二限目 初授業! 勝のプレイと達美のプライド

第7話 遊学生徒たちの……日常? 

 メガフロート遊源島。通称カードアイランドと呼ばれるこの島は、この島はその名が示す通り世界的Eスポーツカードゲーム『レジェンズ』の開発及び学ぶ為に国が造った島だ。


 この島を象徴する『国立遊源カードバトル専門学校』通称遊学には、およそ千人を超える生徒を有したマンモス校であり、生徒たちは日々カードバトルの勉強に励んでいた。


 そして今日も生徒たちはカードバトルの為に特訓を重ねていた。



「もう…………カードバトルやめてぇぇわ」


 そんな学内の端にある一つのマンションの食堂で弱音を吐く少年たちが一人いた。


「こんなクラスにいても先はねえし、俺もここを辞めて普通の学校に転入してやろうか」

「そんなこと言うでない…………っと言いたいが、それがしも最近はそんなこと考える方が多い…………」


 少年たちは同時に溜息を吐いて水を飲もうとした時、


「何たるんでるのよあんたら!」


 後ろから降りかかってきた怒声に驚き、またも同時に水を吹いた。


「お、驚かすなよ龍ヶ崎!」


「し、心臓が飛び出すかと思ったであろう…………」


「あんたらがバカなこと言ってるからでしょが! 剣木つるぎはともかく武田たけだまでそんな弱音を吐くわけ!?」


 二つに結んだ金髪をなびかせて青を基調とした制服を着た少女――達美が料理を持ちながら睨んでいた。


「仕方ねえだろうが。学園も俺たちZクラスにはまともな教師をよこさねぇしよ。そんな状況でどうやって強くなれってんだよ」


 そういうのは達美と同じ青を基調とした制服を着崩したオールバックの少年――剣木新つるぎあらたは面倒くさそうに目を背け、


「それに本来全てのクラスに支給されるはずのカードパックも某たちのクラスには十分の一しか支給されなぬ。そんな量でバトルに勝てるカードなど出るわけなかろう」


 それに追従するように同じ制服の下に袴を着た七三分けの古風な印象を匂わせる少年――武田信吾たけだしんごが続いた。


 だが、そんな反論にも屈することなく達美は輝いた目で新と信吾に力説する。


「そんなことないわ! 諦めなければ最後にはデッキが勝利を運んでくれるのよ! それに弱いカードだからと言って使えないカードなんてないの、どんなカードにも価値がある。それを私はあの先生のバトルで改めて理解したんだから! あのバトルは本当にすごかったわ! よく聞きなさいよ、あの時のバトルはね…………」


 拳を強く握り遠くを見つめて語りだす達美に二人はまた大きな溜息を吐く。


「またその話しかよ、これで何回目だ?」


「うぅむ、恐らく三日間で十回は超えたはず」


 達美が勝と出会ってから三日が経っていた。


 その間、達美は勝のことを自分のクラスメイトたちが飽きるほど話し続けていた。しかもその内容は一語一句同じ内容で達美と仲の良い静でさえも苦笑いを浮かべるほどだった。


 そしてまたもや達美が勝のバトルの内容を話そうとした、その時だった。


「きゃあああああああああああああ!?」

 

 突然、隣の外の物置から悲鳴が響いた。


「これは…………静の声!?」

「何かあったのか?」

「分からぬが、とりあえず行くぞ」


 三人が急いで外へと飛び出し、静の声が聞こえたマンションの外にあるカード倉庫へと直行した。そこには尻餅を付いて震える静の姿があった。


「静! 良かった…………無事みたいね。一体、何があったの?」

「た、達美さん…………あ、あれ…………」


 静が震える指で倉庫内を指すと、そこには大量に保管されていたカードが山のように重なり、そのカードの山の中でもぞもぞと動く謎の影があった。


「な、何よあれ…………学内には動物なんていないでしょ?」

「お前らは下がってろ、信吾」

「うむ、承知した」


 達美と静の二人を倉庫から離し、信吾と新の二人が恐る恐る倉庫の中に入る。

 真っ暗な倉庫でカードの山がゆっくりと上下の動きを繰り返す度に二人は脂汗を流し、唾を飲む。その姿に達美と静もお互いに寄り添いあいながら見守っていた。


 そして、新と信吾がそこにいる何かに触れられるほど近づくと、二人はお互いの目を見合い、


「「はああああああああッッッ!!」


 同時にその生き物に飛び掛った――が、二人がその生き物に触れる事はなかった。


「「ぐはあああァァァァァァッッッ!!」」


 二人はその生き物から繰り出された蹴りを食らい、その勢いで倉庫から追い出されたのだ。


 そして、突如カードの山が膨れ上がったかと思うとその影はどんどんと大きくなり、ゆっくりと達美と静の方へと向かってくる。


「きゃああああッッッ! こ、来ないでえええぇぇぇぇぇぇ!」

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい! これからはもっと野菜も食べるし、お金も大切に使いますから、勘弁してくださいいいいいぃぃぃぃぃぃぃ!」


 二人はお互いの体を強く抱きしめながら声を上げるが、影の動きは止まることなく二人に迫ってくる。その姿に二人は最後の抵抗とばかりに目を閉じ、そして――


「あだッ!」

「痛いッ!」


 ――二人の頭を何か硬いものが叩いた。その鈍痛に達美が目を開くと、目の前にいた以外な人物の出現に今度は声も上げれぬほど驚いた。


「お前ら、朝から人の寝込みを襲うとはいい度胸だな」


 しわしわのスーツの至る所にカードを貼り付けて達美を睨むのは、三日前に達美に感動を与えるバトルを魅せた張本人、王道勝だった。

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