第8話 負ければ退学!? 勝との賭けバトル!!
謎の影の正体が勝だと判明したことで達美は倒れている新と信吾を叩き起こし、勝を校舎に招いた。
「と、いうことで新と信吾に紹介するわね。こちらが先日私たちを助けてくれた臨時教師の王道勝先生よ」
「へえ、こいつが龍ヶ崎が言ってたバニラカード使いの教師か…………」
達美が紹介すると新がまじまじと勝を上から下と観察し始める。
着替えずに地べたで寝た事でしわしわになったスーツを着崩し、眠たげに開かれた薄い目でどこかを見ていた。
その姿は達美がおとぎ話のように語っていた教師像とはかけ離れており、新は首を傾げる。
「…………こんな気だるげな奴が本当に教師なのか?」
「え……えぇ確かに自分で言ってたしそうだと思うけど…………ですよね、先生?」
「……………………眠い」
達美の問いかけにも答えずあくびをする勝にだんだんと達美も汗を浮かべている時、突然マンションの正門が開いた。
「やあ諸君、おはようございます」
全員が視線を向けると、そこには思わぬ人物がいた。
「こ、校長先生…………! おはようございます!」
恰幅のよい体系を白いタキシードで包みこみ優しそうな顔が第一印象の好々爺、そしてこの遊学の校長である高田博光だ。
その姿を観とめるとすぐさま達美が一同を代表して深々とお辞儀をする。
「うん、いい挨拶だね、龍ヶ崎くん。他のみなさんもおはよう」
達美と同じように博光がその場の生徒に挨拶をするが、誰一人として相手にせず校長であるはずの博光を睨んでいた。
「どういう了見だろうか、校長殿。わざわざこんなクラスのためにご自身で動かれるとは?」
今にも斬りかかりそうな雰囲気をかもし出しながら信吾がそう聞くと、博光はそれに臆することなく変わらぬ笑顔で答えた。
「実はまたこのZクラスに臨時教師を配属しようと思い、その報告をするためにここに来たんだ」
「それって…………まさか、王道先生ですか!?」
達美が嬉しそうに博光に聞くと、博光もそれに首肯する。
「ええ、彼こそこのZクラスの新しい臨時教師の王道勝先生です。詳しいことは昨夜、彼から聞いていますね?」
「「「「へッ?」」」」
「みなさんと年も近い彼です。きっと皆さんと同じ目線と距離で最適な授業をしてくれると核心しています。それでは皆さん、よきバトルライフを――」
「「「「ちょっと待ったあああああァァァァァァ!!」」」」
それだけを言い残してその場を立ち去ろうとする博光をクラスの四人が必死に止めた。
「いやいや俺たちそんなこと初めて聞いたし、なんなら会ったのも数十分前だし!!」
「それに年も近いってどういう事ですの? この学園の先生方は十年以上のプロ履歴がある方のみでしょう?」
四人の話しを聞いて今度は博光が疑問を投げかけた。
「うん? どういう事ですか? 確か昨夜が彼の配属日で、その日の内に自己紹介を済ませておくように伝えたのですが…………?」
ゆっくりと一同が寝ぼけ眼をこする勝に視線を飛ばすと、それに気付いた勝が答えた。
「んぅ? あぁ、昨日は確かここに着いた時に外にカードが出てるのを見てそれに釣られて倉庫に入ったら見たこともないカードの山があって…………」
拙く説明する勝に相づちを打ちながら一同が続きを待ち、
「それを一枚ずつ見てたらいつの間にか寝てた」
「「「「なんじゃそりゃぁぁぁぁぁぁ!?」」」」
その答えにクラス全員がキレた。
「仕方ないだろう? あんなにカードがあったら誰だって興奮するに決まっている」
「だからって、仕事をほったらかしにする理由にはなりませんよ? これからあなたはこのZクラスの臨時教師になるのですから」
「ん? …………さっきから気になっていたのだが、そのZクラスってのはなんだ?」
何気ない勝の質問に先程までの元気が嘘のように生徒四人が静かになる。それを見かねた博光が代わりに勝に答える。
「Zクラスとは、我が遊学での成績不良生徒十名を特別に指導し、成績向上を目指すためのクラスです。そのために彼らには本校舎とは別の学習塔を設けてここで勉学に励んでいただいています」
「体の良い言い方だなぁ、校長先生よおぉ。用は俺たち落ちこぼれが本校舎の生徒に悪影響を与えないように隔離してるだけだろうが」
博光の説明に苦虫を潰したように新が食いかかると、博光は困り顔を浮かべながら優しく語りかける。
「そんなことはないですよ剣木くん。少なくとも私はあなた方を邪険になどしていません」
「だったらなんだよこの校舎の設備はよッ!! 校舎は築三十年のオンボロマンションだし、授業を行うためのパソコンはない、カードバトルの特訓は外! 飯やカードの支給も無しだし、送り込まれる教師はこいつみたいなやる気もないすぐ辞める臨時教師ばかり! こんな場所でどうやって強くなれっていうんだよ!?」
