第11話 カテゴリーとプライド
「す…………すごい、ですわ…………」
完全無欠と思われた勝を、完全体ドラグアギトで圧倒する達美。
その姿に静はおろか観覧席にいた面々は思わず声を失ってしまう。
それほどまでの破壊力が今のドラグアギトにはあった。その事実が嬉しくて、達美は腰に手を当てて大声で笑い出した。
「ハッハッハッ! どうですか、私たちの魂の一撃は? この完全体ドラグアギトに勝てるカードなんて、先生のSPRカードであるホワイト・クリア・ドラゴン」
ですが、達美は言葉を続ける。
「あのカードにも弱点が存在します!」
「「「「弱点ッ!?」」」」
達美の言葉に観戦していた静たちが一同が驚きの声を上げる。
最強の除去能力と圧倒的なSP5の勝の切り札、ホワイト・クリア・ドラゴン。
非の打ち所のないそのカードの弱点――
「ずばり、カテゴライズされていないカードの為にサーチが難しいことです!」
「「「「……………………」」」」
達美の思わぬ答えに一同は揃って雷に打たれたような衝撃に襲われた。
「ふっふっふっ、驚きのあまりみんな声も上げれないみたいね」
「いや……そうじゃなくて~〜……」
一同の反応に対して自慢げに胸を反らす達美に、静が申し訳なさそうに言った。
「それくらい分かっていますわよ?」
静の言葉に今度は達美が雷に打たれた衝撃で黙った。
カテゴライズとは、言葉の通り、カードの種類、種族、名前で統一化されているカード群の事である。
カテゴライズをする事でカード同士の相乗効果を生かすためのヒントにもなり、それらのカードの特徴を見ればすぐに相性の良いカード群を見つける手助けになる基本知識だ。
それらもデッキの構築方法の一つの理由。だが、一番の理由はカードのサーチを容易にするためだ。
「現代のカードバトルにおいてカードのドローで逆転という試合はほぼ存在しない。
それはカードを引き当てるよりも、特定のカードをサーチし、手札を操作する方が勝率がいいからだ。だが、好きなカードをサーチできるカードなどそう存在しない。だからこそ、デッキの中身を特定の名前や種族や色で統一することで、カードのサーチ先を特定する」
黙りこんだ達美に代わってカテゴライズの有用性を説いた新。信吾がそれに続くように胡乱げな目を達美に向けながら続ける。
「某たちは龍ヶ崎殿から何度も勝殿の話しを聞かされたから分かっていたが……もしや、龍ヶ崎殿は最近気付かれたか?」
「うッ!?」
信吾に図星を突かれ、達美は観覧席から目線を逸らす。
そして、不自然な口笛を吹いた。
「いや、今時口笛で誤魔化すって古いぞ!」
「古いですわ」
「うむ、古いでござる」
「う~~ん、古いね~~」
「うっさいわね! 仕方ないでしょ! 私が見惚れたのは試合の内容であって、カードの特徴じゃないんだから! てか、校長先生まで言わないでくださいッ!」
顔を真赤にして達美は声を張り上げ文句を言おうとした、そのとき――
「――なかなかの攻撃力だ」
――どこまでも低く、小さく、まるで呟きのような声に達美が肩を震わした。
「破壊耐性に圧倒的なまでのAPとSPの切り札。それを出すまでの同カテゴリ同士の相乗効果の合わせ方も良かった。お前がどれほどその『龍神デッキ』を使ってきたかが分かるくらいに」
それでもどこまでも心の中を恐怖で支配しようとしてくる声が、「それでも」と言葉を続け、達美はゆっくりと後ろを振り向く、
「だが――それがどうした?」
そこには幽鬼のように揺らめきながら立ち上がる勝が淀んだ瞳で脅える達美を見据えていた。
「そんな…………あの攻撃を受けてまだ無事だなんて…………」
「あれぐらいの攻撃や苦痛。今まで何度も受けてきた。たとえ俺の体は悲鳴をあげても、俺の心はあれぐらいでは響かない、感じない」
