第二話『ギルド始動!』②
「そーいえばさ、ギルドの本部は誰も見張り番とかしていないの? それとも、あそこもシャルの縄張りってやつなの?」
太陽光をも遮る薄暗い森をてくてくと歩きながら、何気なくシャルに問いかけた。
シャルの自宅からギルド本部までは、徒歩で二十分ほどもかかる。今はその道中。
森の中は驚くほど静かで、微生物一匹いないのではないか、と勘ぐってしまうほどだ。
「いいえ、あそこはわたくしの縄張り外ですのよ。人があまり通らない場所ではありますが……。極稀に、野盗なんかに飲食物を荒らされたりはありましたわ」
シャルはその事に関しては諦念しきっているのか、軽い溜息だけで済ませる。
だけどあたしは、なんだか悲しい気分になった。
シャルが、希望と夢を乗せて作ったギルド。だけど実際には同志が集まらなくって、本部を守ることもできていない事実。
シャルの大切な大切な場所が荒らされていて、対策も取れていない現実の厳しさに、あたしは何かが奮い立ちそうですらあった。
「やはりあの自宅からでは、シャルの感覚を持ってしても、ギルド内の侵入者には気づけないものなのかい?」
「ええ……。わたくしは皆さんが思うよりも遥かに、不甲斐ないことばかりですのよ……」
ミズキとヒメちゃんもまた、シャルのことを哀切に満ちた表情で見やっていた。
ほどなくして、ギルド本部の影が覗けてくる。
シャルは珍しく緊張を包含した面持ちで、ギルドの扉を開けた。
中は、昨日最後に見た状態が維持されたままだった。
あたしもシャルも、ホッと息を吐き出す。
あれだけ無敵に見えるシャルでさえ、不安になることがあるんだな……。
薄暗い酒場のようなギルド内部は、昼間の今でさえ寂寥感たっぷり。
いずれ、ここを本物の酒場のように賑わせたい。
今はまだ、四人だけど。
女の子が好きな女の子だけが集まって。異性の話題なんて、一切出なくって。
お酒を飲んだり、騒いだり、時には仕事を見つけに行ったり。
そんな場所になるはずなんだよ、ここは。
だからあたしは、これ以上、このギルド内部を荒らされたくない想いでいっぱいだった。
シャルは仄かに明るい照明をつけると、颯爽とカウンターに入っていって、そそくさと飲み物を手ずから淹れ始める。
あたしとミズキたちも昨日と同じテーブルに、同じ席順で着席した。
「ねえ、シャル……」
あたしは決意を滲ませた声音で、シャルに語りかけた。
彼女はお盆をカチャカチャと鳴らしながら、テーブルに向かってくる。小ぢんまりとした子ども姿のシャルが、ワンピースを着て給餌する絵面は微笑ましい。
「急にかしこまって、どうしたんですの、アイカさん」
あたしはシャルからグラスを両手で受け取って、それに願いを込めるように軽く握り締めた。
「あたし、今日からここに寝泊まりするよ」
しかし、返ってくるのはあたしの決意を一蹴するかのような、ふっとした吐息だった。
「……そんなこと、お願いできるわけがありませんわ。アイカさん、言いたいことはわかりますが……。わたくしの家は、お気に召しませんでした?」
「そうじゃないよ。まあ、ちょっとは緊張しちゃうとこはあったけどさ。……あたし、このギルドも守りたいって思ったんだ。それに、あたしは鬼だし、人間なんかには寝込みを襲われても負けないよ? 一人旅もしてたくらいだしさ! 雨風凌げるところで泊めてもらえるだけでも幸せだしね!」
押せ押せの勢いでまくし立ててみるけれども、シャルは苦り切った表情であたしの隣の椅子を引く。
ミズキとヒメちゃんもまた、ハラハラとした面差しであたしを見つめていた。
「アイカさんはわたくしにしてみれば、家で囲っている女の子たちと同じです。滅多にないこととはいえ、野盗が来るかもしれない建物に女の子一人、住まわせるわけにはいきませんわ」
