第七話『新たなギルドメンバー』③

「へぇ。素敵な女性じゃないか、アイカちゃんのお姉さん。モモカさんって言ったっけ。今晩、どう?」


 ギルドにねーちゃんを通して三分も経たないうちに。

 ハイエナのごとく匂いを嗅ぎつけてきたのは、ティアだった。

 こいつ、どれだけ手が速いんだよ!


 ティアはねーちゃんの手を取って、今にも手の甲に口づけを送りそうだ。

 すると、ねーちゃんってば、顔を真っ赤に染めていた。

 え?

 なにその反応。

 まさか、こんなやつがタイプなのか、ねーちゃん!?


「あ、あの、私……で、よければ」


 いやいやいやいや! 何言ってくれてるの、ねーちゃん!

 頬に手を添えて、ポッ、って感じで、承諾するんじゃないよ!


「こら! ねーちゃん! こいつ浮気しまくりだから、やめたほうがいいよ! もー、女を見る目がないなあ!」


「あら、そうなの? で、でも困ったわね。女の方に誘われたの初めてだから、すごくドキドキして……」


 ねーちゃん、女の子には惚れっぽいのか!?

 ……そっか。ねーちゃん、村にいたときは異性からしか好意を向けられたことがなかったから、自分の気持ちに気づくの、遅れてただけなんだね。

 もともとあたしと一緒だったんだ。ねーちゃん。

 もしかしたら、あたしとねーちゃんが結ばれる可能性もあったのかな、って考えると、むず痒くなる。いや、リナのこと、離すつもりはないけどさ。


「はは、あたしは浮気しているわけじゃないよ。みんな等しく愛しているしね。モモカがその気になったら、いつでも相手してあげるさ。妹さんのほうが先に大人になっちゃったし、姉のモモカも性への興味はあるだろう?」


 こいつー! ねーちゃんのこと、すでに呼び捨てだと! もうオトした気満々じゃないか、この性欲魔人の女たらし!

 あたしはねーちゃんを庇うようにして、ティアに立ちはだかった。

 だけど不思議なことに、殴り飛ばす気にはならないのだから、女の子同士って素晴らしい。


「少しは自重しろよ、ティア! あたしのねーちゃんだぞ!」


「はは、アイカちゃんの言い分はちょっと受け入れられないな。だって君、あたしの妹のリナ、奪ったじゃないか。ならばあたしにも、アイカちゃんのご家族を口説く権利、あるはずだろう?」


 こいつ、いけしゃあしゃあと! 口が回りすぎなんだよ!

 しかも髪をかきあげて、グラスの液体を飲み干してセクシーさをアピールしているし。ねーちゃん、熱っぽい視線でティアを見てるし。

 ああああ、あたしのねーちゃんが、ティアにヤラれちゃう……。


「うふふ。ティアさん、ほどほどにしてくださいね。わたくしも、アイカさんのお姉さん、興味があるのですから」


 音もなく背後に忍び寄っていたのは、我がギルド"リリズ・プルミエ"のマスターこと、シャルだ。

 彼女は普段通り少女の姿で、この暑いのに汗一つ浮かべないで、真っ白な肌はひんやりとすらしていそうだった。


「なんだ、シャルも狙うのか。これは強敵の出現だな。あたしもいつまでも遅れを取るわけにはいかない、ってことだけは言っておこう」


「うふふ。さて、それではモモカさん。少しだけ面接をさせていただけませんこと?」


 幼女のくせに、えろい視線でねーちゃんを誘うの、やめろよシャル。

 こいつ、サキュバス一家の末っ子"みゃ子ちゃん"を面接したときに、ついでにえっちした、っていう前科があるんだよなあ!


 ねーちゃんを二人っきりにさせるわけにはいかない……。

 なんであたしが、こんなやきもきしないといけないんだよお! どっちが姉かわかったもんじゃないよ、まったく。


「あたしも付き添う。ねーちゃんには、しっかりとした恋愛をして欲しいかんね!」


「あらあら。わたくし、みなさんを等しく愛していますのに。それに、妹であるアイカさんのほうが先に初性交を終えたのは、お姉さんにしてみれば悔しいことでしょうし」


 ティアと同じことを言うなよ。レズビアンの女たらしって思考が似通うんだなあ、って新発見だよ。いらない発見だけどな!