新が言葉を締めくくると同時に壁を強く叩く。その手を震わしながら俯く姿があまりにもいたいけで、悲しげで、今度こそ博光はかける言葉を失ってしまう。
その姿で言葉を失ったのは博光だけでなく、同じZクラスの三人も新に自分たちの境遇を自覚させられ俯いて黙りこむ――
「――ふざけるな」
そこに一つの声が飛び込んだ。
「要するにお前らは、自分の置かれている環境の言い訳にして努力をするのを諦めただけだろうが。そんなんだからお前らは劣っているんだよ」
先程まで一言も発言をしなかった勝が新たちZクラスの面々をまるで刃物で刺すように見ていた。その言葉一つ一つの重みに思わず後ずさりながらも食いつくように新も睨み返す。
「か、勝手なこと言ってんじゃねえよ! 何も知らない奴がこの地獄で生活する俺たちの苦しみが分かってたまるかよ!」
「ふッ…………これが地獄ねぇ…………」
勝は鼻で笑うと辺りを見渡して遠い目をした。
「…………こんな所よりももっと酷い場所はあるんだがな」
ぼそりと言った勝の言葉に疑問を抱きながらも、新は勝に挑戦するように自分のデッキケースをかざした。
「そんなに俺たちの気持ちが分からないって言うんなら、俺と勝負しろ。俺が勝ったらお前はこの島から出て行き、そこの校長は今のZクラスのカードと飯の支給を要求する」
「俺が勝ったらお前はどうするつもりだ?」
「ッ…………この学園を辞めてやるよ!」
「剣木、なんてバカなこと言ってるのよ!」
新のバカな賭けに達美は思わず口を出すが、達美が見た新の顔はどこか晴れやかに見えた。そしてそこから達美は、新がそこに隠した真意を読み取り、口を挟めなくなってしまった。
そんなやり取りを見ていたからか、勝は思案した後に声を出す。
「分かった。俺に負けたらこの学園を辞めてもらう。だが、俺の意見も聞いてもらおうか」
「ふんッ、何だよハンデでもつけて欲しいのか?」
勝は新の軽い挑発を無視してある達美を指差した。
「対戦相手はお前だ――龍ヶ崎達美」
「え?……………………えええええぇぇぇぇぇぇ!!」
突然の指名に達美が驚いたのも束の間、達美と勝を中心として光のドームが形成されていく。
「こ、これはバトルフィールド!? な、何で?」
達美は急いで辺りを見渡すと、達美の足下にいつの間にか置かれていたデッキケースがエリアを展開していた。
その光はどんどんと部屋中に広がっていくと、達美の目の前に現われたのは鉄くずの山が廃棄されたフィールド、
そしてその聖域の中央に主たるプレイヤー、勝が待ち構えていた。
「悪いが、こんなことで時間を取られるのは癪なんでな。とってとフィールドを展開させてもらった」
「…………ねぇ、もしこれで私が負けたら、どうなるんですか?」
恐る恐る達美が勝に尋ねると、勝はどうという事もないように告げる。
「あいつが言ったのは、負けたものが学園を辞めるという賭けの条件だ。試合に参加したお前が負ければ当然お前に辞めてもらう」
その答えに達美は一気に自分の体温が下がっていくような感覚に陥った。
負ければ退学。そんな危険な状況に動揺を隠せるはずもなく、達美は冷や汗をかく。
「おい! ふざけんなよくそ教師! これは俺が仕掛けた勝負だ! 龍ヶ崎は関係ないだろうが!」
フィールド展開の際に端まで移動させられた新が勝に向かって様々な暴言を吐くが、勝は一顧だにせず達美のフィールド展開を待っていた。このまま突っ立っていても試合放棄とみなされてもおかしくない。達美は一度大きく深呼吸をして新に向かって叫ぶ。
「心配しないで、剣木。私は私の戦い方で先生に勝ってみせるから!」
そう言って達美が新に笑顔を返すと、覚悟をその手に宿すように達美はデッキケースを握りしめる。
「行くわよ先生! バトルフィールドセット!!」
掛け声と共に投げられたデッキケースは素早く回転を繰り返し、それは達美と勝の両者の間で静止する。そして今度は達美のそばのフィールドの景色が変わっていった。
自然が豊かで木造建築の家々が立ち並ぶ田舎の風景。そのフィールドの中心に達美はいた。
「準備はできたようだな。今回はお前に先行を譲ってやる。精々恥を晒すな」
侮るような勝の発言に達美は眉根を動かす。そして達美も負けじと不敵な笑みをたたえて勝を煽る。
「先生が強いのは知っています。でも、この勝負で先生は私たちを舐めたことを後悔します。覚悟してください!」
双方の手札が配られ、コアが設定される。緊張を孕んだ空気が二人の間を駆け抜け、
【聖域のセット確認。掛け金セット確認。カードバトル開始】
無機質なアナウンスを皮切りに二人の試合が始まった。
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