第五話『プロモーション活動はリナリーと』②

「う~~~ん。なーんか違うんだよね~」


「リナ、根詰めすぎはよくないよ。でもね、あたし驚いてる。リナ、めっちゃ絵上手じゃん!」


 あたしとリナがポスターの制作に取り掛かって三日。リナは睡眠時間も削って机とにらめっこ、朝から晩まで紙にペンを走らせている。

 彼女はみるみるうちに絵が上達していって、今やすっかり同人作家レベル! 信じられない才能の持ち主だ。手先が器用、っていうのは本当みたいだった。


 共同作業は、最初の頃はあたしが口出しして、二次元絵の絵柄についてアドバイスしていたんだけど、もうそれも必要としない。後はリナのイマジネーション次第となっていた。


「うちもさー、ファッション雑誌とか流行に敏感だから、イメージの自信はあったんだけど。アイのいた世界の文化と、うちが知ってるファッションって違うみたいだからさ。その辺のズレ、ある気がすんだよね」


 リナは腕を組んで、一息つく。

 場所はギルド本部だ。ギルドのみんなは仕事が片付いたらしくって、全員がシャルの邸宅に帰宅している。時刻はまだ深夜、っていうわけじゃないけれど、夜で二人っきりのギルドは物静かだ。


 リナは相変わらず薄着をしているし、時折、無防備な脇がちらりと覗けるので、あたしはドキドキしっぱなし。リナの脇はすべすべのつるつる、あたしはその禁断の秘部を瞳に映すたび、太陽を直で見たかのような眩しさを感じるのだ。


 リナと二人っきり、っていうシチュエーションは今までもたくさんあったけど。

 ここ三日、付きっきりの共同作業ってこともあってか、親密度がぐんぐんと上がっちゃって。あたしたちは、むしろ恋人ではないほうがおかしいんじゃないのか? ってくらいの距離感だった。

 これが友達以上恋人未満、ってやつなのかな……?


「リナってさ、大事なことはしっかりと真剣に考えるよね。最初のイメージと全然変わっちゃったよ」


「最初のイメージって、どんなさ? 銃をぶっ放してたイメージ?」


「違うよ! なんか、サキュバス、って聞いてたからさ。もっとティアみたいに遊んでる子かと思ってた」


 そうなんだよ。

 リナって、あたし以外の女の子にちょっかいをかけないんだよ。

 聞いた話によると、リナは過去に恋人が何人かいて。女の子とのえっち経験が豊富みたいに言ってたけどさ。あたしが見る限り、全然そんな素振りがないし。だからこそ、リナにはどんどん引き込まれる。一途な女の子、ってあたしの理想だし。


「あははー、言ったじゃん、うちは浮気しないって。今はアイ一筋だかんねー!」


 どこまで本気なんだよ、って問い返そうとして、なんとか言葉を飲み込んだ。

 だって絶対に、本気、って答えてくれるに決まってるから。

 もうリナの考えてることなんて、言葉を交わさずともわかるようになってきてるんだ。


 リナとの距離が心地よかった。

 あたしは恋への発展を恐れているところがあって。それは未知の体験だからなのか、はたまた恋の先には別れ、という選択肢も存在するから、なのか。

 リナは飽き性、って聞いたし。あたしが満足させられなかったら、リナにはフラれちゃうのかな、って考えたら、先に進む勇気が出ないのだ。


 あたしはわざとらしく咳払いをして、リナの愛情をはぐらかすかのようにして、話題を変えた。


「リナはさ、あたしの話を聞いて、どんな絵が描きたいって思ってるの?」


「んー。うちはさ、レズビアンの風俗がめっちゃ気になってんだよねー! だから、えっち目な絵がいいのかな? 後、コスプレとかいうやつ!」


 リナってば、サキュバスだからか知んないけど、えっち絵に興味出しすぎでしょ!

 っていっても、それを強く否定できないのは、あたしだってえっち絵が大好きだったからだ。ならば、リナにいくらでもアドバイスできるはずなのに。リナとピンク色の会話に花を咲かせるのが、不安なんだよね……。


 だから不自然ではあったけど、レズビアン風俗については触れないで、コスプレのほうにハンドルを切る。


「コスプレって言ってもさ、色んなのあったからなあ。学生服とか、看護服とか、制服系が一般的だったかな? でも、オタクの子たちはアニメとかゲームキャラクターのコスプレしかしないみたいだったけどね」


「きっとそれなんだよー、うちはさ、"あにめ"ってやつ見たことないからさ。どんな衣装なのか、イメージがつきにくいんだよね! ほら、アイ、似た服着てる子とかいないわけ?」


「うっ、そう言われてもなぁ……。あたしだって、細部まで覚えてるわけじゃないし……」


 あたしも腕を組んで、今一度、夢の世界を思い起こす。

 目が覚める直前には、どんなものが流行っていたっけかなあ?


