第11話 早見ちゃんとの約束

 昼休憩。


 俺は早見ちゃんから呼び出されて、会社近くのカフェにやって来ていた。

 カフェの中は、昼食時と言う事もありそれなりに混んでいる。


 そして店内に入ってすぐに、俺は周りを確認する。


 早見ちゃんは、まだ来てないみたいだ。


 「お客様、何名様ですか?」


 女性店員さんが、俺の元へとやって来る。


 「えっと、後から一人来るので」

 「では二名様ですね。お席へご案内します」


 女性店員さんの誘導に従って、俺はその後をついて行く。

 そして案内されたのは、奥の席だ。


 「それでは、ご注文がお決まりになりましたらそのベルでお呼び下さい」

 「はい」


 そう言うと、女性店員さんはそそくさと他のお客の接客に行ってしまった。


 ピコン。


 すると、俺のスマホに誰かから連絡が入る。

 たぶん早見ちゃんだろう。


 スマホをポケットから取り出し確認した。

 やっぱり。


 『先輩、もう着きますけど中にいますか?』

 『奥の席で座っているぞ』

 『了解です!』


 早見ちゃんからの連絡を返し終えると、俺はコーヒーを注文した。

 そして早見ちゃんが来るまでの間、携帯でニュースを読みながら大人な時間を楽しむ事に。


 数分後ーー。



 「せーんぱい、お待たせしました♪」

 「おう。お疲れ様」

 「それで、チャネルは持って来てくれました?」

 「もちろん。これだろ?」


 隣に置いてあった、チャネルの紙袋を早見ちゃんに渡した。


 「バッチリです!本当にありがとうございます♪」

 「間違ってなくて良かったよ」

 「先輩ならそう言う事もあり得そうですもんね」

 「それは年齢的にか?それとも人間的にか?」

 「うーん、どっちもです」


 早見ちゃんが真面目なトーンでそう言ってくる。


 なんて子だ。

 仮にも俺は上司だぞ?

 普通の人の場合、そこは「嘘ですよ。そんな事ないです」って言うだろ!


 だが今の時代、そう言う考えを押し付ける事がパワハラとかに引っかかったりするんだろうな。

 教育とは……難しいぜ。


 「早見ちゃんは厳しいな」

 「そんな事ないですよ?私って、嘘とかつけないタイプなだけです」

 「そ……そうなんだ」


 それだけ言って、早見ちゃんは友達とランチの約束をしているとかでさっさと帰ってしまった。


 ほんと、自由な子だ。


 一人残された俺は、適当な時間まで寛いで会社に戻った。



 ◇◇◇◇



 俺は、会社に戻ってすぐに資料のまとめに入っていた。

 この作業はそのチームの責任者のみで行わなければならない仕事で、俺は一人黙々とやっていた。


 そして気づけば定時が過ぎてしまっていて、部下もみんな帰っていた。


 「やっちまった。誰にも挨拶してねえや」


 誰もいないオフィスで、ボソッと呟いた。


 すると、出入り口の方から誰かがこっちに向かって歩いて来ているのが見えた。


 こんな時間に、一体誰だ?

 まさか……幽霊か。


 こわいこわいこわい。


 少しオカルトチックな事を考えて、勝手に恐怖心を生み出し怖がっている。

 昔からオカルトの類いは大の苦手だったのだ。


 「悟、お疲れ様」

 「なんだ、翔だったのか」

 「俺で悪かったね」

 「いや、その逆だ」


 なんとも言えない安心感。

 これ程までに、翔で良かったと思った事はない。


 「ほい、これあげるよ」

 「これは?」

 「夜ご飯。お腹空いてると思って」

 「まじで!サンキューな」


 俺は翔から貰ったハンバーガーをがっつく様にして食べた。


 ああ、うめえ。


 翔って、まじでいい奴だな。

 改めてそう感じさせられた。


 「それで、どれくらい進んだの?」

 「後はこの資料だけだ」

 「そっか。じゃあ待ってるよ」

 「終わったら、飲みにでも行くか?」

 「お、いいね」


 その後は仕事に勢いがつき、30分程度で残りを片付ける事が出来た。

 そして俺達は、帰り道にある居酒屋で軽く呑む事にした。


 「月曜日だと言うのに、意外と客がいるもんだな」

 「まあね。みんな呑まなきゃやってられないんでしょ」

 「サラリーマンって大変だな」

 「そうだね。それでも俺達は毎日頑張ってるよ」

 「そうだよな。俺達、頑張ってるよな」


 そんなしみったれた会話をしながら、俺達はお酒を飲み進めた。

 しかし、俺はある事を思い出す。


 せっかくのいい気分をぶち壊すかの如く、早見ちゃんの顔が頭に浮かんできたのだ。


 そうだった。

 翔から、好きな女性のタイプを聞き出さなきゃいけないんだった。


 本当変な約束をしてしまったな。

 どうして俺が、好きな子の恋を手伝わなきゃいけないんだよ。


 「悟、どうかした?」

 「い……いや、別に」

 「そっか。じゃあ次、何呑む?」

 「そうだな、一旦水貰おうかな」

 「水?本当に?」

 「おう。ちょっと水が飲みたい気分なんだ」


 そう言われた翔は、少し不思議そうな表情を浮かべていた。


 すまない翔。

 俺はこれ以上酔うわけにはいかないんだ。


 一度後輩と、いや、早見ちゃんと約束してしまった以上俺はその約束を守らなければならない。

 何を犠牲にしてもだ。


 だから翔、お前には今から俺の尋問を受けてもらう。


 こうして俺は、早見ちゃんとの約束を守る為少し酒の入った翔を相手に尋問を行う事を決意した。




 

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