第9話 激動の一ターン! ドラゴンデッキVSバニラデッキ

 達美と勝の学園からの追放を賭けた戦いが始まった。


 その戦いを静を始めとしたZクラスの面々や校長である博光が見守っていた。


「ぶっちゃけ…………達美が勝てると思うか?」


 新が重々しくクラスメイトに問いかける。自分が言い出した戦いに関係のない達美が巻き込まれた事に責任を感じているのか、その言葉には不安の色が混じっている。

 その気持ちをおもんぱかってか、静は強く言葉を返す。


「大丈夫ですわ。たとえ先生がどんなに強くても、達美さんは負けません! 負ける訳がありません!」


 手を握り締めて親友を見つめる静。それだけで静が達美をどれだけ信頼しているのかが見て取れる。

 ならば、自分ができることは彼女と同じ。達美の勝利を信じてただこの戦いを見届けるだけだ。


「龍ヶ崎…………必ず勝ってくれよ…………」




「行くわよ先生! 私のターン!」


【達美 手札5→6 マナ0→6】


「私はマナを二つ支払い『龍人の姫巫女ドレア』を召還!」


 達美がカードを選ぶと、鉄扇で舞い踊りながら妖艶な巫女服を着た龍人の少女が現われる。


《龍人の姫巫女ドレア AP1500 SP1》


「このカードは《生贄》に捧げられる時、二体分として扱えるわ。そして発動、《生贄2》!!」


 高らかに効果を宣言した達美の上空から真赤な光が降り注ぎ、それがドレアを包みこむ。そして光の中から地鳴らしのような声が木霊こだました。


「憤怒の力を持つ龍神よ、人柱ひとばしらとなりし少女の嘆きを聞き届け、天地開闢てんちかいびゃくをこの地にもたらせ! 燃やし尽くせ! 『激昂げきこうの龍神ドラグアギト』!!」


 光を引き裂き現われたのは、全身を蒼い鱗に包み込まれた龍。深海のように深い瞳が敵である勝を睨み、全身で達美を覆い守るように降り立つ。


《激昂の龍神ドラグアギト AP2500 SP2》


「いきなりエースを召還か…………」


 一ターンでの切り札カードの召還に呟く勝。その真意に気付かず、達美は満足そうにドラグアギトを仰ぎみる。


「どうですか? 私のエース、ドラグアギト。これからもこの子と私は、この学園で戦い抜き、いずれはプロの世界に羽ばたくんです。それをたとえ先生といえども邪魔はさせませんよ!」


 達美が啖呵たんかを切ると、それに見ていた静たちが歓声を上げる。


「いいですわよ! 達美さん!」

「いきなりエースを召還だなんて、それがしは感服するぞ」

「話しを聞く限りあいつのバニラデッキでAP2500を単純に超えるカードはないはずだ。これで先手を取ったな!」


 その後、達美は特に行動することなくターンを終了させ、勝のターンが始まった。


「俺のターン。ドローだ」


【勝 手札5→6 マナ0→6】


「さあ、どうするんですか先生? たとえ先生と言えども、この高スペックのドラグアギトを易々と超えることはできないはずです。このまま勢いで押させてもらいますよ!」


 自慢げに自分を守ってくれる龍神の鱗を撫でる達美。いつでも戦いにおいて自分の隣にいてくれた最高の相棒。その信頼感は他の追随を許さない。


「お前は何故、自分がここまで落ちぶれたのか理解していないようだな」


そんな一人と一龍の姿を勝は寒いモノを見ているような目で見る。


「一体、何の話しですか?」

「分かっていないならそれでいい。そのまま敗北させてやる」


 見限ったように話しを一方的に切った勝は、達美の反論を許すことなく素早くカードを展開させていく。


「俺はマジックカード《RE:サイクル》をマナを二つ支払って発動。手札のバニラカードを一枚トラッシュに送り、カードを二枚ドロー。そのまま俺は手札のバニラカード三体を召還する」


 迷いのないカード捌きに達美は改めて勝とのレベルの違いを見せ付けられ、一気にキーカードが勝の盤面を埋め尽くす。


《路地裏野良猫 AP1000 SP1 コスト1》 

《不幸しか呼ばない黒猫 AP1000 SP1 コスト1》

《くず鉄キッド AP1000 SP1 コスト1》


 学ランを着たヤンキー風の三毛猫。生傷だらけの黒猫。元気にスクラップの山から出てきた機械人形の少年。それらは勝に背を預けるように立ち、自分たちよりも遥かに巨大な龍に怯みながらもファイティングポーズを取る。


