第37話 トイレでの葛藤

 俺はトイレに行くと言って、一度席を立った。

 そして早歩きでトイレに篭り、連絡がきていないかをチェックするためにLimeを開く。


 「……おお。こりゃ結構怒らせてんなぁ」


 Limeを開くと、そこには900通以上心愛からの連絡が入っていた。

 電話は数えきれないくらいきてるし、最後の方なんて怒りマークのスタンプが鬼連打されている。

 ……どうしたもんか。

 洋式トイレに腰を掛け、頭を抱える事約1分……。


 「悩んでても仕方ないか」


 悩む事は時間の無駄だと思い、何も考えず心愛へ電話を掛ける事にした。

 なんだかんだ心愛はいい奴だし、話せばきっと分かってくれると思ったのだ。

 

 しかし、いざ電話を掛けると思うと結構緊張してしまう。

 まず第一声ってなんて言えばいいんだ?

 「お疲れ!」「おっす!」「よう、元気か?」「チャオっす!」うーん、なんかどれもしっくりこない。

 まあ……別にいいか。

 どうせこんな事今考えたって、電話の頃には頭が真っ白になってるってパターンだろうし。


 めんどくさくなった俺は、普通に電話を掛けた。

 相手が電話を取るまでの間に流れるトゥットゥルトゥットゥルトゥットゥが、かなり緊張感を増幅させてくる。

 早く取れーー早く取れーー。

 俺は祈り続けた。


 「もしもし……」

 

 無事電話を取ってくれたのはいいが、何だかいつもの心愛の雰囲気とは違う気がする。

 いつもの心愛ならこう言う場合、「こんばんはです!神谷さん!」って言うはずだ。

 声のトーンだって、いつもよりかなり暗目だと思う。

 電話越しでも心愛が怒っているのがビンビン伝わってきた。


 「す……すまなかったな」

 「何がですか」

 「えっと、今日の約束の件なんだけど……」

 「別にいいですから。他に用件がなければ切りますけど」

 「いや!ちょっと待ってくれ!」

 「何ですか?」


 やべぇ……想像以上に怒ってるじゃねえか。

 今もう何言ってもアウトだよなこれ。

 でもなぁ、引き留めてしまった手前何かは言わねえと……。

 心愛を引き留めたのはいいが、特に言う事を考えていなかったので言葉に詰まってしまった。


 「ちゃ……ちゃんと謝らせて欲しいっていうか」

 「別にいいって言ったと思いますけど」

 「そこを何とかなりませんかね?」

 「営業に来たサラリーマンですか?」

 「我が社の商品は本当にいい物ばかりなので、是非心愛さんに見てもらいたいなと……」

 「やっぱふざけてますね。もう切りますね」

 「ごめんなさいごめんなさい!!さっきのは流れでつい……」


 心愛のノリに合わせた返答をすると、意外にも心愛がクスッと笑ってくれた。

 やっぱこうやって心愛と適当な事を言い合う感じ、なんか落ち着くな。

 トイレの中で一人、うんうんと頷きながら天井を見上げた。


 やべぇ……心愛に対しての罪悪感が……。

 今すぐにでも直接会って、今日の事をちゃんと謝りたい。


 「もう分かりましたから……今日の事はそんなに気にしてませんし」

 「駄目だ!!」

 「え?」

 「俺は今から心愛の所へ行く!それでちゃんと直接謝らせて欲しい」

 「今からって……何か用事とかあったんじゃ……」

 「大丈夫だ!今心愛はどこにいるんだ?」

 「約束してたファミレスの近くにある公園ですけど」

 「わかった。ちょっとだけ待っててくれ!」

 

 俺はそう言って電話を切った。

 だが、カッコつけてあんな事を言ったのはいいが早見ちゃんに何て説明すればいいんだ?

 食事も途中だし、今から予定が出来たから帰るなんて言ったら印象最悪だよな。

 絶対怪しまれず、かつ早見ちゃんが納得してくれそうな理由……。

 腹が痛くなった……とか、親が倒れた……とか。

 ……無理だ。

 嘘の下手な俺が上手くやれるわけがない。


 くそ……仕方ない。

 心愛も待たせてるしもう嫌われる覚悟で突っ込んでやる!

 

 

 


 


 

 

 

 


 


 

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る