 二人の女たらしにいきり立つあたしは、猛獣使いかくやのリナにいさめられて、鼻息も荒く面接に同行した。

 

 ねーちゃんの心意気はシャルにも伝わり、さっそくギルドのメンバーになって、シャルの家に住み込みできるようになったんだ。

 あたしとしては、しばらくねーちゃんに悪い虫がつかないように、ナイトでいたいところだけどね。

 ま、でもリナが最優先なのは変わんない! それに、ねーちゃんが合意するんなら、恋も応援すべきなのかもだしね……。いや、やっぱりティアを"姉さん"って呼ぶようになるのは嫌だな。シャルでも嫌だけどな!


 なんだか暴風雨の中を闊歩したような一日だった。

 まだ正午を過ぎたあたりだっていうのに、どっと疲れたよ。


 あたしとリナはデートの続き、っていうことで、部屋に戻っていた。


「ねー、アイ。お姉さんと仲直りできてよかったね」


「うん! あたし、なんか逆に怖くなってきちゃうよ。最近、幸せなことばっかりでさ。こんなに嬉しいことばっかりの毎日でいいのかな、って」


 余りにも日々が眩しすぎたためか、後ろ向きな発言が飛び出てしまっていた。

 リナはあたしの不安を感じ取ったのか、あたしの胸にダイブするかのようにして飛び込んでくる。

 リナの頭を受け止めたあたしは、勢い余ってベッドにごろごろと転がった。

 ふんわりとしたリナの桃色髪からは、いい匂いのするシャンプーの香りが漂う。


「うちがさ、怖がる暇なんてなくなるくらい、愛してやんよー。アイ。……しよっ♪」


「もー、リナって、えっちだなあ。でもね、ありがと。好きだよ、リナ」


「あはっ、アイのほうが、うちよりもえっちなのになあ! うち、今日はアイに何されちゃうんだろ……///」


 ベッドの上では、消極的になるんだもん。ずるいよなあ、リナって。それとも、あたしをサカらせるための技なのかなあ? ま、なんでもいいや!

 だって、リナに誘われたら、あたしは本能に従ってえっちするだけだしね。

 誘われなくっても、あたしが疼いたら襲っちゃうんだけどね!


 最初の頃はあたしも攻められてたんだけど。今ではすっかり、リナは"ネコ"なんだもん、可愛すぎる。


 ……出会った当初にリナが言っていたけれど、リナは相性が良い女の子が見つからなくって、長続きしなかったらしい。

 それ、当たり前だと思った。

 だって、リナは他の子にはずっと"タチ"側だったっぽいから。

 リナ、本当は"バリネコ"なんだよ。リナがタチ役になっていて、相性がいいはずがない。

 でもね、あたしはタチのほうが好きみたいだから……。リナとの相性はパズルのピースみたいにしっくりがっちり、ぴったりだったのだ。

 リナはされるほうに関しては、ほとんどなかったらしくって、あたしのつたない攻めでも簡単に感じてくれた。最高の女の子だよね、ほんと。


 だから、えっちが始まっちゃうと、お互いに止まらない。


 その日は、夜までえっちをしてしまった。

 途中ご飯を食べに行ったはずなんだけど、正直あんまり覚えてない。たぶん、シャル宅の住人には、何をしていたかバレバレだったはず。

 夕飯の後にまたセックスしてさ。

 あたしたちは日がまたぐ頃合いに、同時に泥のように眠った。

 心地よい入眠だった。


 未練の残る別れをしたねーちゃんと仲直りして、ギルドに入ってもらって、恋人を紹介して。

 その後に、あたしの最愛の人と体と心で愛し合ってさ。

 そんで、二人が一つになってとろけちゃうくらい汗だくえっちが続いてさ。そのまま寝ちゃったんだよ。深い眠りに誘われるのも、至極当たり前だった。


 これほどの幸せ、あたしの人生で得られるなんて思ってもいなかった。

 あたし、"リリズ・プルミエ"にいてよかった。シャルに出会えて、良かった……。

 それから、リナも。あたしを愛してくれて、ありがとう……。


 意識が途切れていく。


 あたし、アイカは深い深い眠りに誘われた。


 そして、次に目が覚めた時。


 ――あたしは、中学生の少女だった。

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