「ですが、たとえどんなにカードを並べても、そのカードたちじゃ私のドラグアギトは倒せませんよ!」

「そうでもないさ。俺は最後に残った1マナを支払い《絆パワー!》を発動する」


 勝がカードを発動すると、三体のバニラカードは全員で手を繋ぎ、その手は光り輝きだした。


「い、一体、何を…………?」

「このカードは、AP1000以下のキーカード一体のAPを俺の場の他のキーカードの攻撃力の合計を与える効果だ。俺はくず鉄キッドを選択し、こいつのAPは――」


《くず鉄キッド AP1000→AP3000》


「キッドのAPがドラグアギトを超えた!?」


 急激な攻撃力の上昇に達美が目を見開いたのも束の間、二匹の猫に投げ飛ばされたキッドが天高く舞い上がると、そのまま急降下。落下の勢いを殺さずに放たれたキッドの会心の一撃が見事にドラグアギトの眉間に突き刺さる。


「ガアアアアアアアアアアァァァァァッッッ!!」

「ドラグアギトッ!!」


 一切の抵抗も許さぬ一撃に為す術なく倒れるドラグアギト。その命が尽きるように龍の体は霧散し、達美の場はがら空きとなった。


「そんな…………ドラグアギトが一撃で…………」


 自分の相棒がいた土を掴み、自分の無策が導きだした結果に達美が歯を噛み締めていると――


「――まだ終わってないぞ」


「へ…………?」


 ――達美が視線を上げるとそこには学ランを着た目つきの悪い三毛猫が木製バットを振りかぶっており、


「にゃあああッッ!!」

「痛ったあああぁぁぁぁぁッ!!」


 そのバットが見事に達美の脳天を直撃する。猫の非力な力で振るわれたとはいえ、痛いものは痛い。その鈍痛に達美は頭を抑えて悶える。


「…………にゃあ」


 だが、達美の不幸はそれまでに留まらなかった。

 達美を心配するように一匹の黒猫が寄ってくる。その痛々しい生傷と可愛らしい風貌に達美の母性が刺激される。


「あらぁ、可愛い……君は私の事を心配してくれるの?」


 小さな猫を抱き上げるために達美が膝を落とすと、黒猫は有無を言わせずに達美の膝に飛び乗りその体を擦りつける。その愛らしさに達美が癒されていると、


「達美さん危ない! 後ろ後ろ!」

「んぅ~~どうしたの~~?」


 静の必死の声に間の抜けた返事を返しながら後ろを振り向く。そこには先程の戦闘の余波を受け、壊れた民家が達美の下へと倒れていた。


「え、えええええぇぇぇぇぇッ!?」


 その様子を見届けた黒猫は動物的な身体能力でその崩落をかわしたが、そんな身体能力が達美にある訳がなく、無様な叫び声を上げながら達美は民家の残骸に押しつぶされた。


【達美 コア10→8】


「どうやら、あれが先生の《不幸しか呼ばない黒猫》の攻撃方法であるな」

「なんつぅ回りくどい攻撃なんだ…………」


 遠くで観戦していた新と信吾が冷静に分析をしていると、民家の残骸から這い出てた達美が自分のコアを確認して初めて攻撃を受けたことを悟っていた。


「あ、あんな攻撃があるなんて…………知らなかったわ…………」

「レジャンドはVR内で行われるカードバトルなため、その攻撃モーションを理解できないこともある。この攻撃も黒猫の数少ない利点だな。まあ、お前に言ったところで意味はないがな」


 勝の徴発的な発言に達美はまた目元を険しくして勝を睨む。


「意味はないって、どういう事ですか?」

「人に聞く前に自分で考えたらどうなんだ。そんなんだからお前は自分のエースを失うんだよ」

「だって…………あんな突破方法があるなんて思いもしなくて…………」

「それを予想して対策を考えるのがカードバトラーだろうが。甘えた事を言ってるんじゃない」


 勝の経験者としての言葉に押し黙るしかない達美は、返す言葉を失い唸っていると、その様子に勝は溜息を吐く。


「俺に勝負を申し込んだあいつもお前も、全員甘すぎる。本当の地獄や悲しみを知らず、ただ自分の境遇に文句を言うだけ――ふざけるのも大概にしろ」

「ッ……………………!」


 達美は勝の言葉に別の意味で言葉を失った。


 底冷えするまでに冷たい言葉。それを感じれるのは、勝がここよりも酷い所にいたから出せる気迫だと生物的に悟ったからかもしれない。だが、それでも達美は声を振り絞るしかなかった。


「確かに私たちには勝先生の生きてきた世界は分かりません。でも、それでも、私は――私たちは負ける訳には行かないんです。前に進むために!!」

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