「だったら、なんのためにあたしをギルドメンバーにしたのさ。シャルも言ってたじゃん、腕の立つメンバーを探してた、って。ギルドを守るためにも、あたしの力は使えるはずだよ。……それに、あたしだって、ここを荒らされてたら辛い気持ちになるし。あたしに居場所をくれたシャルへの恩返しにもなるから」
一歩も引かない覚悟で、シャルを真っ直ぐに見つめた。
闇夜の魔人が灯す緋色の双眸は、悲しげに揺れている。
あたし、シャルを困らせているのかな……。
でもさ。シャル一人にだけ重たい責任を背負わせるのも、ちょっと違うよね。
「わたくしがアイカさんに望むのは、そういったものではございません。もし、万が一、アイカさんがひどい目にあってしまったらと思うと……。わたくしは気が気ではなくって、きっとギルドと自宅を頻繁に往復する毎日になるでしょうね」
あのシャルが、指を震わせていた。
グラスの中の氷がカタカタと音を立てるほど、小刻みに揺らしてしまっている。
もしかして、シャルは過去に守れなかった人でもいたのかな……。
それとも、それを想像するだけで怯えてしまうのかもしれない。
あたしだって、同類だから。シャルの気持ちはわかってあげるべきなのかも。
万が一、って考えるだけでも、身の毛がよだつことってあるもんね……。
「じゃあさ、毎晩見回りすることくらいは許してよ。それと、ギルドメンバーが増えてきたらさ、複数人で泊まり込みの当番制とかさ、どうかな?」
あたしの譲歩した提案に、今度はシャルが安堵の表情を見せてくれた。
よかった、シャルに弱気な顔は似合わないから。"闇夜の魔人"って呼ばれていても、シャルだって女性なんだ。不安でいっぱいなこともあるんだよね。
あたしたちは、少数派だから……。同じ少数派の同類として、シャルの味方になってあげないといけないんだ。
「では、アイカさんは、しばらくはギルドの見回りをお願いいたしますわ。本当は、わたくしがすべきことではあるのですが……。ありがとうございます」
「私もシャルには恩を返したいからね、アイカと一緒に見回りをするよ。……本来ならギルド本部の寝泊まりにも志願すべきなのだろうが……。すまないね、私は姫を守ること、優先しないといけないんだ」
ミズキはいつものように爽やかな笑顔ではなくって、申し訳が立たなそうに肩を縮こまらせていた。
ミズキにも、気を使わせちゃったか。ヒメちゃんもまた、自分が庇護されているという立場に萎縮しているようだった。
女の子たちだけで居場所を守るのって、想像以上に大変なことばっかりだ。
シャルはそれを今まで一人で、やりくりしていたんだね……。
「ねー、みーちゃん。わたしも、夜の見回り一緒にしたい」
「ダメだよ、姫。君はシャルの家で私の帰りを待っていてくれ。なに、そんなに長い時間離れるわけじゃない。往復で一時間もかからないだろうし、待っていられるだろう?」
「……待って、られない」
ヒメちゃんは意外や意外、わがままを言ってミズキを当惑させていた。
まあ、あたしとしても、ヒメちゃんはシャルの家で待っていたほうがいいと思う。ミズキと離れ離れになるのが寂しいかもだけど、わざわざ危険があるかもしれないことは任せられないし。
「やれやれ、参ったな。シャルの家には外敵がいないし、私も安心して姫を預けていられると思ったんだが……」
「わ、わたしが、シャルちゃん家の女の子に、口説かれててもいいの?」
「ふむ……。なるほど、そこには気が回らなかった。なあシャル。君の家の子は、人の女の子を口説いたり、寝取ったりするような子はいるのかい?」
これまた、あらぬ方向に話が転がったな!
女の子が、女の子相手に浮気を危惧するなんて。すごい世界だ!
