第18話 魔法バトラー参上?

 定期試験当日の体育館。


 先日の夜に置手紙だけを残して寮を出た恵奈を心配した達美と静が体育館を走り回っていた。


「静ちゃんッ、恵奈先輩は?」


「はぁ……はぁ……駄目です、どこにもいませんッ」


 小心者の恵奈が居そうなな所を片っ端から捜し回った二人。


 体力も底を尽き、二人は息を切らして体育館の壁に背を預けていた。


「やっぱり……昨日の夜にこの島を出て行かれたのでしょうか……」


「だ、大丈夫よッ! あんなに訓練してたじゃないッ。きっと緊張でお腹の調子でも悪いのよ!」


「そ、そうだといいのですが…………」


 弱音を吐く静をなんとか励まそうとする達美。


 だが、そんな達美の頭の中にも嫌な想像が広がっていく。


 昨日から出て行き、朝も顔を見なかった。


 もしかしたら、本当にいなくなったのかと。


 ――必ずいる、そうに決まっている!


 達美はそんな想像を振り払うように心を鼓舞し、もう一度走り出そうとした、その時だった。


「ん? 何よ、あの連中」


 達美の言葉に釣られて静も視線を上げると、そこには何かを囲って写真を取る男たちの姿があった。


「うえぇぇぇ……何の騒ぎよ、気持ち悪い……ねぇ静ちゃん?」


「……………………」


 興奮しながら感嘆の声を上げる男たちに嫌悪感を込めた視線を送る達美。


 だが、静はチラッと見えた男たちの中心を見て固まっていた。


「静ちゃん? どうしたのよ?」


「あ、あ、あれ? えっ? まさ……おっおっおっ……」


 意味のない言葉を連呼しする静。


 その様子に何があるのかが気になった達美は、好奇心を武器に男たちの壁を通り抜ける。


 そして――


「へッ…………は?…………」


 達美も同じく言葉を失い目を丸くした。


「はぁい! 魔法バトラー・エナ! 参・上・です!」


 そこには自分たちが捜していた少女、恵奈の姿があった。


 だが、達美が驚いたのはその事実ではない。その格好だ。


 魔女のような三角帽子。つま先の長いブーツ。


 胸元が大胆に開き、短いスカートを履いた妖艶な服を纏っていた。


 純黒のマントに合わせるように全身を黒を基調としたその姿は、まるでおとぎ話に出てくる魔女そのもの。


 そんなコスプレ服をあの小心者で怖がりの恵奈がノリノリで着ていたのだから、静が言葉を失う訳だと達美は勝手に納得する。


「恵奈……先輩……? 何してるんですか?」


「ちっちっち……違うよ~。私の名前は魔法バトラー・エナ! 史上最カワにして、最強の…………!」


 名乗りを上げようと達美の方をノリノリで振り向く恵奈は、そこで初めて知人に自分の姿を見せた。


 少女のような元気満点だった恵奈の笑顔はみるみる凍りつき、脂汗を額に滲ませる。


「タ、ツミ、チャン……? イツカラ?」


「えっと……魔法バトラー? エナ参上のところから……です……」


 片言で話す恵奈の姿に、達美もなぜか見てはいけない物を見た気持ちになり頭を掻く。


 そして、次の瞬間、


「きゃああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッッ!!」


 モンスターにも引けを取らない恵奈の絶叫が轟いた。

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