第13話 勝に求めるモノ
消滅波を達美は容赦なく達美を襲い、勝負に負けないものの精神崩壊寸前の攻撃に見舞われる。
そう、達美は思っていた。
いつの間にか、自分が気を失っていた事に気付いた時には。
「……みさ…………た……さん……」
全身の気だるさと嘔吐感に襲われながら、達美は誰かの声に目を覚ます。
「達美さんッ! 気付かれましたか!?」
「…………静……ちゃん……」
達美が目を開けると、そこには目元に涙を溜める静の顔が見えた。
倒れた自分を介抱するために膝枕をして容態を見ていたと理解すると、達美は静の後ろにVRではない現実の空が広がっていることに気付いた。
「そっか……私…………負けたんだ……」
切り札はあっけなく破れ、勝の切り札による追撃。
絶望的なあの状況を、手札0の自分が打ち崩せるはずものない。
――自分は負けた。そう考えるのがいたって当り前だった。
だが、達美の思いとは裏腹に、目の前の静は少し微笑んだ。
「いいえ、違いますよ。試合は中止になったんです」
「えッ?」
静の信じられない言葉に達美は慌てて自分のデッキケースの液晶画面を確認する。
そこにはエラーを表す赤い文字で『校長権限により、試合は中止となりました』と記載してあった。
それでも何が起こったか分からず達美は困惑の色を浮かべていると、
「お二方、素晴らしい戦いでした」
拍手と共に賞賛する遊学の校長、博光が達美の下へとゆっくりと歩み寄ってきた。
「特に達美さんの勝気な姿勢、切り札に対する信頼は並みのプレイヤーにはできない貴重な才能です。ぜひ、これからも精進していってください」
「はっ、はいっ!」
「うん、言い返事ですね。後は…………」
達美の返事に博光が満足そうに頷くその背後、達美の対戦相手であり、本来なら勝者であった勝が刃を突き立てるように博光を見ていた。
「そんなに怒らないでくださいよ、勝先生。私にも私の考えがあるのですから」
「何が考えがある、だ。狸じじい、あんた、最初からこうするつもりだったんだろ?」
勝の発言に達美はもちろんクラスメイト全員が目を見開いた。
「お前はわざわざ裏舞台の俺をこの学園に招き、このZクラスの臨時教師にしようとしている。それならば、俺が出した無茶な退学バトルを止めるはずだろ。それをしなかったのは、お前は俺に知っていて欲しかったからなんじゃないか? このクラスの実力を」
推論の答えを勝は変わらず刃のような目を突きつけて博光を待つ。
二人の会話にZクラスの面々も息を呑んで待ち、ようやく博光が言葉を発した。
「…………半分正解、と言ったところですね」
「……………………」
曖昧な答えに納得していないと変わらない目つきで語る勝に、博光が続ける。
「私は……いえ、遊学は兵器であったカードを、より競技化、玩具化するための手段として創設しました。競技化という面では今の学風で問題はありません。ですが…………」
語りながら博光は、悲しそうにZクラスの寮を見る。
「玩具化に関しては、私の思い描いていたものと違っていました。遊学が世間から認められれば認められるほどに、遊学は強さだけを求める学風へと変わってしまったのです」
何か思い耽るように目を細める博光の心中を勝は推し量ることはできず、黙って話しに耳を傾けていた。
「私は…………あなたにこの学校を変えていただきたいのです。『どんな弱いカードにも役割がある』。そんな当り前の理想論を示せるあなたこそ、この役割にふさわしい。そして、まずはこのZクラスを変えていただくために、無理難題な賭けでも私はあなたと龍ヶ崎さんのバトルを許可しました」
「俺にこいつらの力量を分からせるためか。小賢しい」
勝が悪態を吐くのを笑って受け流す博光。すると、
「ふざけるなっ!」
それに反対するように新が顔を真赤にして声を上げた。
「あんたら大人の事情なんて知ったこっちゃないがな、今の龍ヶ崎を見ろよ。誰がこんな風にしたか分かってるのか!」
新に促され博光が目を向けると、
未だにバトルでの精神ダメージで静の膝元に寝ている達美の姿が映った。
達美自身は動こうともがいているが、それも叶わずビクビクと体を震わしている状況。
それだけ達美への精神ダメージは大きかったのだ。
「仮にも先生になるような奴が、生徒一人にここまで本気でするなんて、おかしいだろ。そんな奴に俺たちのクラスを任されたくない!」
博光が視線を新からその後ろの達美まで移す。
そこには言葉はなくとも意見は新と一緒と言わんばかりに、静と信吾がじっと博光の顔を覗き込んでいた。
その意見を目で受け取り、一度息をしっかり吸うと、博光は迷いの無い目で言い切った。
「本気の何が悪いのですか?」
「「「ッ…………!?」」」
「言わせて貰えば、今までの臨時教師であなた方に向き合って、戦って、否定してくれる教師はいましたか? 自分が憧れたり、嫌悪したり、何かを教師に思ったことはありましたか? 無いでしょう?」
その言葉に達美を含めたZクラスの面々は、今まで来た教師の名前や行った授業内容を思い出そうとするが、そのどれも頭の片隅にも無かった。
博光の言葉通りで驚く彼らに、今度は物腰の柔らかい表情で博光が語りかける。
「少なくとも私は、そんな記憶にも残らない教師よりも、最悪の教師が居た方が学校生活は面白いと思いますよ」
そこまで言うと、博光は勝の肩を叩き、Zクラスの生徒たちに笑顔を向けた。
「今日のところは勝先生に学校を変える詳細を伝えるので共に帰ります。が、明日は定期試験を受けれるようにしますので必ず試験会場に来てください。それでは」
博光が踵を返して校舎に歩き出し、それに着いて行こうと勝が歩きだそうとした時、
「待って……ください……」
弱弱しいかけ声に勝は足を止め首だけを動かして後ろを見やる。
そこには、静に支えられながらもなんとか立ち上がる達美の姿があった。
「…………なんだ?」
「はぁ……はぁ……すぅ……はぁ……」
荒い呼吸を繰り返しながらも、なんとか息を整え、勝の正面から言い放った。
「次は…………負けませんッ…………!」
「ッ…………!」
達美の言葉に、勝は大きく目を見開き言葉を失う。
――アカネ……?
ボロボロになりながらも、信念と情熱に真っ直ぐな達美。
その姿が一瞬だけ、勝の記憶にある人物と重なったから。
「……………………」
勝の達美の宣誓をまるで無視するように、再び歩き出した。
達美たちから見えず、それが達美の所為かは分からない。
だが確かに、勝のその時の表情はどこか嬉しそうだった。
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