「うーん。あたしがやってたゲームとかは、割と普通めの女の子しか出てこなかったし。ヒメちゃんの服がイメージに近いんだけど……。後はやっぱり、奇抜な学生服が多かったかも」


「学生服ねー。その方向でいってみよっか♪」


 セーラー服。ブレザー。ワンピースタイプ。さしものあたしも、基本形の学生服なら簡易的に描ける。

 そこからはリナのセンスで小物やらリボン、色合いをアレンジ。

 リナはギャルだからか派手っぽい制服をいくつも提案してきたけれど、どれもこれも可愛くって、デザイナーにでもなれるんじゃないか、って驚いた。


 だけど、リナはどうしても最後の一歩で行き詰まる。

 あたしにしてみれば、ほぼ完成されたと思うような一枚絵がテーブルに広げられているんだけど。

 女の子が二人手を取り合って、黒を基調としたワンピースの学生服を着用していて、首元には赤のタイが施されたロングスカートのお嬢様学校風。夢の世界において、このイラストがSNSに流れていても、何も違和感なんてなさそうなのに。


 それでもリナにしてみれば、"息吹が感じられない"、と不満げであり、大事なものが一欠片ほど足りていないようだった。

 あたしは、リナに足りないものを見つけてあげられなくって、悔しい気持ちでいっぱい。


 リナの手助けになりたいのに、あたしの力が及んでいない、って想いもそうだけど。

 リナの心に隙間があるのならば、あたしが埋めてあげたい、って感じるから。

 リナが見つけられないものがあるのならば、あたしが探してあげたいと思ったのだ。


「行き詰まっているようだね、二人とも」


 ふと、ギルドの扉が開かれた。

 あたしとリナはびっくりして、振り向く。だって、もう夕飯時も過ぎた夜間だし、ギルドに要件がある女の子はいないと思い込んでいたのだ。

 それに、ギルドにはあたしたちが居残りしているから、夜の巡回をする必要もないし。


「あれ、ミズキじゃん。どうしたの。あっ、ヒメちゃんもいる!」


 入ってきたのは、ミズキとヒメちゃんだった。

 彼女たちはいつも通り、腕を組んでラブラブカップルをアピール。

 ミズキは涼し気な青色のカットソーと、柔らかそうな素材のロングパンツ。ヒメちゃんはふわふわのフリルがついた花柄のワンピースだ。


「はっはっは。お邪魔かもしれないけど、二人の力になれないかなと思ってね。君たちの仕事は、私たちのギルドのためでもあるからさ」


「うんうん! アイちゃんとリナちゃん、わたしたちが邪魔だったら言ってねー! すぐ帰るから~。あ、二人とも、何か飲む?」


 二人はあたしたちの"友達以上恋人未満"関係を知らないのか、気遣いながらもカウンターに入っていく。

 ヒメちゃんは家庭的な女の子。お茶当番をすることも多々あった。


「うちはアイスコーヒーがいいな! ……ん~。なんだ!? ミズキたちを見てたら、なんか閃きそうだな……」


 リナは元気よく注文をしたかと思えば、今度は低く唸り込んで、ミズキとヒメちゃんをじっくり凝視している。

 二人を見て閃くこと、ってなんだろう?


「私たちが何かヒントになりそうなのかい? そうだなあ、私は剣士で、姫はお姫様で……その辺がイメージになりそうかな?」


 ミズキはヒメちゃんに付き添って、グラスを人数分用意している。ヒメちゃんはお湯を沸かして、ロックアイスの準備もして、てきぱきと動いていた。

 彼女たちはまさに以心伝心。口頭で伝えなくっても、お互い次に何を必要としているのか理解しているようだ。長年のカップル、って感じ。


「ん~……そうじゃないな……。ああ~~もやもやする! 喉に引っかかる感じ!」


「ふむ。では、私と姫がキスでもしてみようか? さすがに、姫のおまん……もがっ!」


 ああ、なんか久しぶりに見るな、ヒメちゃんの口塞ぎ!

