第10話 本気の証明 完全体ドラグアギト!

「私のターンです! ドロー!」


【達美 コア4→10 手札4→5】


「まずはマナを二つ支払ってマジックカード『龍人との誓い』を発動します。これによりトラッシュにある『龍人』と『龍神』を手札に戻します。私はドラグアギトとドレアの二枚を手札へ」


「飽きもせずにまたそいつか。学習しないな」


「どうでしょうね!」


 達美は不敵な笑みを浮かべながらカードを一気に展開し、新たな盤面を作り出し始めた。


「まずはッ! 『龍人の姫巫女ドレア』、続いてコスト2の『龍人の賢者ドラガス』に『龍人の鍛冶師ドム』を召還します」


 舞いを披露しながら召還されたドレア。その後ろを固めるように現われた分厚い書物を持つ知的な老龍人のドラガス、大槌おおづちを抱えた屈強な鍛冶師ドムが達美の目の前に現われる。


《龍人の賢者ドラガス AP1000 SP1》

《龍人の鍛冶師ドム AP1000 SP1》


「すげえぜ龍ヶ崎! 一気にコスト2のキーカードたちを召還したぜ!」

「先程のターン、龍ヶ崎殿はマナの消費が少なく、フィールドのカードも無かったために大量のマナを確保できたのが功を成したのであろうな」


 観戦席が大量のキーカードの召還に沸きあがるが、勝は変わることなく達美を冷めた目で刺すように見ていた。


「それがお前の本気か?」

「いいえ、これからです! 私は二体分の生贄となるドレアで『生贄2』を発動!」


 達美の効果発動の宣言と同時に空から赤い光がドレアに降り注ぎ、ドレアはその光に身を預けるように全身で受け止める。


 次第にドレアの姿は光の中に消え、そこには蒼い鱗を持つ一体の龍が達美の頭上を飛んでいた。


「三度現われろ! 《激昂の龍神ドラグアギト》!」


「グルワアアアアアァァァァァァァァァァッ!!」


 再び現われた達美のエース、ドラグアギト。気高さの中に気品を感じるような飛翔は観客を圧倒し、敵である勝にはその名が冠する通り怒気の籠もった咆哮をお見舞いして主である達美の下へと舞い降りた。


「ドラグアギトの効果。このカードが召還に成功した時、相手のカード一枚を破壊します。破壊するのは…………やっぱり、ドラグアギトを倒した《くず鉄キッド》です!」


 達美がターゲットを定めると、ドラグアギトはその大顎おおあごを開け、紅蓮の炎を溜め込み始めた。


「いっけぇぇぇッ! 《れんごくだん》!!」


 達美の叫びに従いドラグアギトはその烈火のごとく燃え盛る炎弾をキッドに向けて放った。


 元のステータスに戻ったキッドにその攻撃をかわす術はなく、技名のままいつまでも消えることのない地獄の業火に晒されたキッドの体は灰を残す事なく消え去った。


「今度はしっかりとそのカードの効果を使えたみたいだな。まぁ今さら過ぎるがな」

あおっていられるのも今の内です! 続けて私はドラガスとドムの二体を『生贄2』に捧げます!」

「何…………?」


 勝がいぶかしげに目を細めたその時、ドラグアギトの召還と同じように赤い光がドラガスとドムを包み込み、その体を光の中に溶かしていく。二体の影のシルエットは徐々に形を変え、巨大な龍のシルエットを映し出した。


「血を欲する龍神よ、今こそ智を蓄えし賢者と強建ごうけんなる鍛冶師の力を受け継ぎ、欲望のままにその力を振るえ! 暴れまわれ! 《渇望かつぼうの龍人ドラギオン》!!」


 荒れ狂うように光を引き裂き現われたのは、その全身を刺々しい黒い鱗に覆われた龍。


 鋭利に生えた翼は、まるで幾つもの剣が合わさったよう。刃のように鋭い鉤爪で地面を抉りながら降り立ったドラギオンは、まるで獣が毛を逆立てるように全身の鱗を震わせて勝を威圧する。


【渇望の龍神ドラギオン AP2500 SP2】


「これがお前のもう一枚の切り札か…………確かにこの状況は予想外だな」


 だが、それでもと勝は心の中で次の自分の動きを想像する。


 新たな龍神、ドラギオンのステータスはドラグアギトと遜色そんしょくない。ならば、また前のターン同様にコンボで確実に潰していけばいい話だ。


 そう勝の中で結論が着いた時――


「ッ…………!?」


 ――達美の口角がわずかに釣りあがったのが見えた。


「私は生贄に捧げられたドラガスとドムの効果を発動します!」

「生贄に捧げられる事で発動する効果だと?」

「その通りです、この二体は生贄に捧げられた時、特定のカードをデッキから手札に加える効果を持ちます。その効果により、ドラガスでマジックカードを、ドムでスキルカードを手札に加えます」


