終章『アイカ』③
「お、おいっ、アイどしたんだよ~。なんで泣いてんのさ!」
目が覚めると。
あたしの顔を覗き込み、不安げな表情を作っているサキュバスの少女が視界いっぱいに映った。
あれ。さっきまでえっちしてた子だ。
髪いつの間に、どうやって桃色に染めたの?
あ、違う。
これ、リナリーのリナだ。
あたし、また夢を見ていたのか……。
あたしの頬には乾いていない涙の跡が残っている。
「あ、おはよ、リナ。ちょっと、夢を見ててさ……」
「夢? まさか、また違う世界のアイを見てたの?」
「うん。起きたら独りぼっちだった。正直、効いたよ、あれは」
「なんでアイばっかり、そんな辛い目にあうのさ……。うち、ついていてあげられなかったんだ……。ごめん、アイ。独りにさせて……」
リナが童女のように泣きじゃくって、あたしを抱いてくれた。
裸だから、胸があたる。えっちな気分になっちゃうじゃんか。寝る前にも夢でも数え切れないくらいしたのにさあ! リナがくっついてくるだけで、あたしってば発情しちゃうんだもん、罪作りなカノジョだよ!
あたしはリナの首に手を回して、髪の毛をさするように撫でてあげる。
「そんなに心配しなくても平気だよ。だって、あたし。あっちの世界でも、リナと付き合えたんだから」
「えー!? どゆことさ!! 詳しく!!」
「あはは、リナってば、興奮しすぎでしょ。リナはね、
あたしも、好きなアニメを見た直後のオタクみたいにして、早口で語った。
向こうにも、みんながいたこと。百合サークルの"リリズ・プルミエ"を作って、ギルドのみんなが続々と加入してくれたこと。
向こうの莉奈はオタクで、ギャルで、処女だったこと。その莉奈と何度もえっちしたこと。
リナは、莉奈っていう自分自身に嫉妬してて面白かった!
「ん~……。なんかさ、アイの話聞いてるとさ。うち……JKしてたよーな気もすんだよね」
「ええ? そうなの?」
「なんか妙に高良莉奈ってしっくりくんだよね~。てか部屋のパソコンつけっぱなしにしてた気がするし!」
「なになに、どういうこと? リナも、やっぱり莉奈でリナってこと?」
「わかんない! シャルっちに聞いてみよーよ!」
「あ、いいね! シャルってば、闇子とか名乗ってて面白かったし!」
あたしたちはそうと決まるやいなや、慌てて服を着込んで、ドタドタと邸宅の最上階に駆け上がっていった。
ついでに朝ご飯から帰ってきていたミズキとヒメちゃん、ティアも拉致!
シャルの家は早朝からけたたましかった。
「あら、みなさん。朝から何か御用ですの? どうぞ、お入りになって」
扉越しのシャルの声からは、嫌な予感がプンプンとしている。
なぜならば、それは幼女声よりも一段階トーンの下がった、甘美なる声音だったのだから。
見るまでもなく、大人の姿だ、ってわかる。
こいつ、朝からセックスしてたのか!
「ふ、服は着ておけよ、えろシャル!」
「あら、お気になさらずともいいですのに」
「気にするよ!」
ヒメちゃんが、「シャルちゃんの裸って綺麗そうだよね~」って言ってて、珍しくミズキが逆に嫉妬してた。レアパターンだ。
「ははは、あたしは気にしないから失礼させてもらうとするか」
ティアはシャルの裸をむしろ見たいんじゃないのか、って感じでおもむろに扉を開ける。
風に乗って流れてくるのは、女の子の汗とかその他諸々を含んだような匂い。
あたし、もうこの香り、知ってるんだよね。リナのいっぱい、嗅いだし……。
この場に集った全員、察したようだ。
「はっはっは、シャル、朝からお盛んだね。まあ私も、さっきまで姫のおまn……もがっ!」
「ばかばかっ、みーちゃんのばかっ!」
ミズキたちは相変わらずだ! あっちの世界でも口塞いでたのかな、ヒメちゃん。願わくば、オフ会して向こうの全員と会ってから、こっちに戻りたかったな!
「うふふ。女性とのモーニングセックスは、淑女の嗜みでしてよ?」
「ああ。それには同意するよ。ところで、うちのみゃ子もそこに寝ているみたいだが……」
「うふふ」
シャルはシーツだけを身体に巻き付けた、とんでもなくえろい格好をしていた。
あたしも、ヒメちゃんも、大人シャルの身体のラインに見惚れちゃうもんだから、恋人に嫉妬されちゃった!
それから、あたしたちはそれこそ貴重なシャルの自室で雑談することになって。
大人の姿を維持するシャルには、視線が合わせにくいったらありゃしない。目線を反らすと巨大ベッドに裸の女の子がいっぱい寝ているしさ、逃げ場がないんだよね……。だからリナのことしょっちゅう目で追っちゃった!
それで。
あたしが夢のことを語り出したら。
みんなが聞き入ってくれたんだ。
「わたくしは――別の世界線でも、アイカさんを救えた、ってことでしょうか?」
シャルは……さすがにこの現象については不思議がっていた。前にあたしの過去を話した時は少しなりとも心当たりがあったようだけど、今回の件については完全にお手上げ。向こうの記憶がかすりもしないらしく、ただただ感嘆しているだけだった。
「そうだよ。あたし、シャルには助けられてばっかりだね」
シャルだけじゃなくって、みんな疑いもせず、あたしの夢の世界を肯定してくれる。
シャルとの出会いが、あたしの運命を変えてくれたんだ。こっちでも、あっちでも。
「私は別の世界でも姫と付き合っていたのか。まあ、当然だな。私たちの愛は何者にも断ち切れないのだから。ねえ、姫?」
「うん♪ わたしとみーちゃんは、いつもどこでも何回生まれ変わっても一緒だもんねー♪」
でた、ラブラブバカップル! ミズキとヒメちゃんは、シャルの寝室だろうがお構いなしにちゅーしちゃう。
くそっ、負けてらんないなあ!
って同じことを思ったのか、リナと目が合った。
そうだよね!
あたしとリナはさ。同じものが好きで。同じものが嫌いで。同志で、同類で、以心伝心で! どの世界線でも愛し合う恋人なんだもん!
だからあたしたちも、みんなに見せつけるようにキスをした。
そのときね、思ったんだ。
愛華と莉奈も、今、キスしたな、って。
ギルド"リリズ・プルミエ"。サークル"リリズ・プルミエ"。
二つとも、今日も平和にイチャラブ百合カップルだらけです!
Lで鬼のあたしが女の子だけのギルドを作ることになって百合色の人生になったお話 百合chu- @natutuki01
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