 ミズキとヒメちゃんはもはや漫才ふーふ。いわゆる、お約束、ってやつを披露してくれた。


「ん~、今の近いな……。アイが言ってくれた言葉にも、なーんかヒントがありそうなんだけどなあ」


「えー? なんだなんだ? リナは何が気になってるんだろう……」


 リナが追い求める最後の一欠片。

 彼女は懊悩して、瞳を閉じて、まるで海底でもがくかのように必死にイメージを捻り出そうとしている。


「君たちは本当に仲が良いな。傍から見ていてもわかるよ、君たちはとても相性がいいんだろうな、って。ねえ、姫?」


「うんうん。わたしもお似合いだと思ってるよ。リナちゃんがアイちゃんをリードしていく感じ、想像しやすいもん。ねー、みーちゃん?」


「はっはっは、そうだな。アイカは照れ屋だからな。リナリーくらい積極的な女性がお似合いだ」


 う、繊細なところを話題に出すなよ! 意識しちゃうじゃんか!

 リナはあたしに好意を寄せているし、ミズキたちの会話にニヤニヤするかなー、と思いきや、ギャルのサキュバスはいまだ考えに没頭していた。


 それに、ミズキたちはやっぱりそうか。あたしたち、付き合ってると思ってるのかな……。


「ははは、ミズキもヒメちゃんも、まだまだ甘いね」


 と、ハスキーなボイスが流れてくると同時に、またしてもギルドの扉が開かれた。

 次なる来訪者は――サキュバス一家の姉貴分こと、ティアだ。

 まさかの珍客に、あたしとミズキ、そしてヒメちゃんは、ティアに注目してしまう。


「夜酒を飲みたくなってね、あたしもちょっとお邪魔するよ」


 ティアは、一人の女性を肩に抱きながらギルドにずかずかと入ってくる。

 ――一緒にいるのは確か、いつもバーテンダーみたいな服で、飲み物をくれる女の人。

 二人とも、大人の色気が抜群のセクシー美女。特にティアは、前髪で片目を隠していて格好良いと評判の女性であり、モテ具合は頭一つ飛び抜けている。


 彼女たちは両方とも石鹸の香りが強くって、お風呂上がりなんだな、って一瞬でわかった。そこがまた、変な妄想をかきたたせてくる。


「私たちが甘いって、どういうことだい、ティア。確かに私も甘いと思うさ、姫のおま……もがっ!」


「ははは、いやなに。リナは思ったほど積極的ではない、ってことさ。この子、セックスになると途端に奥手でね。案外、アイカちゃんのほうがタチ側になるんじゃないのか、ってことだよ」


 ガタンっ。

 あたしとリナ、二人が同時に椅子から転げ落ちた。

 この女、何を言い出すんだよっ!


 リナは珍しく顔を赤くさせて、柳眉を逆立てている。あ、貴重な表情だ、と思って、怒っても可愛いリナをじっくり拝んでしまった。


「こらー、アイに変なこと吹き込むなよティア! 酒でも飲んで黙ってろ、すけこましのくせに!」


 リナが鼻息も荒く怒号する。

 ティアは肩をすくめて、怒鳴られていることなど歯牙にもかけず、やり過ごしていた。大人の余裕である。


「ふむ。今のリナリーの慌てっぷりを見ると、なるほど。ティアの言う通り、逆はありえそうだな。姫もそう思うだろう?」


「逆かぁ。逆もありかも! アイちゃんが懸命にリナちゃんを引っ張ってく感じ! これが"尊い"ってやつだよね、みーちゃん?」


 ミズキとヒメちゃんも勝手に盛り上がっちゃって、楽しげにお喋りしながらコーヒーの準備を終えていた。

 あたしたちにアイスコーヒー、ティアたちにはブランデーが行き渡って、一服タイム。


 ちなみに、ミズキたちとティアにも、あたしの夢のことについては多少話しておいた。だから、このメンバーからは時たま、夢の世界の文化のことや言葉が飛び出してくる。


 ミズキとヒメちゃんは創設メンバーだし。ティアはリナの一家だから。この子たちは、あたしの信頼がものすごく高いのだ。別に、他の子を信用していない、ってわけじゃないんだけど。

 ミズキたちとは話しやすいから、なのかな。


「ったく、うちらはまだ付き合ってないっつーのにさ。すーぐそんなこと言い出すから、色ボケたちは嫌だねー」


 慨嘆して溜息をつくリナの台詞を受けて、ギルド内が静まり返った。


「付き合ってない、って。嘘だろう? 君たち、どう見ても恋人じゃないか」


 口をあんぐりと開けたのは、ミズキだった。

 ヒメちゃんも同意するように、うんうん、って頷いてるし。恋の百戦錬磨であるティアでさえ、お化けでも発見したかのような目の見開き方をしていた。


 え? あたしたち、周りから見るとそんなにラブラブしてるの!? そこが驚きだよ、こっちは!