あたしは女の子が相手なら……浮気関連は異性よりかは寛容になれるかもしんないけど。
やっぱり、純愛のほうがいいかなあ。女の子同士でいがみ合うことになったら、見てらんないし。
でも、人間、合う合わないっていうのはあるから、レズビアンだけで生活していても、綺麗事だけでは済まない問題もあるはずだけど……。
「わたくしの囲っている女性たちは、基本的に皆、恋愛はフリーですが……。カップルには手を出さないよう、言いつけております。問題事を増やさないための策ではありますが、合意の上ならば……そういうこともあるかもしれませんわね」
「ふむ、それが聞けてよかったよ。もし、私の姫に万が一があった場合――例え女性が相手だったとしても、私は容赦ができないだろうからね。……"闇夜の魔人"と敵対することになるとしても、ね」
ミズキとヒメちゃんの愛は、深海よりもさらに奥底に沈んでいるかのようだ。
何人たりとも踏み入れることのできない絆が、そこにはあった。
ミズキの口調には、ヒメノは絶対に合意することはない、といった含みがあったのだから。
それだけ信頼して愛し合っているのならば、小一時間でも離れ離れになるのは辛いことなのかもしれない。ちょっとだけ、ヒメちゃんに同情できた。
「ええ、もしヒメノさんを傷つけてしまうようなことがあったら、わたくしはきちんと裁かれることを約束いたしましょう。……ただ、ミズキさんも、あまり無茶はなさらないように」
「だ、そうだよ、姫。シャルもきっと姫を守ってくれるさ。だから、私をギルドのために、シャルへの恩返しのために、活動させてくれないかな?」
ミズキは聞き分けの悪い子どもを諭すような柔和な笑みを浮かべて、ヒメちゃんの頭をぽんぽんと撫でていた。
ヒメちゃんは変わらず唇を強く引き結んで、納得いかない様子だったけれど……。
愛する人の意見を尊重したい気持ちはあるのか、渋々と頷いていた。
「毎日ちゃんと帰ってきてよね、みーちゃん……。それで帰ってきたら真っ先にちゅーしてよね……。それも、たくさんだよ?」
「ああ、もちろんじゃないか。私は姫に嘘をついたことはないだろう? ……こういうキスで、喜んでもらえるかな?」
「んっ……」
唐突にキスをしだすミズキとヒメちゃん。
あのっ! あたしたちも、いるんですけど!?
長い、長い口づけだった。
二人の間に流れている時間が、ゆったりとしているかのようで。背景までもキラキラと光でまぶされているかのように。手は恋人繋ぎで、ぎゅぅっと握り合っていて。彼女たちの周囲は幸福に満ちていた。
リアルの瞳を通じて見る女の子同士のキスは、あたしにとって初めてのこと。画面越しでなら幾度となく見たことはあったけれど……液晶モニターなんかでは伝えきれない感動がそこにはあった。だって、陳腐な言葉でしか表現できないけど、とんでもないほどの美しさでいっぱいだったのだから。……レズビアンでよかった、って思えた瞬間だ。
体感一時間もの間ちゅーをしていた二人は、唾液の糸を引きつつ唇を離す。なんてえっちな光景だろうか。
そして、ミズキとヒメちゃんは互いに見つめ合ったまま、にっこりと微笑んでいた。
あたしとシャルは、呆然と二人を見つめるばかり。……いや。あたしはもう完全に顔が真っ赤で、酔っぱらいよりも酷い有様の顔面だ。しかしシャルは嬉しそうに眺めているだけで、あたしたちの差異は天と地よりも激しかったんだけどね!
