第48話 神谷の心境変化
「それって悟の中で、本命が変わったって事じゃない?」
「本命が変わった?早見ちゃんから別の誰かにって事か?」
「まあ、そうなるよね」
「いやいや、流石にそれはないだろ。俺が早見ちゃん一筋なのは、翔もよく知ってるじゃねえか!」
俺は少し翔に当たるような口調で言ってしまった。
翔から言われた言葉でかなり動揺しているのが自分自身で分かる。
「それは知ってるよ。でも、悟自身最近いろんな人達と交流してるし心境の変化があったっておかしくないと思うよ」
「しかしだな、俺が関わってるのって女子高生ばっかだぞ。あいつらに恋愛感情なんて、絶対ないだろ」
「言い切れるの?今早見さんが付き合おうって言ってきたら素直に付き合うことが出来る?早見さんと付き合うって事は、もう心愛ちゃんや美久ちゃんと今まで通りには会えないって事だよ」
「そう言われたら……分からない……かもしれない」
現状を正しく言語化され、自分の中で色々な迷いが生まれている事に気がついた。
だが、心愛や美久はまだ未成年だ。
あいつらに抱いてる感情が何であれ、俺は絶対に間違いは犯さない。
その後も泥酔状態で翔と語り合い、気づいた時には家のベットの上だった。
後半の記憶が全くなく、頭の痛みと変にモヤモヤした感情だけが今の俺には残っている。
◇◇◇
いつもの朝、いつもの時間に商店街入り口地点へとやって来ていた。
心愛の姿はまだ見えていない。
普段ならすでに心愛が待っていて、俺が着く頃には大きく手を振りながら最高の笑顔で出迎えてくれる。
だがごくたまに、心愛の方が遅いこともあるのだ。
そう言う時は決まって心愛は申し訳なさそうな顔をする。
別に心愛が先に来て、俺を出迎えるなんて言うルールが存在するわけでもない。
心愛は少し、真面目過ぎる部分があるのでもう少し柔らかく生きてもいいと言う事を教えてやろう。
「おはようです!神谷さん」
「おお心愛、おはよ」
「何だかボーッとしてましたね」
「ちょっと考え事をな」
「神谷さんも考えるなんて知的生命体がするような事が出来たんですね」
「俺はずっと能無しだと思われてたのか?本能のまま欲望のままに生きる鬼畜モンスターか何かだと?」
「私を食べないでくださいね」
「悪いが人間を食糧だと思った事は生まれてこの方一度もない」
今日もいつも通り、適当な言い合いを軽くして心愛が話したい話題を出してくる。
これがいつものお決まりパターンだ。
「今週でしたよね?初のニューチューブ撮影って」
「そうだな。まさかこんな俺がニューチューバーデビューとは驚きだよな」
「何だか神谷さんが遠くに行っちゃった感じですね」
「そんな事言われて、全然人気が無い底辺ニューチューバー止まりだったらめちゃ恥ずかしいんだが」
「大丈夫ですよ。神谷さんと美久ちゃんなら100万人なんてあっという間です」
「新規プロジェクトも任されてるし、その言葉を信じさせてもらおう」
心愛からの言葉で全くなかった自信が、少しだけだが出て来始めたようだった。
女子高生に自信をつけてもらうなんて大人としてどうかとも思うのだが、こればっかりは仕方ない。
自分に自信を持つなんて、普通の人間にはなかなかにハードルが高い行為なのだから。
「いいですか神谷さん!これから言う事は、撮影時に絶対守らなくてはならならい超超重要な注意事項です!心して聞いておいてくださいね」
「……分かった。教えてくれ」
「それはですね……笑顔です!」
「……笑顔?」
「はい!とにかく笑顔で居てください!そうすれば好感度が落ちる事は無いはずです!」
「そうなのか。分かった、笑顔だな」
「くれぐれも無愛想な顔だけはやめてくださいね」
「大丈夫だ。無愛想と言う言葉が一番似合わない男だぜ」
「それ、本気で言ってます?」
心愛の中では俺は無愛想な男認定のようだ。
それはそうと、今週の撮影日までに笑顔の特訓だけはしっかりやっておかないとな。
せっかく心愛からアドバイスもらったんだし、今の俺に出来る唯一の自分磨きってやつだ。
「あ、神谷さん。これ今日の差し入れです」
「いい匂いだな」
「クリスマスも近いと言うことで、パネットーネを作ってみました」
「パネッ……何だ?名前が難し過ぎる」
「パネットーネですよ。イタリアの伝統的な菓子パンの一つです。向こうのクリスマスではよく食べられてるみたいですね」
「そうなのか。それにしても心愛は何でも作れるんだな」
「えっへん!私に作れない物はないのですよハハハ」
心愛が気分を良くしたところで、俺たちはそれぞれに学校と会社へ向かった。
今日も一日頑張れそうだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます