LEGENDS~カードバトルで全てが決まる学園に、裏バトルの王が教師をやってみた件~
友出 乗行
一限目 地下から生まれた最強カードバトラー!
第1話 闇の中で動く伝説
どことも知れぬ地下深くの闘技場。そこで行われているのは、本当の殺し合い。
だが、人を殺すのに人である必要性はない。それに気付いた観客達が目を向ける先には二体のモンスター。
狭い地下室を覆うような岩の巨人と白銀の輝きを放つドラゴン、その二体がリングの中央で拳と牙を向け合い、そのモンスター達の前に二人の男がいた。
一方は、岩の巨人を従え、筋肉の塊のような巨漢の男。
その体の上を無数の傷跡が走った歴戦の戦士を思わせ、目の前の対戦相手を睨みつけている。
一方は、白銀のドラゴンを従え、細い体にフォーマルなスーツで締め上げている青年。傍からみれば、一見弱弱しい印象を植えつけられがちな青年だが、彼自身は巨漢の男の視線など気にも留めず、目の前に浮かぶ数枚のカードに目を走らせていた。
「行け、化け物! 奴に止めを刺してやれ!」
巨漢の男が指示を飛ばすと、岩の巨人の拳が白銀のドラゴンに向かって振り下ろされる。その拳を受けた――はずだった。
「な……んだ……と……?」
岩の巨人が振り下ろした拳がドラゴンに当たる直前、ドラゴンの体はまるで蜃気楼のように霧散していなくなったのだ。
巨漢の男は、目の前で起きた光景の意味が分からずひたすら困惑する。
そして、目の前から小さな溜息が聞こえた。
「それで――」
巨漢の男がはっとして見ると、いつの間にか姿を現した白銀のドラゴンは、岩の巨人の頭上にてその大口から零れ出る程の光のエネルギーを蓄えていた。
「――勝ったつもりか?」
「まっ! 待って――!?」
「攻撃だ――《極滅のクリアバースト》」
巨漢の男は言葉を最後まで紡ぐ事も出来ず、青年の無慈悲な指示を受けたドラゴンが口を開くと全てが終わった。
ドラゴンから放たれた光弾は岩の巨人の頭から股下まで一直線に貫き消滅させ、その余波を受けた巨漢の男がリングに張られた網を突き破って壁に激突。
その一部始終を見納めて、青年は何事も無かったように背を向けた。
「…………これで終わりか」
つまらなそうに呟き、青年がリングを降りると、目の前の机に置かれたトランクを手に取り、地下を後にしようとした。
「あなたが地下の王、王道勝ですね」
直後、後ろから声をかけられた青年が振り向くと、そこには白いタキシードを着込み、優しそうな笑顔でこちらを見る一人の老紳士がいた。
「誰だあんた…………ここじゃ初めて見る顔だ」
「私の名前は高田博光。あなたを我が学園の教師にスカウトに来ました」
「…………スカウト、だと…………」
博光の言葉に勝と呼ばれた青年の眼が鋭さが増す。
「お断りだ。わざわざ地上の人間が地下の人間をスカウトする理由が分からん」
博光から背を向けてまた勝が歩きだそうとする――
「ちょっ!!? ちょっと待って待って待って!」
――博光はまるでヘッドスライディングで勝の足に飛びついた。
その奇行には、今までポーカーフェイスを貫いていた勝の表情にも困惑の色が浮かんだ。
「なっ!? 何をするんだ貴様!」
「行かないでくださいお願いしますっ!! このまま帰ったらまた実技担任にマウントを取られてしまいます!」
「知るか、俺には関係ない」
「このまま帰ったら今度こそ無断で学園の金を自分の口座に横流ししてここに来た事がバレてしまいます!」
「それは完全に自業自得だろうが」
先程までの紳士然とした態度はどこへいったのか。そんな事を思いながら勝が勢いよく足を振り払うとそれに釣られて博光の体が床を転がった。
「…………そもそも何故俺なんだ? 地下の王とは呼ばれているが、それは戦績の話しではなくここでの生活が長いという意味だ。俺が誰かに何かを教えるなんて事、出来るはずがない」
「そんな事はありません」
服の誇りを手で叩き落としながら立ち上がった博光は、一切の迷いも無く言った。
「あなたのバトルは拝見させていただきました。揺ぎ無い自信から来るプレイング。一枚一枚無駄の無いデッキ構築。そして何よりも、たとえ格上との戦いでも失う事の無い闘士。それら全ては私の生徒達には無いモノです。その心意気を、私は買っているのですよ、勝さん」
暖かな笑顔で勝を褒めちぎる博光。その言葉に嘘など無いと言わんばかりに。
だが勝には、その笑顔は逆に胡散臭く、とても見飽きた物に見えた。
「あんたが俺の腕を買っているのは良く分かったが、それでも地下の人間をスカウトする理由にはならない」
「確かにそうですね…………困りました…………」
博光は指を顎に宛がって考えこむと、しばらくして良い事を思いついたのか手を叩いて提案した。
「それでは、とりあえず一ヶ月の臨時教師というのはどうでしょう? そこでの生活が気に入ってもらえればそのまま教師を続けてもらっても構いませんし、気に入らなければすぐにでも学園を去っていただいて結構です。もちろんどちらの結果になってもお給料とは別にスカウト代は払わせていただきます。悪い話ではないでしょう?」
博光の提案に今度は勝の方が考えこむ。
気に入れば安定した職と生活。気に入らなければそのまま金だけ持って消えればいい。こんな美味しい話、疑わない方がおかしい。
「何故そこまで、俺に固執する? 俺を使って何をさせたいんだ?」
獣のように鋭い眼を光らせ、今にも博光の喉元に飛び掛りそういなっている勝。その姿に博光は少し悲しそうな笑顔で勝の眼を見て答えた。
「それはいずれあなたが、この話しをするに相応しい方になっていればお話します」
お互いに目を合わせたまま微動だにしない。胡乱げな目で見つめる勝と目を細めて答えを待つ博光。長い沈黙の末、先に折れたのは勝だった。
「まぁ……いいだろう……どうせやる事もない。精々いい様に利用されてやるよ」
「そうですかっ! ありがとうございますっ!」
勝の返事が余程嬉しかったのか、博光は勝の手を握り、何度も上下に振る。
「では、早速いきましょう。時間は有限ですよ」
「ちょっと待てよ、何処に行くつもりだ」
ハゲた頭を手の平で叩き、「忘れていました」と博光。
「これから行くのは世界最高峰のカードバトル専門学校。それがあるのは海の上なんですよ」
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