 デッキから選ばれた二枚のカードが宙に浮かび上がる。達美はそれらのカードを手に取ると、その中の一枚を選び取り高々と掲げて勝に宣言する。


「このカードで私のドラグアギトは限界を超えます。見てください先生ッ! これが私の――私たちの本気です! スキルカード発動『龍人族の想い』!」


 達美がカードを発動すると、達美の持っていた手札二枚と召還したばかりのドラギオンが青い光の粒子となり、ドラグアギトの周囲を守るように飛び回りだした。


「ドラギオンの体が光になったと言う事は…………お前、まさか…………ドラギオンを生贄にしたのかッ!?」


 あまりの出来事に勝が声を張り上げると、それに対して達美は自慢げに胸を張った。


「そうです! このスキルカード『龍人族の想い』はコストが0の代わりに任意の数の生贄を必要とする特殊なスキルカードです。その効果は、生贄に捧げた数だけ対象カードのAPを500アップとSPを2アップする効果――ですが、それだけではありません」


 意味深なことを言う達美に勝が眉をひそめると、論より証拠と言わんばかりにドラグアギトに異変が起こった。


「グルルルルガアアアアアアァァァァァァァァァァッッッ!!」


 ドラグアギトの周りを飛び回っていた光の粒子が突然ドラグアギトの体内へと入っていき、それに呼応するようにドラグアギトが雄叫びを上げ始めた。


「これが、このカードの本当の力です」


 また意味ありげな達美の発言にドラグアギトの変化に目を奪われていた勝は改めて達美に視線を戻して警戒する。


「ドラグアギトの中に入っていったのは生贄に捧げられた者たちのです」

「想い…………だと?」

「私のデッキには切り札となる龍神カードはドラグアギトとドラギオンの二種類しかありません。それでも私のデッキやドラグアギトは私の想いに応えてくれました」


 胸に手を当てて今までの戦いを達美は思い返しながら続ける。


「このカードはその気持ちを代弁したカードです。今の自分ではこの危機は救えない。それでも自分が誰かの土台となり、役に立てるならそれはではなく、なんだって思わせてくれるんです」


 真剣な眼差しで語る達美。

 それに応えるようにドラグアギトも変化は体にも起こった。 


 宝石のように輝く蒼い鱗は紅蓮に染まり、美しく生えた翼はその羽一枚一枚が激しく燃え出し、ジェットの推進力を得たドラグアギトがそれに舞い上がった。


「このカードには追加効果があります。このカードの発動の際に生贄に捧げたカードにキーカード・マジック・スキルの三種類全てが含まれているなら、対象カードは破壊されません」


 完全なる耐性を得たドラグアギトの輝きは、昼間に設定されたヴァーチャル映像にも負けぬ程に燃え上がり、その姿はまるで、空に輝く太陽そのもの。


【完全体ドラグアギト AP4000SP8 破壊耐性付与】


 その太陽の威光に晒された勝のキーカードたちは今度こそ恐怖を感じたのか、その身をプルプルと震わして可愛らしく小さく鳴いた。


 だが、そんな可愛らしい姿も本気全開の達美の前では無力だった。


「行くわよドラグアギトッ! これが私たちの本気ッ《完・全・滅・罪・弾パーフェクト・メガ・クライム・バースト》!! 」


 翼の炎が天空を支配しながら拡がり、ドラグアギトの大顎から漆黒のブレスが放たれた。その威力は通常のモノとは比べ物にならない破壊力を持ち、ブレスを受けた黒猫の姿は一瞬にして消え去った。


 太陽の如き威力を非力な猫が弱める道理などどこにも存在しない。ブレスは黒猫を焼却した後、その後ろに立っていた勝すら燃やし尽くさんと襲いかかるが、寸での所でそれを勝のコアが庇った。


【不幸しか呼ばない黒猫、滅却。勝 コア10→3】


「がッ……はッ……」


 コアが大幅に削られた勝は、あまりの威力と熱量に膝を落として悶える。


 完全体となったドラグアギトの攻撃ですら勝の闘士を滅ぼすことは叶わないが、それでも現実と変わらないダメージを負った勝の膝はガクガクと震え、立つことはおろか手も地面に落とし、そして、


「ぐッ…………うぅ…………」


 遂に勝は自分の体すら支えることができず、無様にその身を投げ出した。

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