「ああ、驚いたな。リナは奥手だが、そこまでだとは思わなかったよ。でもおかしいな、リナとアイカちゃんは熟年カップルのような雰囲気なのにな」


 ティアは前髪をかきあげ、ブランデーで舌を湿らせる。そして、アルコールの匂いを含んだ吐息をつきながらの言葉だった。ティア、いちいちアダルトな雰囲気を出すよなあ。


「ねー? わたしもさ、アイちゃんたち、ふーふみたいだなーって思ってたんだよ。ねえ、みーちゃん?」


「うむ。姫の言う通りだな」


 みんながみんな、口々に同じことを言うんだもん。

 あたしは顔が熱くなって、前を見ることができなかった。


 リナはどう思ってるのかな。

 俯きながら、ちらり、とリナを横目で盗み見る。


 すると、サキュバスのギャルは、呆然としていた。

 それはまるで、宝くじが当たった人間かのような、見事な硬直っぷりである。


「そ、それだーーーっ! うちが気になっていたのは、そうだよ! 同性婚だよーーー!」


 リナは突然に叫び声をあげて、テーブルをばんっと叩いた。

 全員が目を瞬かせて、リナを見やる。


「女の子同士での結婚なんて、すごく"尊い"じゃん!? うち、それを描きたいって思ってたんだ。その熱情を絵にぶつけたかったんだよ~~」


 晴れ晴れとした笑顔だった。

 そういえば、シャルとリナにあたしの夢を説明したとき、あの世界では同性婚もできなかった、とかなんとか、言ったんだっけか。パートナーシップっていう制度はあったんだけどね。結婚まではできなかった。できる国もあるみたいだけど。


 しかしまさか、それがリナの心に残り火としてくすぶっていたとは。

 でも、そっか……。そうだよね。

 あたしたち、同じ考えの仲間だもんね。

 女の子と結婚したい、って考えるのは、当然だよね。一番、心がアツくなるんだよね。


「ほう。女の子同士での結婚か。なるほど、それは素晴らしいな。姫は、私と結婚してくれるかい?」


「するぅーーー! みーちゃんと結婚するーーー!!」


 結婚の話題が出ると、ミズキとヒメちゃんは二人の世界に突入。いきなりちゅーしだした。

 ……でも、ミズキたちもやっぱり女の子同士での結婚を所望していて。

 あたしたち、仲間なんだな、って強い絆を感じることができた。


「はは、同性婚ができるなら、あたしは誰と結婚しようかな? 候補が多すぎて困ってしまうな。重婚ってやつができると助かるんだけど……」


 ティアも言っていることはおかしいけれど、結婚はしたいみたい。

 

 あたしたちは"同性婚"って話題だけで無限に盛り上がれた。

 だって、そうでしょ?

 あたしたちは同じ志を持った仲間で、同じものが好きで、同じものが嫌いで。

 そんな熱意のある女の子たちが集まったのならば、たった一つのきっかけで、瞬間湯沸かし器よりももっと早くヒートアップできるんだよ。

 今日のあたしたちにとって、その"きっかけ"、は同性婚だったわけだ。


 どこでどのような式を挙げるか、とか。二人ともウェディングドレスにするのか、とか。

 リナも熱くなって会話に参加して。想いが臨界点を越えたら、筆に魂を込めていた。


 ギルド内部は夜間なのに大騒ぎ。

 仲間たちと盛り上がるのって、こんなにもテンションが上がることなんだね。

 あたしも自分の中にある"尊さ"をぶつけるために、同性婚について熱く語っていた。


「わたくしの夢見ていた世界がここに。――ああ。諦めないで良かった」


 ふと、銀鈴を鳴らしたようなあの声が沸き起こる。

 なんと、一体いつからそこにいたのか、シャルが左隅の席にて一人座っていたのだ。それは少女姿のシャルだったけれど、雰囲気は大人そのもの。昔日を憂う面影が、見え隠れしていた。


「シャル、いたんなら声かけてよね。水臭いな」


 あたしがシャルに目を向けると、彼女はなんとも複雑にはにかんだ。

 シャルはゆっくりと立ち上がる。その所作は、儚げで、優美で。視線が離せなかった。


「わたくし、皆さんと出会えて、感激で涙してしまいそうですのよ。同性婚は、わたくしが追い求めてやまなかったもの。わたくしが女の子だけの国を作ろうと思ったきっかけでもありますわ」