レジェンズのバトルダメージは現実のものと変りない。もちろん、現実に戻ればそのダメージは何もなかったように回復するが、それでも精神的疲労がプレイヤーを襲う。
今の勝は、コアへの合計ダメージSP7をまともに受け、一度は地に伏せた。そこまでのダメージに平然としていられる勝の姿に達美は恐怖を覚えた。
「俺はセットしてある聖域『スクラップ・フィールド』の効果と破壊された加護の効果を発動」
「ッ…………!!」
プレイヤーを守る聖域、常時発動している効果と破壊されたコアにランダムに付与される『加護』の恩恵を勝は同時に得た。
「『加護』の効果を処理。破壊された七つのコアの中にあった三つの加護、『ドロー』、『ピーピング』、『リバイブ』を発動」
《ピーピング 相手の手札を全て確認する》
《リバイブ トラッシュにあるバニラカードを一枚場に出す》
《ドロー カードを一枚ドローする》
「この効果により、トラッシュにある《くず鉄キッド》を蘇生し、一枚ドロー。ピーピングはお前の手札が無いために不発となる」
【勝 手札3→4 くず鉄キッド蘇生】
静かにナレーションが響き、達美が顔をしかめる。
「そして聖域の効果、俺のバニラカードが戦闘によって破壊された事により、俺はカードを一枚ドローする」
【勝 手札4→5】
「お前がバカみたいに攻撃をしてくれたおかげで、俺の手札は初期枚数に戻った。今のドローでホワイト・クリアを引いたかもな」
「くッ!」
悔しそうに歯を噛み締める達美に、追い討ちとばかりに勝が言葉で殴りかかる。
「カードバトルにおいて、プレイヤーは自分のプライドよりも最適なプレイを優先するものだ。だが、お前はたかだか一枚の切り札に固執した。だからこそ、俺に逆転の芽を与えた。とんだプレイングミスだ」
「……プレイングミス……なんかじゃありません」
達美の振るえが止まると、達美は先程まで恐怖心すら抱いていた勝に強い眼差しを向ける。
「レジェンズは元々、戦争の道具でした。戦いのために造られ、それがEスポーツになるまでに何年もの時間をかけました」
達美は自分の龍神を仰ぎみて語り続ける。
「しかし、それでも人々はそれを戦いの道具であることに変りないと思っていた。その考えを一新したのがレジェンズのプロリーグです」
「それぐらい知っている。戦いを競技という形にすりかえることで、カードの兵器化運動を止めた」
「そうではありません。人々はカードで戦うことではなく、競い合う楽しみを知ったんです」
「…………楽しむ…………だと…………」
達美の言葉に今度は勝の目元が険しくなった。だが、それごときでは達美の語りは止まらない。
「父が言っていました。『対戦相手も観客も、全ての人を魅了し、笑顔にする事こそが大事』だと。だから、私は決めたんです。このドラグアギトとどんな戦いでも人を楽しませる戦いをすると。だから、プレイングミスじゃありません!」
強く言葉を締めくくる達美を勝は静かに観察し理解する。
その目に宿った想いも、手に籠もる闘士も、全て本物だと。
「そうか――」
その上で勝の気持ちは変らず、達美の熱い言葉を冷たく言い捨てた。
「――くだらんな」
「ッ…………!?」
「カードバトルは勝てなければ意味が無い。負ければ全てを失うからだ」
その言葉の重みを寄せるように暗く淀む瞳で勝が語る。
「それなのにお前は、対戦相手も楽しませる? 人を魅了する? 叶わない夢物語ほど寒々しいものはないな」
「なら、何で先生はバニラカードなんて使っているんですか!? 先生にも先生のプライドがあるからじゃないんですか!」
「俺とお前を一緒にするな」
そう切り捨てると、勝は話しは終わったとばかりに空を掴み、カードをドローした。
「これ以上話しても無駄だ。最後に、本当の切り札の使い方を、お前に教えてやるよ」
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