くない気分だ。


 「あ…ありがとう」

 「だからこれからは、私があなたのファン第一号として精一杯支えていくのでよろしくお願いします♪」


 女子高生が可愛らしいポーズを取りながらそう言ってきた。


 か……可愛いじゃねぇか。

 おっといかんいかん。相手はまだ高校生だ。

 可愛いとかそう言う事を思うのもよくないよな。


 「話は大体わかった。だが、俺は一般人でただのサラリーマンだ。だからいきなりファンとか言われても、あまりピンとこないと言うかどうしていいのかわからない」

 「お兄さんは意外とめんどくさい人なんですね」

 「仮にも命の恩人に向かってめんどくさい人と言うな。まあ知り合いからはよく言われるが……」

 「言われているんですね。ウケます」

 「いやウケねえよ!」


 はぁ、朝から女子高生と何やってんだ?

 それに、そろそろ会社に向かわないとまずいし……。


 「ごめん、そろそろ会社に行くわ」

 「あ、私もです」

 「じゃあ最後に君の名前を聞いてもいいかな?」

 「え……名前を聞いてどうするつもりですか!」

 「何その反応!?一応君は俺のファンなんだよね!」

 「はいファンです。なので特別に女子高生である私の名前を、独身で30歳のお兄さんに教えてあげます」


 何この子怖い。

 本当に俺のファンなのか?それともただの現代版おっさん狩りなのか?はっきりして欲しいんだけど。


 「余計な言葉を付け加えず、ただのお兄さんと呼んでくれないか?」

 「ごめんなさい。私って、うっかりと付けちゃう癖があるんです」

 「それってどんな癖なんだよ!?俺は30年間生きてきて初めて聞いたぞ」

 「てへ」


 何それ可愛い!

 あ、いかんいかん。また女子高生に心が弄ばれるとこだった。


 「それで、君の名前は?」

 「私の名前より先に、お兄さんの名前教えてくださいよ」


 あれ、まだこの子に名前教えてなかったのか。


 「そうだな。俺の名前は神谷悟だ」

 「神谷悟さんかぁ、良い名前ですね」

 「やっぱそう思う?よく言われるんだよ」

 「神谷さん、お世辞です」

 「し…知ってたし!わざと喜んでる振りをしただけだし」


 やっぱこの女子高生よくわかんねえわー。

 俺を褒めたいのか貶したいのかはっきりしてくれ。

 あんなにガチ喜びしてた俺、まじで恥ずかしいじゃねえか。


 「まあいいです。じゃあ私の名前を発表しますね」

 「なんか軽くあしらわれてる感じが引っかかるけど、そこは一旦置いておこう」

 「私の名前は有栖川心愛ありすがわここあ、ここあって呼んでください」


 心愛?変わった名前だな。

 これが今時のキラキラネームってやつか。


 「機会があれば呼ばせてもらおう」

 「今呼んでみてくださいよー」

 「すまないが会社に行かないと」


 うまい言い訳!俺ナイス!


 「名前呼ぶのって、数秒の事ですよ?」

 「この年齢になると、数秒では終わりそうにない」

 「よく分からないですね」

 「あと10年もしたらきっと分かるさ」


 そんな年齢差を感じる掛け合いをした後、俺たちは別々に目的地へと向かった。


 はぁ、一体あの女子高生は何だったんだ……。





 





 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る