「へー、千股のシャルっちも、結婚を考えるんだねー」


 リナが茶化すように言った。

 シャルはそれでも薄く微笑むだけだ。彼女はまるで、精神が別世界に移動しているかのように、心ここにあらずといった様子。


「わたくしもね、これでも孤独だったんですのよ。今でこそ、たくさんの女性に慕われていますが。同性での結婚なんて考え、誰にも受け入れてもらえなかった時代がありましたの」


 そうだったんだ……。シャルも、あたしと同じで孤独だったんだ。

 だからシャルは、あたしのことを他人に感じなくって、色々と任せてくれていたんだろうか。


 シャルが独りぼっちだったのは何年前のことで、そして何年間孤独だったのかはわからないけれど。

 きっと、あたしが想像もつかないほどの年月だったんだろうな、ってシャルの声からは読み取ることができた。だってシャルは千年を生きてきた吸血鬼だから。

 ……もしあたしが数百年も孤独だったとしたら、果たして人生を耐え抜くことができるのだろうか。シャルのことがより一層、切なく見えた。

 

 けど、ようやく。

 同性婚ができるようになるための一歩が、進んだんだよ。

 シャルはすっかり、やり遂げた気でいるみたいだ。あたしたちは、これからなのにね!


「シャルにしては消極的な考えじゃないか。どうせなら、私と姫の結婚を今すぐ認めてくれないかな? 君が法となってくれれば、私たちもありがたいんだが」


「ふふ。認めてあげるだけならば、そうしてあげますけれど。ですが、残念なことにまだまだ法的な力はございませんのよ」


「今はそれでいいさ。この敷地内だけでも認めてもらえればね」


 ミズキは無茶苦茶な交渉をして、ヒメちゃんとの結婚を取り付けていた。

 この仮結婚、なんかうちのギルドで流行しそうな気がしてきた。

 

 そして周りの熱気は上昇したまま、深夜を回って……。

 ヒメちゃんは炎よりも熱い会合にテンションを上げすぎて疲れてしまったのか、そのうち眠っちゃって。みんなも頭が冷却されてきて、静かな余韻を残しているところ。


「できたよ、うちの魂が込められたポスター。どうかな?」


 リナが大きく伸びをしながら、虚脱した。

 あたしは、テーブルに広げられたイラストに視線を落とす。


 さっきリナが描いていた制服の女の子二人をベースに。

 結婚式を想起させる背景と、女の子が密着したイラスト。

 そして彼女たちの表情は、女の子たちの幸せを凝縮させたような、心温まるものだった。

 二人は指輪もつけていて、"同性婚"を強くイメージした絵だった。


「ギルドの広告としては、ちょっとおかしいかもだけど。うちはこの想いを伝えたいし、うちの想いに心を打たれた女の子に、リリズ・プルミエを知って欲しいからね。まー、文字はまだ入れてないんだけどさ!」


「あたし、いいと思うよ! だってあたし、リナの想いに心打たれたもん! このイラストをひと目見て、ビビっときたんだよ!」


 あたしは感極まって、リナの両手を取ってぶんぶんと上下に振るう。

 だってさ、インターネットで自分好みの画像を見つけたときのような、もだえてもだえて苦しくなって、叫びながらベッドにダイブしたくなるくらいの気分だったんだから。


 すると、リナにもあたしの心境が伝播したのか、リナはあたしのことを強く抱きしめてきた。


「アイには伝わったんだ? あはっ、それが一番嬉しいかも♪ 一番伝えたかった人に気持ちが伝わるのって、最高なことだよね♪」


 あたしとリナは、喜びを分かち合って、夢中で抱擁を交わす。

 二人で一つになったような、心が混ざりあったかのような心地よさ。とにかくリナのことを抱きしめることしか考えられなかった。


「うふふ。お二人とも、イラストから飛び出してきたかのようですわね。……このポスター、素晴らしい出来ですもの。きっと、もっと賑やかになりますわ、わたくしたちのギルドは」


 シャルも満足げに吐息をつく。

 騒ぎに目を覚ましたヒメちゃんもポスターには大絶賛。

 ティアもこれしかない、と太鼓判を押してくれた。


 あたしとリナの共同作業は、大成功に終わったのだ。

 リナは一仕事終えた疲労のためか、電池が切れたかのようにその場で眠ってしまう。

 あたしがシャルの邸宅まで彼女をおんぶしてあげた。

 背中にリナのおっきいおっぱいが当たるせいで、ドキドキしてしまう。その胸の高鳴りは、あたしの人生で一番激しいものだった。

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