「うふふ。ごちそうさまでした。……ですが、皆さんに迷惑ばかりかけさせてしまって、わたくしも申し訳が立ちませんわね。これでも、わたくしも忙しいところがありまして。生活用品の買い出しやら、情報集めやらだけで手が一杯でして、他のことをするにも、満足に時間が取れませんの。ですから、ギルドのメンバーは早急に揃えたいですわね」
ミズキカップルが落ち着いたと見るや、シャルは自分の力量不足を嘆いてみせた。
鬼であるあたしですらも、シャルには頼りないと思われちゃってるところが、ちょっとだけ遺憾だけど。太古の吸血鬼からしたら、あたしなんてたったの十五年しか生きていないんだから、赤子も同然だよね……。
「てゆーかさ、シャルは忙しいって言ってるけど、一日のうち半分くらいは囲いの女の子とえっちしてるんじゃないの」
気まずい空気を変えたかったからか、あたしはそんな軽口を叩いていた。
ていうか、なんでえっち方面の話題出しちゃったんだろ! あたしも、こいつらに毒されてきているのかもしんない……。
「うふふ」
「いや、そこは否定しろって!」
「いやあ、シャルも大変だね。一日のうち半分しかセックスができないなんて。私なんかは、暇さえあれば一日中姫のおま……もがっ!」
もはや馴染み深いものになりつつすらある、ヒメちゃんの神速口塞ぎ。
しかし当の本人は慣れきっていないことなのか、肩でぜーぜーと息をして、顔は茹でダコである。
「まあ、そういうわけでして。我がギルド"リリズ・プルミエ"、当面の方針は、メンバーの勧誘といたしますわ」
緩やかな雰囲気になったところで、シャルロッテが結論を出した。
無論、誰にも異論はなかったけれど。
あたしもミズキもヒメちゃんも、人のツテなんてあるわけもなく。
あたしたちは人集めですらも、難航するんだろうな、って予感が漂っていた。
「やっぱりメンバーの勧誘も、シャルに頼りっきりなのかなあ? ってゆーかシャルは、どっからミズキたちの情報を見つけてきたんだよ」
「ああ、そういえば、シャルは私たちのことに詳しかったね。しかも、私たちを待ち伏せていたんだろう? ものすごい情報網だな」
あたしとミズキがシャルに訝しげな視線を送る。
すると、シャルは幼女の顔を得意満面に彩って、小鼻を膨らませていた。
「わたくし、情報には自信がありましてよ? これも"闇夜の魔人"としての人脈が為せる技。東西南北、困っている女性たちの情報は枚挙に暇がありませんもの。ふふっ。ミズキさんたちのことは最優先にして、何日間か様子を見させてもらっておりましたわ」
「ほう、それは全然気がつかなかったよ。シャルが敵ではなくって、本当に助かったな……」
ミズキはぞっとしない顔で、重苦しい溜息をついていた。
実際、シャルは気配を隠すのが上手というか。あたしとシャルが出会ったときも、一体いつの間に現れたのか気づけなかったくらいだし。
追われている身のミズキとしては、シャルくらいの敵がいると想定した場合、のっぴきならないのだろう。
「わたくしがミズキさんたちの周りを数日観察していた感想といたしましては、この周辺には東洋の刺客は見当たりませんでしたわ。暫くは、わたくしの縄張り外でも安全に生活できると思います」
「ほほう。それは嬉しい情報だね。――しかしだな、シャル。私たちを監視していたってことは、私と姫のセックスも覗いたのかい? 確か、三日前も宿で姫のおま……もがっ!」
「ばかみーちゃん! なんでわざわざ内容言おうとするのっ!」
またしても、椅子を押し倒さんばかりの勢いで口封じをするヒメちゃん。いやほんと、ミズキの相手って気苦労が多そうだなあ!
「ふふ、さすがに性交までは覗いておりませんのよ? 宿の外は念のために警戒しましたが……。この周辺地域の情報は、緊急を要するものがあればすぐに掴めますので。わたくしの出る幕はありませんでしたわね」
「シャルがそんなに有能なんだし、今後もあたしたちの出番ないんじゃないの。ギルドとしての活動なんてせいぜい、留守中のシャルに代わって家を守ってあげるくらいしかできないよ」
つくづく、シャルのすごさを実感させられるばかりだ。
だからこそ自分がちっぽけな存在にしか思えず、後ろ向きな意見を発言してしまっていた。
「そうでもありませんわ。次に声をかけようと思っていた女性には……アイカさんに交渉しに行ってもらいたいと考えておりましたの」
「はっ? あ、あたし? 冗談はやめてよ。愛想もないし、嫌われ者だったあたしに勧誘なんて、無理に決まってんじゃん!」
シャルが無茶振りをしてきて、あたしの反応を楽しんでいるのかと思った。
大声を張り上げて拒否を示すと、シャルは真剣そのものの瞳であたしをすっと見つめている。
有無を言わせないような圧のある眼で見られたら、ちょっとだけドキっとしちゃう。やっぱりシャルは引き締まった顔のほうが映える。それが幼女姿だろうとね。
「ふむ、私はアイカに愛想がないとは思わないな。むしろ、私はアイカといて楽しいとすら思うよ。ねえ、姫?」
「うん。わたしもみーちゃんと同じ意見だよ。アイちゃん、可愛いもん♪」
こんなにも褒めてくれる人、ねーちゃくらいしかいなかった。
あたしは押し黙ることしかできない。
俯いて、頬を熱くさせることだけがあたしの感情表現だった。
「ほ、ほら。あたし、そんなこと言われただけで、照れちゃう、し……。女の子と話するだけで、緊張、しちゃうから、さ……。勧誘なんて、無理だって……」
「はっはっは。それもそうだったね。アイカは見ていて面白いくらいに、女の子と会話ができていなかったな」
「う、うっさいな……。ドキドキしちゃうんだから、しょうがないだろ」
すると、ふふっ、という羽のように軽やかな微笑が流れた。
シャルが、あたしを慈愛に満ちた瞳で見つめていたのだ。それは大人シャルの双眸にちょっと似ていて……。あたしはサウナにでも入っているかのように体温が急上昇。
「もちろん、アイカさんが愛らしいから、というのも理由ですけれど。わたくしがアイカさんに期待しているのは、女性だけの世界、を望む気持ちに真摯なものがあるからなのです。わたくしなんかよりも、ずっと、ずっと、真っ直ぐなアイカさんの気持ちは、勧誘には必要不可欠と思いましたのよ」
「そ、そんなことないよ。……あたしはただ、こじらせているだけだよ……。シャルのほうが、よっぽどすごいじゃん。今も昔も、女の子のことなら全部受け入れていてさ……」
「わたくしだって、全てを受け入れるとは言いましたが、全ての女性を受け入れようとしているわけではございませんのよ? しっかりと話し合って、今後は女性だけしか愛さないと誓える子を厳選して見繕っているのですから。……ただ、人の心とは移り変わるもの。もし……ここを去ろうという意志があったとしたら、それは尊重したいと思っております」
言葉に詰まった。
だって、ここを出て行きたい、って思う女の子がいるとしたら、あたしは心が折
れてしまいそうだから。
あたしたちを捨てて、異性愛が多数派の世界に戻ろうなんて子を見たら、正常でいられるかわかんないんだ。
「あたし、女の子を見る目があるのかもわかんないし。千人を見てきたシャルのほうがいいと思うよ、勧誘は」
「いえ、アイカさんのほうが適任だと思いますわ。この中で最も孤独を味わってきたアイカさん。この世界ではなくて、別の世界線でも孤独を強いられたアイカさんにしか、できないお仕事なんですのよ」
別世界、のワードに、ミズキとヒメちゃんが目を見合わせて首を傾げている。
ただ、あたしは……。
シャルにそこまで信頼を寄せられていることに、胸が熱くなった。
なんていうか。今すぐに叫んだり、海に飛び込みたくなるくらいの、情熱的な感情っていうのかな。
あたしにしかできない、ってシャルが言ってくれるのなら。千年を生き、千人の女性を囲う吸血鬼が太鼓判を押してくれたのなら。
やれるだけ、やってみようかな、って気にさせられたのだ。
単純かもしんないけど。
女の子が女の子しか求めない世界を、ずっと夢見てきたから。
「じゃ、じゃあ。あたし、やってみるよ。……うまくいくか、保証しないからね?」
「うふふ、ありがとうございます、アイカさん。きっと大丈夫ですわ。だって――わたくしが次に勧誘を考えている女性は……」
シャルロッテは、もったいぶるように、そこで一呼吸入れた。
「同性愛者のサキュバスなんですもの」
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